第三五話 暴走特急サンライズ
車内はうごめく魔物の咆哮で充満していた。割れた蛍光灯の光がチカチカと瞬き、影と光が交互に俺の視界を裂く。
鍛えたとはいえ、所詮はしがないサラリーマン。この密集した魔物の群れを押しのけて先頭車両まで辿り着く——ちょっと厳しいな……。
そんな時、天井すれすれに巨体をかがめ、白トロールがのしりと迫ってくる。
「しまった!ここはA寝台か!」
スキルなしでは……とても倒せない中ボス!
白トロールが棍棒をゆるりと振り上げ……そして一気に唸り声を上げながら振り下ろす!
ヒュッ!
「やべえっ!」
その瞬間!
「ウォール!」
バァンッ!
まばゆいい光の壁が現れ、トロールの棍棒を弾き返す。
「ライトニングソード!」
ズシャアアッ!
光の剣が白トロールの胸を裂き、巨体はけいれんした後、崩れ落ちる。
「……えっ、ええええっ!?」
振り向いた俺の視界に、二つの影。
「アスカ!ユキ!」
アスカが怒鳴る。
「何やってんのよ! スキルなしで行ける訳ないでしょ!」
「ダイキ……無茶はダメ……!」
「なんでココにいるんだよ! キャブは?」
「知らない! もうどっか行ったわよ!」
(マジか……運転しながら飛び乗ったのか……!)
とにかく、これでスキルが使える!
「先頭車両だ! 運転室まで行けば……なんとかなる!」
アスカとユキが声を合わせる。
「ライトニング・ウォール!」
ズシャッアッ!
通路の両側に、光を帯びた巨大な壁がそびえ立つ!
グガガガアアッ!
そして、その壁に触れた魔物は、閃光に包まれて瞬く間にチリと化していく。
「……す、すげえ……攻撃と防御魔法って、リンクできるのか!」
「いっぱい練習したもんね!」
アスカが得意げに鼻を鳴らす。
(さすが、胸以外は瓜二つの双子!連携は抜群だ!)
俺は一気に通路を駆け抜ける。
運転室の前には、中ボス、ゴブリンキングが立ちはだかる!
……とは言っても、地下で拾った王冠を被ってるだけで……能力的にはただのゴブリンだ!
「うおおおおっ!」
俺は雄叫びをあげながら、ゴブリンに突進、一撃で真っ二つに切り捨てる!
グゴ……オオッ
バタン!
俺は勢いよくドアを開けて、運転室に踊り込む。
予想通り、この電車はルキアが魔法で操ってる。運転席は無人だ!
そこで俺はようやくスキルを発動!
「レトロゲームスキル……」
ここで選ぶのは、もちろんアレ!
「電車で行こう!」
電車の運転手になれる、本格派トレインシュミレーターの大ヒット作!
運転席が光に包まれ……
運転席がレトロゲームの専用ジョイスティックに変わる。左にマスコン、右にブレーキレバー。
古い作りだが、こっちの方が馴染みある!
「魔力で動いてるなら、こっちもスキルで対抗だ!」
俺は集中して、思い切りブレーキレバーを引く。
キキキキキィィィッ!
金切り音が響き渡り、車体が悲鳴を上げる。
ガガガガ……!
「うおおおっ!」
レバー越しに、抵抗するルキアの魔力が伝わる。精一杯の力を込めて引くが……引ききれない!
ガタン! ガタン! ガタン!
サンライズの車体は、巨大な蛇のように身をくねらせながら、車両基地を疾走する。
「うおおっっ!」
暴れ狂うベージュの悪魔。もはや敵味方関係なく、ギルドの仲間、魔物どもを跳ね飛ばしながら突き進む。
「止まれ……止まれっ!」
(ただのレバーだろ!なんで引けねえんだ!)
その時!全身の毛がぶわっと逆立つ……不思議な感覚と共に、体中に魔力が満ちる。
「……一体、何が……?」
振り向くと、そこには魔物を追い払うアスカと、防御魔法で俺に魔力を送り込むユキの姿が。
(そうだ、俺は独りじゃない。チームで、立ち向かう!)
「おりゃあああっ!」
息を深く吸い込み、持てる力と魔力すべてを込め、レバーを——引き倒す!
キキキキキッ! キキイイッ!
車輪から火花が散り、車体が激しく左右に揺れる。
そして――
ガコンッ!!!
ついにサンライズ、停車!
「ここが終着駅だっ!」
ズガガガガァァァンッッ!!
停車の衝撃で車両は大きくねじれ、豪音と共にくの字型に折り曲がる。車両の連結もあちこちで外れて、もう動けない。異世界に蘇った最後の寝台特急サンライズ、ここに果てる!
「ユキ! アスカ! こっちだ!」
魔力を使い果たしてフラフラの姉妹と肩を支え合って、サンライズから降りる。
グゴ……グゴアッ……
「くっ! こいつら……」
ようやく止めたが……車内に残っていた魔物も続々と降りてきた。目の前に、何重にも折り重なるように魔物が迫る。
「おいおいっ! 何匹いるんだよっ!」
三人とも魔力は使い果たしている。俺は震える手で剣を握り直し、前へ出る。
「アスカとユキには……絶対に手を出させないっ!」
グアアア! グゴアッ!
数十体の魔物たちが一斉に襲いかかる。
さすがに、ここまでか……!
絶対絶命!アスカとユキを守れるのか?
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