Scene 1|目覚めの兆し
音が走った。空気が震え、世界がゆっくりと目を覚ます。
ロロの耳に残響が残る。リルが打ち上げた“音”──それは、記憶の封印を揺さぶるほどの強さで響いていた。
教室ではない、どこか別の空間。だが、ここが“現実”でないことを、ロロは直感的に理解していた。
彼の足元には、一面に紙片が散らばっている。その一枚一枚に、かつての物語の断片が記されていた。誰かが泣いていた物語。誰かが笑っていた物語。誰かが終わらせることのできなかった物語。
ロロはその紙を拾い、指先でなぞる。その瞬間、走るように言葉が蘇る──かつて彼が綴った、あの世界の記憶。
どこかで、誰かの声が囁いた。
「ここが、君が忘れてきた場所。物語が止まった場所」
それはリルの声ではなかった。 けれど、どこか懐かしい、“創作”の中の誰かの声。
ページが舞うたびに、世界が少しずつ“色”を取り戻していく。
ロロは、自分の奥底から何かが目を覚まし始めていることを感じていた。
そして──ふと、何かが足りないと感じた。
(……泉大津ちゃんは?)
さっきまで隣にいたはずの姿が、見えない。声も気配も、何もない。まるで初めから存在していなかったかのように。
不安が胸を掠める。けれど、その欠落もまた、“この世界の歪み”であるとロロは感じ取っていた。
そのとき、目の前の空間に“扉”が現れる。色のない、白い扉。取っ手に触れようとしたとき、ロロは胸の奥から何かがせり上がってくるのを感じた。
──怖い。
それでも、進まなければならない。自分が何者で、何を忘れていたのか。それを知るために。
ロロは手を伸ばした。扉の向こうには、再び始まる物語が待っていた。




