Scene 2|囁かれる噂
放課後、教室の窓に雨が叩き続けていた。 灰色の空に沈む校舎の中、ロロは席に座ったまま、ぬれた制服の袖を軽く絞っていた。
そんな彼の前に、ぽすんと腰を下ろした女子生徒がひとり。
「ロロ、聞いた? また“出る”らしいよ、あれ」
その声の主──泉大津ちゃんは、いつも都市伝説やオカルトの話ばかりしているクラスの“情報通”だった。 黒縁メガネに三つ編み、鞄には大量の付箋が貼られたファイル。 彼女は興奮気味に身を乗り出す。
「“口裂け女”。昔の話じゃない。最近また、学校の近くで似た人が出たって」
ロロは曖昧に笑って応じた。 「また? あの“マスクしてる女の人”ってやつ?」
泉大津ちゃんは真剣な顔で頷いた。 「うん。でも今回はちょっと違うの。マスクの下の“裂けた口”を見た人が、記憶をなくしたとか、毎晩同じ夢を見るとか……」
その言葉に、ロロの背筋がひやりとした。 心当たりが──ある。
「その人って……どんな感じだったの?」
「ほら、ちょっと前に転校してきたっていうマスクの子。あれ、ウチのクラスの誰かって噂もあったけど、出席簿には名前が載ってないんだよね。不気味でしょ?」
ロロは眉をひそめた。「それ……普通に転校生だったら、めちゃくちゃ失礼な話だからな?」
しかし、出席簿に名前の記載がないのは確かに不気味さを感じる。
ただの転校生だと思うが、紹介された記憶が何故か曖昧であるようでなかった。
ロロは無意識にポケットを探った。 何かが指先に触れる。
──紙。
そっと取り出したそれは、またしても見覚えのあるカードだった。
表には黒インクでこう記されていた:
『口裂けた笑顔の下に、忘れた声がある』
裏にはおなじみの、震えるような筆跡で:
──■■■■■は見ている。
ロロは息を呑んだ。
次の“扉”が、また静かに姿を現しつつあった。




