Scene 1|沈黙の棚の奥で
夜が明けきらない時間。外はまだ深い藍色に染まり、街の音も、鳥のさえずりも聞こえない。
ロロは机に突っ伏して眠っていた。昨夜、裂けたノートの奥に広がっていた世界──“音の夜”の記憶が、夢のように彼の中に残っていた。
けれど、これは夢ではない。
──あの少年。名前の思い出せない彼。ヘッドホンをかけ、静かに手を差し出してきたあの姿。
胸の奥で、何かがずっと鳴っている。言葉にはならない、けれど、確かに“何か”を告げようとする音。
ロロはふと、前日資料室で見つけたファイルの束のひとつ──“分類外”と書かれた封筒を思い出し、再び鞄の中から取り出した。
その中には、一冊の薄い冊子が挟まっていた。表紙もタイトルもない。それでも、ロロはそれがただの冊子ではないことを直感する。
開くと、最初のページには手書きでこう記されていた。
『声を失った書架に、最後の物語が眠る』
(……書架?)
場面は再び学校へ。
放課後、ロロは泉大津ちゃんと図書室の前で落ち合った。
「昨日の資料、やっぱり妙だった。あの部屋、本来はもう使われてないはずなのに」
泉大津ちゃんは小声で言い、懐から小さな紙片を差し出す。
「これ……図書委員室で見つけた。『B棟地下倉庫、旧書架記録室』って書いてある。普通の地図には載ってない」
ロロの胸が、どくんと鳴る。
──呼ばれている。あの“反響しない場所”へ。
二人は放課後の人気のない廊下を抜け、薄暗い階段を降りていった。
そこには、音が消えたような静けさが満ちていた。
地下の奥。埃のにおい、紙の古びた匂い。そして、閉ざされた鉄の扉。
『反響しない書架』──それは、地図にも記録にも残されていない、世界から“消えた”物語が眠る場所だった。
扉を押すと、重たく鈍い音が響いた。
そして、ロロと泉大津ちゃんは足を踏み入れる。
その瞬間、外の世界の音がふっと消えた。
空気すら息をひそめたような空間。
──そしてそこに、また一枚のカードが落ちていた。
『語られなかった声は、いま、君の手を求めている』
その時、ロロの中で何かがはっきりと動いた。
まだ終わっていない。まだ、聞こえていない声がある。彼はそれを、探しに来たのだ。
次の扉が、静かに開こうとしていた──。




