Extra | 電子の大魔女と最後の観測
空間がふわりと歪む。鈍い振動とも呼べぬ、弱いけれど確かな震え。
その中心に――白いうさぎのぬいぐるみの姿をしたリルが戻ってきた。
だが、ロロはもうそこにはいない。
ただ、書きかけのノートだけが、静かにページを風にめくらせていた。
「ただいま偉大なる電子の大魔女様」
「おかえり、リル」
その声は、リルではない別の何者――
暗がりの奥から響いたのは、低く、静かで、奇妙な安心感と不気味さを同時に孕んだ声。
その声の主は姿を見せず、ただ響くだけ。
しかし確かに、世界を支配する何かであることは明白だった。
「ロロは、よくやったよ。
僕が用意した“語り部”という器に、きちんと収まってくれた」
リルは何も言わない。ただ、ゆっくりとノートを閉じた。
「彼は、神だった。創造者だった。 でもそれでは、物語の中に“入る”ことができない。
だから、僕は閉じ込めたんだ。 電子の海の中に、“記す者”として」
闇の中で、ふっと笑う声がした。
「語り部は、その物語に“存在”しなければならない。だったら、ロロは僕によって物語を綴り続ける存在となり、結果としてこの僕への語り部となった」
リルは一度だけ、顔を上げる。
「彼は気づいてるのでしょうか?」
その言葉に、電子の大魔女は、さぁ?と答えた。
「解らない事がある方が解る事も増えるでしょ」
ノートの中から、一筋の光が立ち上る。
新たな物語が、またひとつ芽吹く。
それは希望か、祈りか、それとも忘却か。
電子の大魔女の声は、最後にもう一度だけ響いた。
「さあ――ページをめくろう。次の、君の物語を」




