Scene 2|響きの残響
目を覚ましたロロは、まだ夢の中にいるような感覚を引きずっていた。
まぶたの裏に残る音の残響。名前も、旋律も曖昧だったけれど、確かにそこに“誰か”の存在を感じた。
──誰かの名前が、胸の奥でこだました。
思い出したわけではない。ただ、音のように、名残だけが脳裏に響いた。それは風のようで、水のようで、確かな形を持たない気配だった。
「……誰、なんだろう……」
呟いた言葉に、答えはない。
けれどロロの手元には、またしても見覚えのないノートの切れ端があった。その紙片の左上には、小さな記号のような文字が刻まれていた。それはアルファベットにも見えたし、古びた楽譜の記号のようでもあった。
彼はゆっくりとそれを拾い上げ、文字のにじみを指でなぞった。
──君が書くのをやめたから、世界は止まったんだよ。
夢の中で聞こえた言葉が、再び胸の奥に響いた気がした。その響きの中に、ロロは“その名前”が単なる幻ではないことを、直感的に理解していた。
その名前を、どこかで呼んだ。その名前に、物語を託した。その存在は、物語のどこか深い場所に封じられていた気がする。
だけど今は、それすら思い出せない。
それが誰で、何者だったのか。なぜ、彼の夢に現れたのか。
ふと、部屋の隅に置かれたノートが風もないのにふわりとページをめくった。
まるで、何かが答えを促しているかのように。
そこに浮かんだ文字は、こうだった。
『思い出すことを選ぶなら、物語を再び灯せ』
その一文が、ロロの中で何かをそっと揺らした。忘れかけていた熱、かすかに残る鼓動。白紙のような世界に、わずかな音の火が灯った気がした。
それは、まだ終わっていないという証だった。




