第四二話 地下を進む
日はすっかり暮れ、品川ギルドは夜の闇に包まれていた。
救護所として使われている建物の窓からは、回復魔法の暖かなオレンジ色の光がゆらめき、外気に溶け込むようにこぼれている。
その光は静かな炎のようにゆらめき、激戦の余韻を優しく照らし続けていた。
攻撃陣のうち自力で動ける者が、ぎるぎる荘の食堂に集まってくる。
「アオちゃん、よく頑張ったわね〜」
「マジカルバナナ持ってきたよ! はい、あーん!」
もぐもぐ、もぐもぐ
バタバタ! バタバタ!
アスカとジャネットがスモールドラゴン――アオを取り囲んでかいがいしく世話を焼く。アオも得意げに羽を小刻みに震わせ、ご機嫌な様子。
一方で、リュウガはギルドマスター代理として救護の指揮を執っているため、ここにはいない。俺とハヤブサはテーブルを挟んで座り、状況を整理していく。
「なあダイキ、聞いた感じだと、ルキアの傷は深そうだな」
「ああ、結構な出血だと思う。ルキアも一応、人間だからな」
ハヤブサは腕を組み、低い声でつぶやく。
「ルキアしか表に出てこないが……黒魔道士の一団は地下奥深くに、ロマンシア女王の力で封印されていたはずだ。おそらく、そこにアジトがある!」
「そうだな……ルキアが弱ってるうちに……血痕の跡を辿って、地下を調べよう!」
「そうだな、メンバーは明日、募ろう。少なくとも、回復しているメンバーで編成しないと」
その時――ドアが開く音。
エミリアとモモカだ。二人とも顔に疲労の色を浮かべているが、穏やかな表情から充実感が伺えた。
「おつかれっ!」
「た……ただいまっ……」
ハヤブサが心配そうに、エミリアに尋ねる。
「ギルドの方は大丈夫か?」
「何とか、重症者も落ち着いたわ。これから交代で休むの。そうね……少し寝たら、ユキ、キリカと交代」
「無理するなよ!」
俺たちも大部屋に移動して、布団に倒れるようにもぐり込む。激しい疲労感に襲われるが……最大の敵を追い詰めた高揚感で心は高ぶっている。
(いよいよ追い詰めたぞ……!)
◇◇◇◇
翌朝――
空は雲ひとつない快晴。冷たい空気に、昨夜の魔力の残り香がわずかに漂っている。
ギルドの前に、動けるメンバーが集合した。
リュウガが簡潔に命令を下す。
「ゲートウェイの向こう、地下へ調査隊を出す。メンバーはハヤブサ、ダイキ、アスカ、ユキ」
「はい!」
「頑張ります!」
「俺たちは品川ギルドを建て直して、次の決戦に備える。無理はするな。頼んだぞ!」
リュウガは俺たちに熱い眼差しを向ける。
どの世界でも、どんな事でも、信頼されるというのは嬉しいものだ。
――この信頼に、応えたい。
◇◇◇◇
激戦の跡がまだ残るゲートウェイ前に到着すると、ガレキの隙間からプスプスと残り火が音を立てている。地下へ続く大きな口からは、得体の知れない黒いオーラがじわりと滲み出ていた。
そして――足元には、乾いた赤褐色の血痕が点々と続く。
ハヤブサが一歩踏み出す。
「……行こう。この先に、ルキアがいる」
奥に進むと――入り口から差し込む陽光がぷつっと途切れ、世界は一気に暗闇へ変わった。アスカの光スキルがふっと灯り、白い光が通路を照らす。その明かりの中、壁に絡みついた蔦がうねり、時折、進路を塞いでくる。俺たちは、それを剣で切り払いながら進んでいく。
やがて、通路は別の路線に合流する。東京の地下鉄は複雑怪奇だ。元の世界だと……浅草線あたりかな……
そのまま一時間ほど歩くと……とある場所で血痕が途絶える。
「……変だな」
周囲を見渡していたアスカが、ふと目を細めた。
「……ねえ、そこの壁、なんかおかしくない?」
その視線の先には……分厚い蔦が不自然に重なり合い、その奥にわずかな暗闇がのぞいていた。
「この先、何かあるぞ!」
俺は蔦を掴んで、ぐにゃりと左右に広げる。その奥に――さらに続く通路と血痕。
ハヤブサが驚きの声を上げる。
「こんな所に通路が……ルキアは、ここを通ってきたのか!?」
「可能性は高いな!進んでみよう」
ミシ……ミシ……
固い岩板に囲まれ、人ひとりがようやく通れるほどの狭い道。通路は下へ下へと、らせんのように続いていく。アスカの光が岩肌を照らし、湿った苔が暗緑色に輝いていた。
ザッ、ザッ、ザッ
足を滑らさないように、慎重に下っていく。
「……!!」
一時間ほど進んだ所で、視界が一気に開けて――壮大な景色に出くわす。そこには、東京ドームほどの巨大な地下空間が広がり、その中は岩肌が複雑に入り組んだ断崖を作り出していた。
はるか下、地底の奥には黒い通路がぽっかり口を開け、ゴブリンが数匹、うろついている。
ハヤブサがつぶやく。
「見ろ! あそこに入り口がある。それに見張りのゴブリン……アジトは近いぞ!」
しかし……入り口ははるか地底の底。そこに至るまでの道はなく、断崖絶壁がゆくてを阻む。
これは……専用の装備と技術がないと、降りるコトすらできないぞ……
しかし、何としてもあの先は確かめたい。
その時……!
ゴブリンに反応したのか、突然レトロゲームスキル画面が開く。
(うーん……)
地底探検といえば……ちょうどいいゲームがあるのだが……俺はちょっと考え込む。
(まあ……ここで引き返すよりマシか……)
俺は振り向いて、ハヤブサ達に告げる。
「スキルで行ける所まで行ってみる。みんな、ここで待っててくれ」
「ダイキ! 無理すんなよ」
「気をつけてねっ!」
そして選んだスキルは…………
ルキアを追って、地下へ……やっと地下ダンジョン。次回は、読者様のリクエスト回です!
ポイント★、ブクマお願いします!




