第五八話 サダトラ、天国へ
ブオオオオッ!
真紅の帯が通り過ぎた、その直後。
空間が歪むほどの熱量とともに、膨大な数の火の玉が一斉に吐かれ、ぶわりとこちらへ押し寄せてくる。
「避けろ!上だっ!」
パサアッ!!
アオの巨大な羽が闇を叩き、体がぐんと浮き上がる。灼熱の球体が、すれすれの距離を通り過ぎていった。
「あれは……」
俺は、猛スピードで宙を駆け抜けていく真紅の帯から目を離さず、必死にその正体を追う。あっという間に視界の彼方へ消えたが――
火の玉は、なおも途切れることなくアオを狙って迫ってくる。
「左だ!」
「降下! 下がれ! 下がれ!」
声を張り上げ、円を描くように旋回しながら、業火の球体をかわし続ける。
そして――
視界の底から、再び赤い帯が猛スピードで迫ってくる。今度は、はっきりと見えた!
「ハヤ・オウだ!」
思わず叫ぶ。
「……スペースハンターのラスボス!!」
真紅に燃え盛る炎を全身にまとった、二体一組の双子ドラゴン。
名作レールシューティング、"スペースハンター"家庭用のラスボス――ハヤ・オウ!!
「……」
その姿を目にした瞬間、胸に渦巻いていた緊張と怒りが、すうっと引いていくのを感じた。
不思議なほど、心が静まる。
なぜだろう。
俺は、静かにアオへ語りかける。
「アオ、このまま……ぐるぐる回り続けてくれ」
ふと、地上へ視線を落とす。
――ラストマンの数が、明らかに減っている。守りきった……!!
ブォン! ブォン!
ハヤ・オウは巨大な火の玉を吐き続ける。
だが――
このゲームをやり込んでる俺は、よく知っているのだ。
火の玉は、常に“今いる位置”を狙って放たれる。だから、このままぐるぐると回り続けていれば――決して当たらない。
その確信と同時に、不思議な感情が胸に湧き上がった。
もういい……
もういだろう、ルキア!
「ルキア!もう終わりだ!――もう、やめてくれ!」
宿敵を追い詰めたはずなのに、湧き上がるのは勝利の快感ではない。胸に残るのは、どこか切ない感情だった。
疾走する赤いドラゴンを正面に捉えて……
「アオ……正面、ファイアだ」
右手を正面に突き出し、重い声で号令をかける。
ブオオオオッ!
三つの口から、一斉に火の柱が放たれ、ハヤ・オウへと襲いかかる。
グギギギァ……!!
バシュ! バシュ! バシュ!!
ハヤ・オウの体が――頭から順番に爆発していく。
そして――漆黒の空に静寂が戻る。
バサ、バサ、バサ……
アオは羽ばたきを緩め、ゆっくりと地上へ降下する。そして、ハヤブサたちの元へ、静かに滑り込むように着地した。
ラストマンの姿も、すっかり消え失せている。残ったのは、砂とガレキが広がる、荒涼とした光景だけだった。
俺は、急いでサダトラの元へ駆け寄る。
「サダトラ! サダトラっ!!」
リリーが何度も、何度もその名を呼び続ける。
アスカたちは息を呑んで、呆然とその姿を見守っていた。
「どうして……スキルが使えないのよ……」
このワールド内では、手持ちのスキルは使えない。ユキは悔しさを噛み殺しながら、目に涙をにじませる。
……
ハア…………ハア…………ハア……
――わずかに漏れる息遣い。まだ生きている!
「ゲームオーバーなんかに、させねえよ!」
俺はサダトラの防具をはぎ取り、アイテムボックスから予備の鎧を取り出す。
エンチャントしたアイテムには、横にうっすらと効果の名前が書かれているのだ。
……そう、「回復」と。
いざという時のために残しておいた……最後の切り札!
ユキの回復スキルをエンチャントした、防具だ。
「防御強化」スキルの防具を外して……「回復」スキルの防具を着せる!
……
……
シュウウウウ……!!
……すると、サダトラの体が白い光に包まれ……傷口の周りから白い水蒸気が立ち昇る。
その光景に、リリーは涙をこぼし、祈るようにつぶやいた。
「おねがい……サダトラを……助けて……」
アスカたちも息を呑んで、祈るような視線を向ける。ハヤブサは、リリーの肩をポンと叩いて、静かに、しかし力強く語りかけた。
「モモカ直伝……ユキの回復魔法は、世界一だ! ……絶対に、助かる!」
ユキも、強くうなずく。
「私の回復スキル……信じて!」
「……うん、うんっ!」
リリーは自分に言い聞かせるように、何度もうなずく。
シュウウウウ!!
「う……ううん……」
すると――水蒸気に包まれたサダトラの目が……
ぱちりと開いた!
そして、ゆっくり……ゆっくりと、その上半身を起こす。
「うわあああっ! サダトラ! サダトラっ!」
リリー、泣きながら抱きつく!
「死んだと思った! すっごい心配したっ!!」
「……え、ええと、かってに殺さないで……ください……」
(……いや……愛しのリリーが……俺に抱きついて……!!)
(……そうか、ここが、天国なのか……)
ばたん
……すやすや、すやすや
……
サダトラ、盛大な勘違いと共に――再びガレキに倒れ込んで、寝息を立てる!
ハヤブサがその様子を眺めて皆に伝える。
「回復スキルは、本人の体力もすごく消費する。疲れて寝てるんだろう。もう大丈夫だ!」
「うわあああっ!」
「やったあっ!!」
「きゃああああっ!!」
リリー、アスカ、ユキは抱き合って歓声を上げる!
サダトラの寝顔が――すんごい幸せそうだったのは、言うまでもないよね。
◇◇◇◇
サダトラ応援隊のみなさま!
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