21話 バザー二日目 後編
僕の提案したのど自慢大会は、好評であった。
審査員は、橘市長及び学生団がやってくれた。
行方不明だった日向夏は、どう言う経緯があったのか知らないけれど、のど自慢大会にエントリーしていた。
もちろん、無効試合にした。
上位三位までの入賞者には、商品券をプレゼントした。
とにかく、なんとか超一流演歌歌手――柿山栄三郎が到着するまでの時間を凌ぎきったのである。
僕は、日向夏の頭をどついた。
「お前、こんな大変な時になにやってんだよ」
「いた! 暴力反対や! イジメや! ドメステッックバイオレンスや! そうは思わへん? しおりん」
「正義くん、暴力はダメよ! でも、正義くん、本当にありがとう」
礼を言う竜胆。
柿山栄三郎がバザーに到着してからは、大盛り上がりだった。
もうすでに日は暮れていたのに、来客は多かった。
しかも、先程のど自慢大会をやっていたから、柿山栄三郎の期待は凄かった。
柿山栄三郎が歌い始めてからは、もうとにかく圧倒された。
急遽、急ピッチなのど自慢大会に加えて、参加者と素人であるから、どれくらいの歌唱力はある程度想像できる。
しかし柿山栄三郎は、プロの演歌歌手である。
本物の実力は、半端ではなかった。
そうして柿山栄三郎はアンコールも歌い終え、ステージも終わりを告げるのであった。
閉演後。
バザーは終わり、学生団はテントを片付け始めた。
僕と竜胆と日向夏は、みんなと一緒に手分けしてテントや売れ残った商品を片付けていると、三人の輩の姿が目に入った。
こういう、お祭り的なイベントにはどこにでもいるものだ。
輩は、近くにいた竜胆を見るなりこう言った。
「姉ちゃん、めっちゃ可愛いじゃん。この後暇?」
「暇じゃないです。片付けがあるので」
「そうじゃなくて、片付けが終わってからって言ってるの」
「いえ、すみません」
「何謝っちゃってるの? かわいー。謝んなくていいから、俺らと一緒に飲みに行こうよー」
「私、未成年ですから」
「そんなのいいからさ」
ゲラゲラと笑う輩。
何がそんなに面白いか分からない。
人の神経を逆撫でする話し方だ。
竜胆は、萎縮していた。
僕は竜胆の元へ駆け寄った。
「連れに何かようですか?」
「何にーちゃん、邪魔。マジでキモイよ」
「キモイ? 明らかに嫌がってる女の子に言いよる方がやっぽどキモイと思うけど」
「はあ?」
リーダー格と思われる男が、僕の襟首に掴みかかる。
「てめぇ、調子に乗りやがって」
「調子に乗ってんのはお前だろ!」
僕は、襟首を掴んでいる腕を解いて、両手で男を前に押した。
男は、後方に仰反る。
男にとってそれが喧嘩のゴングだったのかもしれない。或いはお酒を飲んでいて、そもそも興奮状態だったのかもしれない。
集団でいると判断が鈍るものである。
激情した男は、僕に向かって蹴りを放った。
前蹴り。
いきなりのことで僕はそれを交わすことが出来なかった。
腹に足が突き刺さる。
鈍い痛みが胸に込み上がる。
気持ち悪い。
胃がひっくり返りそうだ。
僕は、男を見た。
男は追撃してくる。腕を振りかぶっているのが見えた。
僕は、前方に突進して男と組み合った。
しかし、男の方が力は強かった。
僕は男に組み倒されて、マウントポジションに入る。
男は、必要に僕の顔面を殴りつけた。
「雑魚のくせに調子乗ってんじゃねえぞ、ゴラ!」
「うるせえ、クソ野郎!」
僕は、男の腕を掴み、思い切り噛みつく。
男は痛みで僕を振り解き、立ち上がる。
「クソガキ! 舐めた真似しやがって!」
男は、倒れ込んでいる僕の頭を何度も蹴り込んだ。
脳天に衝撃。
落ちそうになる。
が堪える。
その時、
「お前何やってるんだ!」
と声がした。
声の方に目をやる。
楠木市長と豌豆であった。
輩は、逃げる。
一人倒れている僕は天仰いで呟く。
「ったく、僕は何をやっているんだ」
と。




