第五五話 アオちゃんの戦い
スス……ス……
闇の中、わずかな気配だけを頼りに、俺はしばらくラストドラゴンの軌道を追い続けていた。
紫の光点が、闇の宙空をなぞるように円を描く。その動きが、ふっと変わった瞬間――
上空を旋回していたドラゴンが、急激に角度を変え、一直線に急降下してくる。
フア……アアア……!
巨大な口が開き、内側から紫色の炎を吐き出す
「危ないっ!」
ズザアアッ!
紫の炎が、地面を舐めるようになぎ払う。俺は反射的に横へ跳び、紙一重でその直撃を避けた。その跡には、チリチリと音を立てて紫色のつぶてが残り続けている。
――何度か攻撃をやり過ごした後……
サササ……
ドラゴンは突如、動きを緩め、浮島中央の黒い台座へと舞い降りた。その様子は、戦闘の合間に息を整えているかのようだ。
――今だ。
俺は息を殺し、背後から距離を詰める。
地を強く蹴り、全身のバネを使ってジャンプ!
「閃光の剣!」
ズバアァァァッ!
スキルを宿した剣が、眩い光を放ちながら振り下ろされる。刃は確かに、ドラゴンの背中を捉え――
ピキィィィ!
硬い感触の後、背中が縦に裂け、中から白い光が溢れ出した。ドラゴンは咆哮を上げ、暴れるように空へと駆け上がっていく。
「やったか……!?」
スス……ス
俺は目を凝らし、その行方を追う。
しかしドラゴンは、台座の周囲にそびえ立つ塔のひとつ、その頂上で羽を止めた。
次の瞬間――
裂けた背中の傷が、みるみるうちに塞がっていく。
「そうだ……塔の上にある、ラストクリスタルで回復できるんだった……」
闇の宙空に立つ、全八本の塔。
その頂上に鎮座する“エンドクリスタル”を破壊しない限り、ドラゴンは無限に回復する。
「やっぱ、壊さないとダメか……」
回復する前に速攻で倒してしまう上級者もいるが、現実はそう甘くない。
サササ……
傷は完全に消え、ドラゴンの瞳が紫から赤へと、じわりと色を変えていく。
「……あれは……もしかして、ルキアの指揮下に!?」
ルキアはエンドクリスタルを媒介に魔力を増幅させ、完全にラストドラゴンを操り始めていた。
ドラゴンは明らかにゲーム内と違う動きを見せ始める。普通は上空を旋回しながら攻撃の機会を伺うが……
ヤツは俺のいる場所めがけて一直線に滑空してくる!
「……これは危険だ!」
慌ててダッシュして、その場を離れるが……
シュウウウウ!
ドラゴンは進路を先読みするように回り込み、真紅に染まった炎の塊をぶわりと一面に吐き出す。
速い!間に合わない!
「うおおおっ!」
紅いブレスに飲み込まれる、その直前――
バサ……!バサ……!バサ……!
アスカを背にしたアオが、闇を裂いて俺の所に低空飛行で突っ込んでくる!
「ダイキ! 乗って!」
アスカが手を伸ばす。俺は必死にその手を掴んで、アオの背に飛び乗る。
「すまん! 助かった!」
「バカなの!? また一人で無茶して!」
「ハヤブサたちは?」
「なんとか耐えてるわ!でも、いくら倒してもキリない!あのデカいの倒さないとダメよ!?」
「そうなんだが……」
俺は素早く状況を説明する。
「とりあえず、柱のてっぺんを狙えばいいのね……アオちゃん、お願い!」
パサアッ!
ブアアアッ!
漆黒の闇に、鮮やかなブルーの羽が舞う。
柱の正面に回り込み――
ズガガガンッ!
ブレス一撃。
一体目、破壊!
俺は操作をアスカに任せ、弓を構える。ギリギリと弦を弾き絞り……横の柱めがけて閃光の矢を放つ!
ズガガアッ!
閃光の矢が突き刺さり、二体目のクリスタルも砕け散る。
「行けるぞ!」
「このまま全部、つぶしちゃえっ!」
ズガ!ズガガッ!
プレスと弓――完璧なコンビネーションで、次々とクリスタルを破壊。残るは――中央の一本のみ。
バサ、バサ、バサ
羽音を小気味よく響かせながら、柱の正面に躍り出る。そして、渾身の力を込めて弓を放つ!
カキイイイイ!
乾いた金属音と共に、矢が弾かれる。
「……!?」
「ダイキ!クリスタルが鉄の檻に囲まれてる!」
「横につけて、剣で叩こう」
「オッケー!」
スウウッ……!
その時――後ろから静かにラストドラゴンが忍び寄っていた。
「……アスカ!後ろだ!」
「えっ……」
シャアアアァァ――
「きゃああああっ!」
ラストドラゴンが不気味な音と共に深紅のブレスを放つ!放射状に広がる炎の粒。避けられない!
「うおおおおっ!」
ブワアアア……!
衝撃と共に、視界が跳ね上がる。
体が宙に投げ出され、ぐるぐる回転し、そして重力に引き戻され、急速に落ちていく感覚。
ズシャッ!
そして、そのまま地面に激突!俺とアスカは砂の上に叩きつけられた。
「い……いたたたっ……アスカ、大丈夫か!?」
アスカはすぐに起き上がり、アオのもとへ駆け寄る。
「アオちゃん!しっかりして!」
プスプスプス……
アオは、ブレスの直撃を受け――煙と焦げた匂いに包まれ、その体を砂地に横たえる。羽はボロボロに焼けこげ、荒い息をして倒れ込んだまま、起き上がる事すらできない。
アスカがアオに寄りかかって叫ぶ。
「アオちゃん! お願い! 死なないで!」
……ブレスが降りかかった時……アオはその羽で俺たちを包み込んで……守ってくれた!
「ダイキ!大丈夫か!」
「お姉ちゃん! 心配したよっ!」
ハヤブサたちがラストマンをなぎ倒しながら駆けつける。
「……大変、……アオちゃん!」
「アオちゃん! どうしたの!?」
「……うわああん! アオちゃんが……私を守って……それで……わああん!」
ユキとリリーも、言葉を失い、倒れたアオを見つめ続ける。
闇の空間で、青い翼だけが――
静かに、動きを止めていた。
大活躍のアオちゃん、絶体絶命!
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