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ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第七話:記憶の裏で鳴る音
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Scene 2|響きの残響

目を覚ましたロロは、まだ夢の中にいるような感覚を引きずっていた。


まぶたの裏に残る音の残響。名前も、旋律も曖昧だったけれど、確かにそこに“誰か”の存在を感じた。


──誰かの名前が、胸の奥でこだました。


思い出したわけではない。ただ、音のように、名残だけが脳裏に響いた。それは風のようで、水のようで、確かな形を持たない気配だった。


「……誰、なんだろう……」


呟いた言葉に、答えはない。


けれどロロの手元には、またしても見覚えのないノートの切れ端があった。その紙片の左上には、小さな記号のような文字が刻まれていた。それはアルファベットにも見えたし、古びた楽譜の記号のようでもあった。


彼はゆっくりとそれを拾い上げ、文字のにじみを指でなぞった。


──君が書くのをやめたから、世界は止まったんだよ。


夢の中で聞こえた言葉が、再び胸の奥に響いた気がした。その響きの中に、ロロは“その名前”が単なる幻ではないことを、直感的に理解していた。


その名前を、どこかで呼んだ。その名前に、物語を託した。その存在は、物語のどこか深い場所に封じられていた気がする。


だけど今は、それすら思い出せない。


それが誰で、何者だったのか。なぜ、彼の夢に現れたのか。


ふと、部屋の隅に置かれたノートが風もないのにふわりとページをめくった。


まるで、何かが答えを促しているかのように。


そこに浮かんだ文字は、こうだった。


『思い出すことを選ぶなら、物語を再び灯せ』


その一文が、ロロの中で何かをそっと揺らした。忘れかけていた熱、かすかに残る鼓動。白紙のような世界に、わずかな音の火が灯った気がした。


それは、まだ終わっていないという証だった。

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