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22話 看病

 朝。


 体温計を見ると、三十八度であった。


 酷い倦怠感に襲われている。


 原因は分かっている。昨日ののバザーの終わり際に輩から暴力を受けたせいである。


 意外と暴力で被った被害は小さかった。


 打撲と擦り傷でくらいで、歯が折れたり骨折する事はなかった。しかし、打撲と擦り傷が酷かった。打撲による炎症か擦り傷からの細菌が原因だろうか? よく分からない。帰宅してから体調が悪くなってきた。


 最近、働き詰めだからかもしれない。


 とりあえず。


 一晩寝たら治ると思って就寝。


 午前八時頃。


 起床後、体温を測ってみるとご覧の有様であった。


 今日は部活を休むことにした。すでに竜胆と日向夏には連絡を入れてある。


 寝よう。


 なんかラインの着信音が何度も鳴っているが、怠いし煩わしいので、無視してスマホの電源を切り寝ることにした。


 しかし、怠い。


 鈍痛。


 痛い。


 寝苦しい。


 悪夢。


 昔の夢。 


 嫌いな奴。


 憎い奴。


 暴力。


 暴行。


 乱暴。


 嫌だ――


 やめろーー


 とその時インターホンが鳴った。


 僕は飛び起きた。ずいぶん長い夢を見た。時計を見る。一時間しか過ぎていない。


 発熱すると悪夢を見るものだ。昔の嫌な夢を見てしまった。


 …………。


 インターホンは、鳴り止まない。


 どうせ、新聞かなんかの勧誘だろう。


 無視。


 一人暮らしで僕しかいないから、怠くて出られない。


 しかし、どれだけ待てどインターホンは鳴り止まななった。


 僕は立ち上がる。そして、ムカっ腹を立ててながらモニターを見た。


 モニターの向こう側には竜胆がいた。


 僕は、竜胆を家に通した。


 竜胆は、僕の様子を見るなりこう言った。


「正義くん! 大丈夫?」


「これが大丈夫のように見えるか? ていうか、なんで僕の家知ってるんだよ」


「松田先生に電話で聞いた」


「あっそ」


 僕は、再びベッドに横になる。


「早く帰ってくれ」


「帰らない。正義くん、薬飲んでる?」


「飲んでない。持ってない」


「そう思って、買ってきたの」


 竜胆は、持ってきていたビニール袋から箱とペットボトルに入った水を取り出した。


 箱の中身は、鎮痛剤と風邪薬である。


 風邪薬が効くかはどうか分からないが、鎮痛剤はありがたい。


 竜胆は、鎮痛剤を飲もうとする僕を静止した。


「ご飯食べた?」


「食べてない」


「とりあえず、ゼリー持ってきたけど食べる?」


「食べる」


 僕は、竜胆の持ってきたゼリーを受け取った。


 そして、ゼリーをスプーンでゆっくり口に運んだ。


「うまい」


「ブドウ味だけど大丈夫だった?」 


「うん」


「お粥とかは食べれる?」


「お粥は嫌いだ」


「うどんは?」


「食べれる」


「分かった。とりあえず鎮痛剤飲んで待っててね」


 竜胆は、うどんの用意を持って台所に立った。


 テーブルに、竜胆の持ってきたビニール袋が置いてある。


 半開きになったそれを見ると、レトルトのお粥があった。


 どうやら竜胆は、お粥もうどんもどちらも作れるように持ってきてくれていたようだ。


 しばらくして、竜胆は素うどんを持ってきた。


「食べさせてあげようか?」


「自分で食べる」


 僕は起き上がり、箸を手に取った。


 うどんを啜る。


「うまい」


「よかった」 


 僕は、うどんを平らげた。その頃には鎮痛剤も効き始めて来て、だいぶ身体が楽になっていた。


 僕は、再び横になった。


「で、なんで家に来た?」


「看病と謝罪に……」


「謝罪?」


「昨日、男の人から私を庇わなければ、こうはならなかったのに」


 そう言って、竜胆は頭を下げた。


「ごめんなさい」


 と涙をこぼしながら。


 僕は、竜胆を諭した。


「あれは、僕が勝手にしたことだ。気にするな」


 と言っても、竜胆は気にするだろうけれども。


 竜胆は、涙を拭う。


「ううん、本当にごめんね」 


 ポタポタと、涙がシーツに落ちる。


 こいつは。


 こいつってやつは……。


 僕のことなんか放っておけばいいのに。


 あの時だって、部活に入る前の僕にだって――


 僕は、俯いている竜胆の頭に手を添えた。


 そして――


 グーにして軽くこづいた。


「泣くな、汚れる」 


「ごべんなさい」


「泣き過ぎて言葉になってない」


「だっでー」 


「悪かった、なんか知らんけど僕が悪かったよ」


「正義くんは悪くない! こんなボロボロにされちゃって……私の為に」


「大した怪我じゃないよ。確かにちょっと痛いけど。やっつけられたらかっこよかったけどな、ははは」


 竜胆は、愛想笑う僕の顔を抱きしめた。


「正義くん、守ってくれてありがとう」


「お、おう」 


 ていうか。


 痛い。


 昨日殴られたところが痛い。


「痛い!」


「あ、ごめんなさい」


 竜胆は、離れた。


「ねえ、正義くん一つ聞いていい?」


「なんだ?」


「正義くんって、なんで捻くれた振りをするの?」


「何を?」


「本当は優しいのに、優しくない振りをするの?」


「…………」


「私知ってるの、凪さんが本当は病気で陸上部を辞めたこと」


「そうだったのか?」


 竜胆は、頷く。そしてこう続けた。


「あの日、私も日向夏さんに本当の事を聞こうとした。でも正義くんは、私より先にそれに気づいていた」  


「たまたまだよ」


「今回、私を助けてくれたことも」


「…………」


「そんな正義くんが、優しくないわけがないの!」


 こいつはやっぱり。


 やっぱり――


 僕の心に――


 心の中にずけずけと踏み込んでくる。 


 分かったふうな顔して、入り込んでくる。


 僕は、お前のそう言うところが嫌いだ。


 嫌い。


 嫌いだった。


 嫌いなはずだった――


 お前は、ずっといいやつだった。


 僕の為に、涙を流してくれるいいやつだ。


 純粋でいいやつって分かっていた。


 知っていた。けれども、知らない振りをした。


 いいやつだから、いつか僕の懐に入り込んで、僕の心を暴いてるくるのが怖かった。


 恐ろしかった。


 だから、遠ざけた。


 徹底的に拒絶した。


 崩れる。


 僕の処世術が、壊れる。


 瓦解する。


 僕は、竜胆に語った。


 僕の過去を語った。

 

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