第三二話 アスカとユキは、覚悟する
「……」
短い沈黙のあと、ハヤブサがゆっくりと、さらに沈んだ声で再び口を開いた。
「……お前たちの両親、ハルトとサユリは俺たちのせいで……死んだんだよ」
「……ど……どういうこと?」
アスカが震える声で問い返す。
「十五年前、板山台でのルキア戦――当時、ギルド制度は今ほど整っておらず、戦力不足は明らかだった。――ギルドマスターのリョウコは、俺たち学生選抜を戦場に投入したんだ」
「ハヤブサも……戦場に?」
「そうだ。俺たち学生選抜は、雑魚相手には絶大な成果を上げたと思う。多くの敵をなぎ倒し、優勢に立っていた。しかし……オロチの召喚で状況は一変する」
「……!」
アスカとユキが息を呑む。
「オロチには……俺たちは為すすべがなかった。ハルトたちは自分の身だけじゃなく、学生選抜も守らなければいけなかった。無数の竜が炎を吐いて暴れまわる――まさに地獄。サユリは、すべての魔力を……」
そこまで言うと、ハヤブサの声が震えた。
頬を一筋の涙が伝う。
「……すべての魔力を、俺たちを守るために使い果たし……本当なら、生き残れたのは、俺じゃなくて……」
その先は言葉にならなかった。
重い沈黙が支配する。
そして、ハヤブサは、ようやく次の言葉を絞り出す。
「それから、最後に一つだけ加えておく」
「……!」
「その時の学生選抜は十名ほどいたが……生き残ったのは、俺だけだ」
「そんな……!」
最後の言葉に、俺はリョウコの“厳命”、本当の意味を知る。それは、彼女が背負う、とてつもなく重い十字架。彼女たちはサポートとして優秀だが、最前線に出してはいけない事を痛感する。
アスカとユキは、表情をなくしたようにぼんやりと宙を見つめていた。
俺は静かに声をかける。
「今日はもう遅い。……明日に備えて寝よう。東京中のパーティが集まる品川ギルドは、朝から受け入れで大忙しだぞ。キリカと一緒に手伝ってほしい」
「……」
「……」
新谷姉妹は返す言葉を探すが、見つからない……
ただ、壁かけ時計のカチカチと鳴る音だけが部屋に響く。それはまるで、決戦へのカウントダウンのように時を刻み続ける。
◇◇◇◇
翌朝、品川ギルドは東京中のパーティが集まり、ごった返していた。キリカも受付の一員として、作戦の説明などに走り回る。
そして、各パーティは続々とギルドを出発し、集合場所のゲートウェイに向かっていく。
俺とハヤブサが出ようとした、その時――
完全武装の戦闘服に身を包んだ二つの影が、俺たちの前に立ちはだかった。
「アスカ……ユキ!」
アスカが力強く言い放つ。
「あの後、すっごい考えた!……でも納得なんてできない!」
「……」
涙をこらえながら叫ぶ。
「ハヤブサのせいで父さんと母さんが死んだなんて……思って欲しくない! 絶対違う! そんなのやだ!」
ユキも深く重い声で、言葉をつむぐ。
「ぜんぶ、ルキアのせいなの……この手で、ルキアを倒す。私は、父さんと、母さんの仕事を引き継ぐ……」
強い決意。その眼差しは強く、まっすぐだった。
俺もハヤブサも、返す言葉を失う。
ポン!
――その時、二人の肩を軽く叩く音。
振り返ると、そこにはリュウガが立っていた。
「リョウコとはだいたい話をつけている。……そこの、おてんば娘たちの件についてな」
「……!」
「俺とリリーが全体を把握し、統率して指示を出す。誰の命も危険にさらさない。その中で、きちんと役割を果たしてくれ」
「……!……はいっ!」
「わかりました!」
決意に満ちた返事。姉妹の表情が一瞬明るくなったあと、さらに引き締まる。
リュウガは、厳しい表情からわずかに表情をゆるめ、言葉を添える。
「強い覚悟、受け取ったぞ。それを止めるのは、罪というものだろう」
ゲートウェイへ向かう道中、俺はリュウガと並んで歩く。
「すまんな、リョウコを説得したのか?」
「いや、こっちこそ、巻き込んで申し訳ない。リョウコだって、止めても聞かない事ぐらいわかってる」
「……!」
「この件に関して、俺の仕事は二つだ。まずは、あの姉妹の"覚悟"を確かめる事。そしてもう一つは……誰も死なせない、完璧な作戦を立てる事だ」
歴戦の戦士リュウガ、その瞳はゆるぎない強い決意に満ちていた。
そして、その決断は――リョウコが背負う重い十字架を、俺たちも引き受ける事である。
……絶対に、負けられない。そして、誰も死なせない。
ぽんぽん
そんな俺の肩を、リュウガが再び軽く叩く。
「ダイキ、お前にも大事な仕事があるぞ」
「……?」
「昔、板山ギルド直営の学校でな、オーク討伐訓練中に手違いでボスに遭遇して、生徒が大怪我したんだ」
「そんなコトが……」
「その報告を聞いたリョウコは怒り狂ってな……」
「もしかして……」
「怒りのあまり、板山ギルドの建物を崩しちまった」
「……!やっぱり、アレか……」
「それも二回」
「……まじかよ……」
「ダイキ!もうギルド連合に建て直す金はないからな!リョウコが怒らないように、アイツらを守れよ!」
「おおう、それめちゃ大事だな!」
「ははは、まったくだ!」
二人して、笑顔を見せる。
俺はビジネスで、リュウガは魔物との戦いでそれぞれ修羅場をくぐってきた。世の中を変える、とか世界を救う、とか考えがちだけど……
実際は、こういう、当たり前のような仕事をキチンと積み上げるコトが大事なんだよな。そして、その先に……誰もが喜ぶ世界があれば、嬉しいよね……くらいの感覚。
俺とリュウガは、おっさん同士、何か通じるモノがあるな!
リョウコの愛情と新谷姉妹の覚悟。
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