Scene 4|境界のむこうで待つもの
扉の向こうは、まったく異なる景色だった。
まるで現実と夢のあいだを漂うような、不確かな空間。空には夜が静かに広がり、星も月もないのに、不思議と暗くはなかった。代わりに、淡い青白い光が空気全体を照らし、幻想的な輝きを放っていた。
足元には、どこまでも続く水面。踏み出すたびに、波紋が音もなく広がっていく。その水面は鏡のようにロロの姿を映し返していた。
だが、そこに映る“ロロ”は、どこか違っていた。髪の長さ、制服の色、そして表情──すべてが、ほんのわずかに、けれど決定的に異なっている。
「……これが、もうひとつの“俺”……?」
その声に応えるように、水面の向こうに人影が立った。
それは、ロロとまったく同じ姿をしていた。同じ背格好、同じ顔、同じ声。だが、その瞳だけが──まるで“すべてを思い出している”かのように、深く、静かだった。
「ようやく来たね」
“もうひとりのロロ”が、どこか懐かしげに微笑む。
「ここは、“選び”を終えた者が立つ場所。お前はまだその途中……でも、いずれここに辿り着く」
ロロは一歩後ずさる。言葉の意味が掴めない。だが、その声には妙な安心感と、抗いがたい重みがあった。
「なにを……見せようとしてるんだ?」
問いかけに、“もうひとりのロロ”は静かに背を向けた。そして、遠くに広がる黒い闇の方向を指さす。
「次に待つのは、“記憶”じゃない。お前自身の“選択”の過去だ」
その言葉と同時に、闇の中にまたひとつ──新たな“扉”が浮かび上がった。それは今まで見てきたどの扉よりも重く、そして深い存在感を放っていた。
ロロの心臓がドクンと脈打つ。
(また、なにかを選ばなきゃいけないのか……?)
そのとき、空間全体に低く響く声があった。
──■■■■■は、見ている。
その名は認識できないはずなのに、その響きだけが、ロロの心を深く揺らした。
次に開く扉。その先に待つ“何か”が、静かに、だが確実に目を覚まそうとしていた。
空が、微かに波打つ。水面がその動きに共鳴するように揺れる。風はないのに、何かが変わり始めている気配。
ロロは深く息を吸い、目を閉じた。
次に目覚める場所が“日常”であるか、“物語”の続きであるか──それすら分からぬまま、彼の意識は静かに沈んでいった。




