18話 合宿
合宿。
その場所に、僕たちエンジェル部は温泉宿を選んだ。
と言うは、日向夏の提案である。
先日のバザー企画会議が終わった後、日向夏は僕と竜胆にこう言うのであった。
「もうすぐ夏休みが終わってまうやんか。まだ、うちらまだ合宿行ってない! 合宿ゆうたら夏休みの醍醐味やんか」
とのことらしい。
なんだよ。
夏休みの醍醐味って。
合宿と言うよりは、ただの旅行。
とにかく。
僕からしてみれば、合宿なんて行きたくないし、家でゴロゴロしたいのである。
そもそも、僕は夏休みを満喫していない。
夏休みの間、部活ばっかりであった。
ホームレス、あるいは被災地域の人の為の炊き出し。
老人ホーム、保育園に行って職員のお手伝い。
部活ばっかりである。
そして、極め付けにバザー企画会議。
あれは、大変であった。今年に限って謎に意識が高い生徒がいたのか、会議が難航した。
もし、豌豆の案が通ってたら今頃ご当地グルメを作る練習をしていたに違いない。忌々しい限りである。
とまあ、こんな感じで文句を言っていても時間は過ぎていく。
諸行無常である。
合宿当日。
電車で目的地の最寄駅までやってきた。
温泉街。
そこから徒歩で温泉宿に向かう。
ちなみに、ここの温泉は美人の湯らしい。
そんなこんなで、夕方前に温泉宿にたどり着いた。
温泉宿。
今回の宿泊施設であるが、竜胆が手配してくれた。と言うのは、竜胆の母方の祖父母がここの温泉宿を経営していて、その縁で格安で予約出来たのである。
チェックイン。
フロントに竜胆の祖父母が待っていた。
「よく来たね。栞」
「おばあさま、ご無沙汰しております」
竜胆は、地元のお土産を手渡す。
翁は、僕を見るなりこう吐き捨てた。
「お前が、栞の男か。栞はお前みたいな男にはやらんぞ」
「別に付き合ってねぇよ」
「そうか」
「そうだ」
「孫のことは、好きか?」
「別に」
「こんな可愛い孫を好きにならんとか、お前は頭おかしいんか」
「知らねえよ」
僕は、嫗に鍵を催促した。
鍵は、二本。
僕の部屋と、竜胆と日向夏の部屋である。
嫗は、言う。
「女の子の部屋に行っちゃ駄目よ」
「いかねえよ」
そんなこんなで僕は鍵を受け取り、自分の部屋に入った。
客室。
和式のいい感じの部屋であった。
この後、竜胆と日向夏の三人で外で夕食を食べに行く。
僕は、部屋を見まわした。
「やっぱり、部屋は和室に限るよな。ベッドよりも布団の方が日本人にあってるよな」
「おい」
「!」
知らない人の声がして、僕は飛び上がった。
後ろを見る。
そこには、竜胆の祖父が立っていた。鍵をかけ忘れていた。
「なんで、孫のところに行かない?」
「行ってたらどうするんだよ?」
「殺す」
「脅迫されちゃったよ」
「と言うのは冗談で、君には感謝している」
「急にどうしたんですか。別に、僕は感謝されるようなことはしてないですよ」
翁は、語る。
「孫は、ああ見えて家では厳しく育てられておる。優秀な姉がいて、いつも孫は比べられて育ったのだ」
と。
よくある話である。
兄弟、姉妹。
同じ親の子でも、実際は不平等である。
能力は、違うのである。
翁は、続ける。
「孫は、両親に押さえつけられて育てられた。可哀想な子だ」
「それと僕がなんの関係があるのですか?」
「孫は、家から逃げる為に一人暮らしをしておる」
「!」
そうなのか。
不自然だと思っていた。
女子の一人暮らしなんて、普通裕福な家の親が許すのかと。
そんな理由で一人暮らしだったのか。
翁は、さらに続ける。
「孫が一人暮ししてから、去年一度会った事があった。その時はとても楽しそうにしていた。だが、今日お前をみて確信した。去年よりも楽しそうな孫を見て、それは前のおかげだったんじゃな」
「なんの話ですか」
「悔しいが、孫をやろう」
「だから、なんの話ですか!」
支離滅裂な、おじいちゃんである。
ちょっと、ボケているかもしれない。
とその時、竜胆の祖母がやってきた。
「おじいさん、勝手に人の部屋に入っちゃ駄目でしょ。まだお仕事残ってるんだから、戻ってきてちょうだい」
「今、大事な話をしているんだ」
「あら、そうなの?」
「ああ、そうだ。こいつに孫を託していたのじゃ」
「あら、まあ」
おい。
あらまあじゃない。
話が余計にややこしくなる。
僕は、部屋を後にする。
「とりあえず、今から三人でご飯食べに行くんで、あとで聞きますね」
「あ、待て! 話は終わっとらんぞ」
翁のそんな声が聞こえたが、無視して脱走した。
ちょっと、怖かった。
しかし――
竜胆にそんな過去があったのか。
知らなかった。
そんなふうには見えなかった。
僕は、思い違いをしていたのかもしれないな。
そう思っていると、日向夏の声が聞こえた。
「まーくん、おそいー」
「あ、悪い。ちょっと竜胆の祖父と話してた」
「なんの話しとったん?」
「別に」
そうして、三人には夕食を食べに行った。
温泉街。
選んだ店は、鶏ちゃんと言う郷土料理を提供してくれる店であった。
味噌、醤油ベースのタレに漬け込まれた鶏肉が美味しかった。
友達と食べる夕食は、いつもよりも美味しかった。
それから、三人で打ち上げ花火を見に行った。
たまたま、近くで花火大会が行われていたのである。
三人で見た花火は、綺麗だった。
宿に戻り、お風呂に行く。
温泉に浸かっている翁の姿があった。僕は踵を返し、部屋の備え付けの風呂に入った。




