第五六話 絶体絶命
俺は急いでハヤブサたちに状況を説明する。
その話を聞き終えた彼は、奥歯をぎりっと噛みしめ、小さくつぶやいた。
「くそ……せめて回復スキルが使えれば……」
その言葉が、脳裏に引っかかった。
「……回復スキル……もしかして!」
クウウ……
アスカたちに囲まれながら、アオは苦しそうに身をよじり、弱々しい鳴き声を上げている。
そして、焼け焦げた羽は力なく垂れたままだ。
「……ちょっといいかな」
俺はアスカの肩越しに、そっとアオの様子を覗き込み、そのままアイテムボックスを開いた。
記憶を手繰る。
――確か、アオは、システム的にはウマやロバと同じ“乗れる動物”扱いだったはずだ――
そう思って念のために持ってきた、たった一つのアイテム。俺はそれを掴み出す。
「これだ……ウマのくら! ……ユキの回復魔法をエンチャントしてある!」
マイクラでは、乗れる動物にはくらを取り付けるコトができるのだ!
ゲーム上ではくらにエンチャントは効かないので……効果があるかは未知数だが……今はユキのスキルに賭ける!
「アオ!しっかりしろ!」
俺は白く淡い光をまとったくらを、慎重にアオの背へと装着する。
ジジ……ジジ……
次の瞬間。
フォン!
回復魔法の、白い柔らかな光が弾けるように広がり、アオの全身を包み込んだ。
シュウ……シュウ……
白い水蒸気が立ち昇る。代謝を早めて治癒を促す――モモカ直伝の回復スキル!
俺は興奮して声を上げる。
「効いてるぞ!」
クウ……ウウウン
光の中で、アオが小さく鳴き、ゆっくりと体を起こした。
「アオちゃん! よかった! よかったあっ!」
アスカはその首元にすがりつき、ぎゅっと抱きしめる。
バサァッ!
破れ、焦げていた羽が、みるみるうちに再生していく。
「わああっ!!」
「スゴい、復活してるっ!」
リリーとユキも歓喜の声を上げる。
――その時、エンドマンと対峙していたサダトラが叫ぶ。
「皆さん、気をつけて! ラストドラゴンがこっちに来ます!」
ササササ……
静かに忍び寄る漆黒のドラゴン!
ビキイン!
ラストドラゴンと、周囲に群がるラストマン――
その目が、一斉に赤くぎらりと輝いた。
「……これは……」
俺の背中がぶるりと震えた。オロチが一斉に火を吹くときと同じ……ギルドを半壊させた……
「ルキアの一斉攻撃だ! 来るぞ!」
「全員、攻撃に備えろっ!」
俺とハヤブサの怒号が響く。
サササ……
サアアアア!
ラストマンの群れが瞬間移動を繰り返しながら、一斉に迫る。同時に、上空からラストドラゴンがパーティ目がけて急降下!
ブアアアアァァツ!
異様な音と共に吐き出した深紅のブレスが――空中で拡散し、雨のように降り注ぐ。俺は声を振り絞った。
「ブレスに触れると即死だ! 盾だ! 全員、盾を構えろ!」
あちこちで詠唱の声が響く。
「ウォール・シールド!」
そう、ユキの防御魔法をエンチャントした……特別な盾!
それが、今の命綱だ。
リリーが叫ぶ。
「みんな! こっち! ここに固まって!」
敵の位置、地形、死角――すべてを瞬時に判断し、柱とガレキを背にした戦い易い位置へと、メンバーを誘導。そして、全員で半円状に固まって盾を構え、その後ろに身を潜める。
ズガガ……ガガガ!
全員で魔力を盾に込める。
カキイイイイ!!
――盾の前に、半円状に半透明の壁が出現。ブレスの雨と、体当たりを繰り返すラストマンを弾き返す!
「……いける! 耐えられる!」
……スウウ……
ラストドラゴンはブレスを止めて、さらに高く舞い上がる。
「……諦めたのか……?」
そう思った、その瞬間。
赤い目をぎらつかせたドラゴンが――全体重を乗せ、猛烈な勢いで突進!
ガシイイイイイイ!
ミシ……ミシ……
パキン!!
渾身の体当たりに、ウォールが一瞬で砕け散る!
「きゃああああっ!」
「危ないっ!」
サダトラが身をひるがえして敵の正面に躍り出た。そして……突進するその頭を盾で押さえつける!
ギギギギ……
「く……俺のパーティに……手ェ出すんじゃねぇっ!」
全身の力を込めて、ドラゴンを押し返す!
グーアーッ!
ラストドラゴンは身をよじらせながら首を縦にぐわんと伸ばし――至近距離からブレスを吐き出す!
ブワアアァァッ!
「うわあああっ!」
「きゃあああっ!」
ウォールは破壊されている。避けきれない!
悲鳴が響き渡り、ブレスの爆風で俺たち全員――バラバラに吹き飛ばされる!
ズザアアッ!
「……くうう……いてェッ!」
誰も離脱してないが、全員激しく傷ついている。俺も飛ばされた衝撃で、無数の傷を負っていた――右足から鮮血が滲み出て、動けない。
「……サダトラ!」
周りを見渡すと……正面に立っていたサダトラの傷が深い。足をだらんと投げ出して、ガレキに寄りかかったまま動かない。
その惨状をあざ笑うかのように、ラストマンの群れが再び距離を詰めてきた。上空では、ラストドラゴンが旋回しながら、次の一撃を狙っている。
絶体絶命か……!?
闇の最果てで、俺たちは、完全に追い詰められていた。
絶体絶命のパーティを応援したい方!
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