第六九話 Time Will Reveal:時が、明らかにする
◇◇◇◇
翌日――
キリカに手を引かれ、少女ルキアは応接室へと入った。
大きな窓から差し込む柔らかな光が、部屋を静かに満たしている。
ソファの向かいには、リョウコ。
その背筋はまっすぐで凛とした雰囲気、だが表情は驚くほど穏やかだった。
俺とアスカ、ユキも、少し離れた場所に腰を下ろし、二人を見守る。
ルキアの表情からは何の感情も読み取れず……キリカに促され、無言でリョウコの正面に腰かける。
しばしの沈黙。
そして、リョウコが語りかける。
「ルキア……あなたがどう思うかわからないけど……」
一度、言葉を切り、リョウコは少女の目をまっすぐ見つめる。
「ここに来たアナタは、もう私の娘よ」
「……!!」
ルキアの肩が、小さく跳ねる。
「ごめんなさいね。もう決めちゃったの」
それは、命令でも宣告でもない。ただ、揺るがない意志のこもった声だった。
「ここには、ぜーんぶあるのよ。住む所も、学ぶ所も。アスカとユキも、そこで育ったの」
「……」
「何の心配もいらない。大きくなったら、ギルドに入ってもいいし、違う道を進んでもいい。私には、たくさんの娘がいるけど……」
一瞬だけ、リョウコは視線を遠くへ向ける。
「彼女たちが、全員、幸せになるコト。大事なのは、それだけよ」
「そして……あなたに求めるのは、ただ一つだけ」
さらに柔らかい声を、ルキアに向ける。
「幸せに、なりなさい」
「……しあわせ……?」
言葉の意味は知っている。でも、それは彼女自身とは全く結びつかない言葉だった。
ふわり、ふわりと……
リョウコの言葉を通して、その温かさがルキアを包み込む。
「…………」
それでも、簡単な決断ではない。ルキアは黒召喚士たちの洗脳を受けている。もちろん、祖母を奪ったギルドを憎むように教えられているはずだ。
「……無理する必要はないわ。ここ以外にもあなたを預けられる施設はあるし……受け入れるかどうかは、あなた次第」
リョウコは、そう言って微笑む。
さらに少しの沈黙。
ルキアは、か細い声を絞り出す。
「わかんない……わかんないよ……」
「ずーっと、ずーっと……おつかいをして、地上の悪い人をこらしめるように……それだけなの」
「わたしは……それだけなの……」
その言葉は、ルキア自身の存在を確かめるような……そして……彼女を縛りつける呪文のようでもあった。
リョウコは、ゆっくりと立ち上がり、ルキアの隣に腰かける。
そして……そっと、その手を握る。
「時が、すべてを明らかにするわ。あなたの選ぶ道が、正しいのか、そうでないのか」
「だから今は、何も考えなくていいの。いいのよ、それだけでも」
ありのままの自分を、受け入れてくれる。
ルキアにとって、それが一番必要なことだった。
一筋の涙が、頬を流れ落ちる。
少女は、静かに、そして深くうなずいた。
…………
リョウコはこれまで、ギルドマスターとして、幾度となく戦場の最前線に立ってきた。黒召喚士との激しい戦い。そのたびに、数多くの重い決断を迫られたはずだ。
新谷夫妻、ハヤブサの仲間たち……彼女の選択は、数多くの悲劇を生み――同時に、彼女自身に、計り知れない重さの十字架を背負わせた。
それでも、リョウコは立ち止まらない。
時が経てば、必ず――明るい未来がやってくると、信じているからだ。
――時が、すべてを明らかにする。
――その先には、明るい未来が待っている。
その強い信念は、揺るがない。
それは、ルキアと板山ギルドの運命を切り開いていく。
リョウコの愛情が、運命を切り開く。次回、第一部完結です。
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