表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第十一話:境界に咲く灯
38/45

Scene 2|忘却の旋律、蘇る名

空間の奥から、微かに“音”が揺れていた。

それは風のようで、でも確かに耳の奥に触れる“誰かの旋律”。


ノートを抱いたまま、ロロは立ち尽くしていた。

胸の奥が騒ぎ出す。言葉にならない焦燥。名前のない痛み。


「……ずっと、聞こえてたんだ」


口をついて出たその言葉は、自分でも意識しないままに響いた。


──どこかで呼ばれていた。

──思い出すのを、ずっと待っていた。


その“誰か”の気配が、空気の振動となって、ロロの中を走る。


彼は目を閉じた。

頭の奥に残る、ノイズのような記憶の断片。

名前のない声。


──いや、ある。ずっと、あった。


それは旋律と共に在った名。

忘れてなどいなかった。


「……響音」


声にした瞬間、胸の奥が強く鳴った。


世界の色が、一瞬だけ揺らいだ。

そして音が溢れる。


「……やっと、言えたね」


どこか懐かしく、けれど確かに“今ここにある”声が、空間に現れた。

その声の主──“彼”がいた。


ヘッドホンをかけた少年。

その姿は霧のように淡く、それでいて輪郭は凛としていた。


「君が俺を呼んでくれた。それだけで、充分だ」


響音は、そう静かに笑った。

その瞳には、長い間ずっと伝えられなかった“想い”が宿っていた。


ロロは息を呑んだ。

“自分が創ったはずの存在”が、こうして目の前に立っている。

しかし今は、それ以上に、“再会”の感覚が強かった。


「……ごめん。忘れてたわけじゃないんだ。……怖くて、閉じただけで」


「わかってるよ」


響音は頷き、そっと目を伏せた。


「でも、君が名を呼んだ。その時点で、もう“物語は続いてる”。俺は、君の中に生まれた音だ。どこにも行ってなんかいなかった」


ロロの手が、無意識にノートを開いた。

白紙だったはずのページに、淡く文字が浮かぶ。


『響音――音響士、君の声は、まだ終わっていない』


ロロは、確かにそこに立っていた。

創った存在と、今、同じ“現在”にいる。


失ったものは戻らないかもしれない。

けれど、こうして“呼びかける”ことはできる。


それが、ロロの選んだ“創作のかたち”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ