優しい人
人でごった返すショッピングモール。
僕の視線の先にいたのは腰が曲がったおばあさんだった。
「大丈夫ですか」
おばあさんに近づいて僕は聞く。おばあさんは微笑むこともなく僕を見る。
「ああ、どこにケーキ屋さんはあるんですか?孫が気になっているらしく…」
歳下の僕にも敬語を使い接するおばあさんに
「右手の列にありますよ。最近できたので店の前に花が飾られていますよ。」
店の方を指さしながら僕は言った。
人には怖がられないように口角を上げて目を細めるんだ。
「ありがとうございます。行ってみますね。」
おばあさんは応えるように微笑んで去っていた。
店に入っていくことを確認して僕も目的地へ向かうため移動する。
エレベーターに乗り込んで一つ上の階につく、
先程のようなノイズはあらず静かで安心する。
人助けをした優越化に浸りながら僕は図書館へ足を運ぶ。
図書館も変わらず人が多い。多くとも聞こえる音は電子音と鉛筆を滑らす音。
精巣のような気がした。図書館は僕の帰るべき場所だと思う。
僕は予約していた自習席に座ってノートを開く。
ノートには僕の視界に入った人の行動を書いていく。
僕の隣に座る女性の「本の内容をメモしている」だとか、
顔を上げた先にいる子供が「絵本を小さな体で開く」とか、
その横に矢印を書く。
隣には「→ページをめくってあげる」や「→読み聞かせてあげる」と
僕が出来る事を書く。これを元に僕は行動している。
いつ隣の女性の手がなくなるかわからない。
いつ子供が本を落とすかわからない。
そうなった瞬間僕は助けにいく。助けられて安心してもらう。
それは僕が「僕のおかげで一時的な安心を得た人」が好きだからだ。
幸福を追求する権利は誰にでもある。
安心した人が再び僕が消えることで不安定になれば僕は幸せだ。
僕が幸せになるためにみんな不幸になってくれる。
だって卵巣にゴールできるのは一人だけじゃないか。




