Scene 4|記されなかった未来へ
ロロの指先が、鏡の表面に触れた。
水面のように震えるガラスが、彼の存在をゆっくりと吸い込んでいく。
直後、脳の奥に鋭い閃光のような痛みが走った。
──笑い声。
──夜の街を駆ける音。
──約束の言葉。
──何かを手放す決断の瞬間。
それらは、かつて“存在していたかもしれない未来”の断片だった。
だが今、そこにあるのは──それを選ばなかったという“余白”の実感だけ。
「これは……」
気がつくと、ロロは鏡の“向こう”に立っていた。
だが、ここが裏か表かも、現か虚かも──判別がつかない。
世界は、白く、静かだった。
無音の空間に、無数の光点がふわふわと浮かんでいる。
まるで、それぞれが“ありえた未来”を灯しているかのように。
ロロは足元に落ちていた紙片を拾う。そこには、かすれたインクでこう記されていた。
『未来とは、選ばれなかった記憶の積層である』
胸の奥に、奇妙な疼きが走る。
それは後悔なのか、疑念なのか、それとも──未だ語られぬ何かへの予感か。
「……俺は、どこまで来てしまったんだ……?」
背後で、鈴の音がした。
振り返ると、そこにいたのは白いうさぎのぬいぐるみ──リル。
リルは何も言わず、ただ小さな手をロロに差し伸べた。
その温もりは、さっきまでの沈黙よりもずっと雄弁だった。
ロロは手を握り返す。その瞬間、空間に再び“あの声”が響く。
──■■■■■は、またひとつの扉を開けた。
それが何を意味するのかは、まだわからない。
だが、この歩みは、確かに“どこか”へ続いている。
ロロは、静かに歩き出した。
誰かに読まれることのなかった物語のページを、自らの足でめくるように。
やがて視界の奥に、また別の“輪郭”が現れはじめる。
そしてロロは思った。
もしかするとこの世界は、忘れた未来が集まる場所なのかもしれない、と。
新たな目覚めが、また始まろうとしていた──。




