Scene Y|観測者たちの読了
淡い光の降る空間――
そこは、あらゆる物語が一度は通る、“読了の間”。
中心には長い円卓、その上には一冊のノートが静かに置かれていた。すでに全ページは綴じられ、最後の余白にまでインクが染み渡っている。
その周囲に、五人の“観測者”たちが集っていた。
人ではない。けれど人の形を模して、それぞれの椅子に腰掛けている。
目元を仮面で隠した者、星の形をした影のような者、煙のような輪郭しかない者――その存在すべてが、“語られること”を拒んでいるかのようだった。
それでも彼らは、確かに“読んで”いた。
ロロという語り部が紡いだ、全ての物語を。
「……ふーん。いいじゃん、最後の“影”との対話。燃えたよ。うん、あたしは好きだな」
金属の指輪をつけた観測者が、ぽんと手を打つ。
「でも甘い。甘すぎる。電子の大魔女の存在がもっと前面に出ていれば、彼の“悲劇性”がより深まったはずだ」
顔を仮面で隠した観測者が、つまらなさそうにノートを指で弾く。
「悲劇に深みは不要だよ。“気づかないまま幸せに書き続ける”なんて、美しさの極致だ。僕はこういうの、嫌いじゃないね」
ゆったりと煙草をくゆらせる影のような者が、くすくすと笑う。
「ほら、そこなんだよね。“気づかない”ってのはね、“祝福”なんだ。神様をやめた子に送られた、ささやかなエンディング」
「語り部ってのは、つまり檻の中の王様だろ? それでいいのかって思うけど……でもまぁ、彼は彼なりに、納得してるみたいだし」
テーブルに足を乗せながら、星のような観測者が呟く。
ノートのページが、ふと風に揺れた。
それは、どこかの誰かが――まだ“読んで”いる証だった。
「……さて、じゃあ次はどの物語を読む?」
「うーん。しばらくは、いいかな。これはちょっと……重すぎた」
「そんなこと言って、どうせまた誰かの“灯”を観測したがるくせに」
「だって、観測者だからね」
誰かがクスクスと笑い、誰かが深く頷いた。
ロロの物語は、彼らの中に収まり、ひとつの“観測”として確かに刻まれた。
それは“物語の終わり”ではなく、“読了されたという事実”。
静かに灯りが消える。
観測者たちの影が、ひとつ、またひとつと薄れていく。
ただ、ノートの上にはひとつの言葉だけが、静かに残されていた。
――完。
それは、確かに“物語だった”という証明。
誰かの人生が、誰かの筆で、語られ、読まれたという記録。
そして今、この場所もまた――
次の“灯”を迎えるために、静かにページを閉じた。




