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ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第九話:扉の先の音
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Scene 1|目覚めの兆し

音が走った。空気が震え、世界がゆっくりと目を覚ます。


ロロの耳に残響が残る。リルが打ち上げた“音”──それは、記憶の封印を揺さぶるほどの強さで響いていた。


教室ではない、どこか別の空間。だが、ここが“現実”でないことを、ロロは直感的に理解していた。


彼の足元には、一面に紙片が散らばっている。その一枚一枚に、かつての物語の断片が記されていた。誰かが泣いていた物語。誰かが笑っていた物語。誰かが終わらせることのできなかった物語。


ロロはその紙を拾い、指先でなぞる。その瞬間、走るように言葉が蘇る──かつて彼が綴った、あの世界の記憶。


どこかで、誰かの声が囁いた。


「ここが、君が忘れてきた場所。物語が止まった場所」


それはリルの声ではなかった。 けれど、どこか懐かしい、“創作”の中の誰かの声。


ページが舞うたびに、世界が少しずつ“色”を取り戻していく。


ロロは、自分の奥底から何かが目を覚まし始めていることを感じていた。


そして──ふと、何かが足りないと感じた。


(……泉大津ちゃんは?)


さっきまで隣にいたはずの姿が、見えない。声も気配も、何もない。まるで初めから存在していなかったかのように。


不安が胸を掠める。けれど、その欠落もまた、“この世界の歪み”であるとロロは感じ取っていた。


そのとき、目の前の空間に“扉”が現れる。色のない、白い扉。取っ手に触れようとしたとき、ロロは胸の奥から何かがせり上がってくるのを感じた。


──怖い。


それでも、進まなければならない。自分が何者で、何を忘れていたのか。それを知るために。


ロロは手を伸ばした。扉の向こうには、再び始まる物語が待っていた。

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