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ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第五話:雨の日のララバイ
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Scene 3|ページの裂け目

ロロは、登校前の準備をしながらも、どこか夢の続きに取り憑かれていた。


ノートの間から、ふと滑り出した一枚の紙片——


それは、一見ただの破れかけたページだった。だが中央には、外へ向かって広がるような裂け目があり、まるで何かが“出てこよう”とした痕跡のように見えた。


ページを指でなぞると、指先にわずかにザラつきが残る。その周囲にはインクがにじんだ跡があり、まるで誰かがそこに書きかけて、途中で止めたかのようだった。


──このページ、前にも……。


既視感に襲われながら、ロロはさらにページをめくっていく。


そのとき、胸ポケットから小さな“何か”が落ちた。


カード。


いつの間に入っていたのかすら分からないそれには、黒インクでこう記されていた。


『裂けたページは、語られなかった声を覚えている』

『音は、君の中でまだ生きている』


その瞬間、部屋の隅から、ふと耳鳴りのような“音”がした。


──キィン……。


微かな音。それでも、胸の奥に深く届いてくるような、懐かしさを帯びた響き。ロロは胸の震えを止められず、紙片を握り締めた。


(……やっぱり、終わってなんかいない)


そのとき、チャイムの音。廊下から、足音。


ノックのような、静かなノイズ。


「ロロ、今日もなんか顔、青いよ。大丈夫?」


教室に入ると、泉大津ちゃんが心配そうな顔で声をかけてきた。雨の残り香と、少し冷たい空気が肩を撫でた。


ロロは、ふっと苦笑した。


「……うん、ただの寝不足。昨日、変な夢見た——いや、夢じゃないかも、ただの“気分”のせいかもしれない」


泉大津ちゃんは眉を寄せ、小さく首を振った。


「夢のせいかもね。でも……この前の話、覚えてる? あの“マスクの子”の噂、あれ、本当に気になるんだ。転校生って言ってたけど、名前も出席簿にも載ってないって…変じゃない?」


ロロは目を逸らした。教室の窓越しに、曇天の淡い冬の光。


「……ああ。でも、それよりさ、このページ、見てもらいたい」


そう言って、ポケットから先ほどの破れたページとカードを取り出す。


泉大津ちゃんはぱっと目を見開き、指の先で裂け目のある紙をそっと撫でた。


「……これ、なんだろう。本当に“物語”の切れ端みたい」


その言葉に、胸の奥がぞくり、と冷たく震えた。


「変な話かもしれない。でもな、気をつけて。鏡とか、出席番号のこととか……普通じゃない」


それを聞いて、泉大津ちゃんは薄く笑った。だが、その笑顔はどこか儚げで、不安な影を伴っていた。


「――私も、少し調べてみる。噂──“あの子”のことも、あの裂けたページのことも。ロロ、一緒に」


ロロは、うなずいた。沈黙の中で、その決意は小さく確かに響いていた。


物語はまだ、続いている──。

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