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ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第八話:反響しない書架
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Scene 1|沈黙の棚の奥で

夜が明けきらない時間。外はまだ深い藍色に染まり、街の音も、鳥のさえずりも聞こえない。


ロロは机に突っ伏して眠っていた。昨夜、裂けたノートの奥に広がっていた世界──“音の夜”の記憶が、夢のように彼の中に残っていた。


けれど、これは夢ではない。


──あの少年。名前の思い出せない彼。ヘッドホンをかけ、静かに手を差し出してきたあの姿。


胸の奥で、何かがずっと鳴っている。言葉にはならない、けれど、確かに“何か”を告げようとする音。


ロロはふと、前日資料室で見つけたファイルの束のひとつ──“分類外”と書かれた封筒を思い出し、再び鞄の中から取り出した。


その中には、一冊の薄い冊子が挟まっていた。表紙もタイトルもない。それでも、ロロはそれがただの冊子ではないことを直感する。


開くと、最初のページには手書きでこう記されていた。


『声を失った書架に、最後の物語が眠る』


(……書架?)


場面は再び学校へ。


放課後、ロロは泉大津ちゃんと図書室の前で落ち合った。


「昨日の資料、やっぱり妙だった。あの部屋、本来はもう使われてないはずなのに」


泉大津ちゃんは小声で言い、懐から小さな紙片を差し出す。


「これ……図書委員室で見つけた。『B棟地下倉庫、旧書架記録室』って書いてある。普通の地図には載ってない」


ロロの胸が、どくんと鳴る。


──呼ばれている。あの“反響しない場所”へ。


二人は放課後の人気のない廊下を抜け、薄暗い階段を降りていった。


そこには、音が消えたような静けさが満ちていた。


地下の奥。埃のにおい、紙の古びた匂い。そして、閉ざされた鉄の扉。


『反響しない書架』──それは、地図にも記録にも残されていない、世界から“消えた”物語が眠る場所だった。


扉を押すと、重たく鈍い音が響いた。


そして、ロロと泉大津ちゃんは足を踏み入れる。


その瞬間、外の世界の音がふっと消えた。


空気すら息をひそめたような空間。


──そしてそこに、また一枚のカードが落ちていた。


『語られなかった声は、いま、君の手を求めている』


その時、ロロの中で何かがはっきりと動いた。


まだ終わっていない。まだ、聞こえていない声がある。彼はそれを、探しに来たのだ。


次の扉が、静かに開こうとしていた──。

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