Scene 3|ページの裂け目
ロロは、登校前の準備をしながらも、どこか夢の続きに取り憑かれていた。
ノートの間から、ふと滑り出した一枚の紙片——
それは、一見ただの破れかけたページだった。だが中央には、外へ向かって広がるような裂け目があり、まるで何かが“出てこよう”とした痕跡のように見えた。
ページを指でなぞると、指先にわずかにザラつきが残る。その周囲にはインクがにじんだ跡があり、まるで誰かがそこに書きかけて、途中で止めたかのようだった。
──このページ、前にも……。
既視感に襲われながら、ロロはさらにページをめくっていく。
そのとき、胸ポケットから小さな“何か”が落ちた。
カード。
いつの間に入っていたのかすら分からないそれには、黒インクでこう記されていた。
『裂けたページは、語られなかった声を覚えている』
『音は、君の中でまだ生きている』
その瞬間、部屋の隅から、ふと耳鳴りのような“音”がした。
──キィン……。
微かな音。それでも、胸の奥に深く届いてくるような、懐かしさを帯びた響き。ロロは胸の震えを止められず、紙片を握り締めた。
(……やっぱり、終わってなんかいない)
そのとき、チャイムの音。廊下から、足音。
ノックのような、静かなノイズ。
「ロロ、今日もなんか顔、青いよ。大丈夫?」
教室に入ると、泉大津ちゃんが心配そうな顔で声をかけてきた。雨の残り香と、少し冷たい空気が肩を撫でた。
ロロは、ふっと苦笑した。
「……うん、ただの寝不足。昨日、変な夢見た——いや、夢じゃないかも、ただの“気分”のせいかもしれない」
泉大津ちゃんは眉を寄せ、小さく首を振った。
「夢のせいかもね。でも……この前の話、覚えてる? あの“マスクの子”の噂、あれ、本当に気になるんだ。転校生って言ってたけど、名前も出席簿にも載ってないって…変じゃない?」
ロロは目を逸らした。教室の窓越しに、曇天の淡い冬の光。
「……ああ。でも、それよりさ、このページ、見てもらいたい」
そう言って、ポケットから先ほどの破れたページとカードを取り出す。
泉大津ちゃんはぱっと目を見開き、指の先で裂け目のある紙をそっと撫でた。
「……これ、なんだろう。本当に“物語”の切れ端みたい」
その言葉に、胸の奥がぞくり、と冷たく震えた。
「変な話かもしれない。でもな、気をつけて。鏡とか、出席番号のこととか……普通じゃない」
それを聞いて、泉大津ちゃんは薄く笑った。だが、その笑顔はどこか儚げで、不安な影を伴っていた。
「――私も、少し調べてみる。噂──“あの子”のことも、あの裂けたページのことも。ロロ、一緒に」
ロロは、うなずいた。沈黙の中で、その決意は小さく確かに響いていた。
物語はまだ、続いている──。




