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ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第七話:記憶の裏で鳴る音
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Scene 3|雨の帳、沈黙の扉

帰り道も、雨は止まなかった。


ロロは駅前のベンチに腰掛け、傘を差しながらカードを見つめていた。 表の文字『口裂けた笑顔の下に、忘れた声がある』が、水滴でにじんでいた。


彼は思い出そうとしていた。昼間、泉大津ちゃんが話していた“マスクの少女”。 ロロは思わず隣の席の“彼女”の顔を思い浮かべた。 けれど──なぜだろう、彼女の表情がうまく思い出せない。 確かにそこにいたはずなのに、輪郭だけが霧の中にあるような感覚。 まるで“見た気がする”としか言えないくらいに、記憶がぼやけていた。


でも、その記憶はまるで綿のように掴みどころがなく、ふわふわと手のひらから滑り落ちていく。


──本当に、いたんだろうか?


ポケットの中で、ぬいぐるみ──リルが小さく揺れた気がした。


「リル……」


彼が名前を呼ぶと、ぬいぐるみの耳がほんの僅かに動いた。 その仕草は、風に揺れる草のように儚く、けれど確かに“生きている”気配があった。


そのとき、彼の足元に“音”が落ちた。 水たまりに落ちる紙片の音。


──新たなカード。


拾い上げたカードには、次の言葉が記されていた。


『今宵、第三の扉が開く』


そして、裏面にはこうあった。


──その口が、真実を語るなら。


ロロは拾い上げたカードを見つめたまま、眉をひそめる。


(……第三の扉?)


それは、数の順に並んだものではないと、彼は直感的に理解していた。

“扉”は記憶の層に応じて開く。順番ではなく、深さ。代償の重さ。

第四の次に第五を通って、それでもなお、“第三”がまだ残っているという事実に、ロロは小さく息を呑んだ。


ロロは顔を上げた。


雨の帳の向こう、校舎の方角に──“何か”が彼を待っている気がした。


彼は立ち上がる。 その足元に、水たまりが円を描いて広がっていく。


何かが、また静かに始まろうとしていた。

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