11話 期末テスト
二年生、一学期。
期末テスト。
この言葉を聞いて、嬉しいと思う学生はいないであろう。逆に優等生のお嬢様竜胆は、テスト週間が始まってからワクワクしていようだ。竜胆は、それを武者震いと呼んでいた。変態である。テスト対する自信は上場で、学年十位以内を狙っているようだ。忌々しい限りだ。
一方日向夏はテスト週間に入ってから、まるで天敵に追い詰められたウサギのように身体をブルブル震わせるようになった。
放課後、勉強を嫌がってエンジェル部室に連れて行くのも一苦労。
中間テストが終わってから期末テストが始まるまでの約一ヶ月間、前回の復習も含めた期末テスト対策をほぼ毎日取り組んでいたけれど、日向夏にとってテストは天敵と同義であった。
しかし、そんなことを思っていてもテストの日はやってくる。どんな嫌なことも、最終的には先送り出来ないと言うのが人生である。
勝つか負けるかは、本人の努力次第である。
日向夏の場合、勝ちは赤点回避、負けは赤点再試である。なんと志の低いことか。
とは言え、日向夏の場合は赤点を回避してクビになった陸上部に再入部すると言うのが目標である。ちゃんと陸上部の顧問には自分が赤点を取らない事を知らしめるためにも、絶対に赤点を回避しなければならない。
ちなみに、僕の今回の期末テストの目標は上位五十位以内に入る事。そう言うと、自分の志の低さを問われるかもしれないが、当学年の生徒数は約二百人である。ぶっちゃけ、順位が学年で真ん中よりも上に入ればなんでもいいのだ。
テストは、二日間ある。
この二日間に、現代文、数学、英語、日本史、世界史、物理、科学、保健体育の九教科のテストを行う。
基本的に、どの教科も30点以上得点が得られれば、赤点は回避出来る。
初日のテスト。
一限目は、数学であった。
日向夏の苦手科目。
テスト中、日向夏の様子を見たらかなり焦っているようだった。
ただ、部室で勉強対策した問題が多く出てきたので、それを思い出せれば解けない問題でもないはずだが……。
テスト時間を終えるチャイムが鳴り、解答用紙は回収。日向夏は机に突っ伏して撃沈していた。この後まだ三教科残っているのだけれども、最後までやり切れるかどうか心配になった。
ファイト!
頑張れ、聖女様!
とエールを送る僕であった。
そんなこんなでテスト初日は終えた。
放課後。
この日は、敢えてエンジェル部で勉強会する事なく解散した。今更勉強しても遅いからである。
テスト二日目。
本日行うテストは、物理、世界史、保健体育の順。
物理は、特に日向夏が苦手な教科である。
確か前回5点だったか。
ただ、物理はそもそもテストの平均点が低い科目である。
平均点が低い教科は、赤点ラインも引き下げられる。
前回の物理のテストは、平均点が28点だったので、赤点ラインが15点まで引き下げられた。
今回も、赤点ラインが15点以下になる可能性は非常に高い。
そして、物理は数学と似ているようで違い、公式を覚えることが特に重要である。
日向夏は、記憶力が鈍い傾向にあるけれど、その対策は部室でもしたつもりだ。
…………。
ただ……。
一応対策はしたのだけれども、覚えているかどうかは日向夏次第である。
日向夏の物理のテストの結果に期待はしていないが、その出来次第で次の二教科に響かなければ良い。
テストは、モチベーション勝負だったりする。
一限目の出来栄え次第で、後のテストのモチベーションが変わってくる。
…………。
日向夏よ。
心を折られていなければいいが……。
そして二限目、三限目と時間は過ぎて行き、二日目のテストも終わりを遂げるのであった。
放課後。
僕と竜胆と日向夏は、部室に集まった。
竜胆はすでに昨日、今日の問題用紙から全ての教科の答えを導き出していた。それを参考に、三人で全教科の自主採点することにした。
僕、とりあえず全教科、60点以上は取れた。まずまずである。
竜胆、全教科90点以上。化け物である。
そして問題の日向夏――
全教科、赤点回避であった!
物理だけ15点ギリギリだったけれど、問題の難易度を鑑みるとおそらく赤点ラインは引き下げられるはずだ。
そこだけ少し不安であるが、99パーセント赤点は回避である。
竜胆は、日向夏に抱きついた。
「よかったね! 凪さん」
「ほんまありがとう! しおりん、それからまーくん」
僕は、やれやれと頭を掻いた。
「昨日のテストの様子から、二、三個は赤点とると思ってたけどよかったじゃん」
「ほんまな、難しかったわ。しおりんとまーくんがおらんかったら、赤点回避は無理やったわ」
「だろうな。それで、よかったな、陸上部にも復帰出来るんじゃないか?」
「それのことなんやけどな」
日向夏は、つぐむ。
そしてこう言うのであった。
「なんか、陸上部に復帰したとしても次からのテストは無理な気がするから再入部はやめることにするわ」
と。
そしてこう続けた。
「やから、エンジェル部に入りたいなーって思ったんだやけどええかな? この一ヶ月間めっちゃ楽しかったし。しおりんええかな?」
「ほんと? 日向夏さんが入ってくれたら私すっごく嬉しい」
竜胆と日向夏は、ハイタッチし合っていた。
…………。
僕を蚊帳の外で……。
僕も一応ここの部員なんだけどな。
まあ、そんなことはどうでもいい。
日向夏がエンジェル部に入るのは好都合である。
と言うのは、すでに期末テストが終わってすぐに夏休みが入るからである。
野球やサッカーなどの部活は、夏に向けて試合等の行事が増えてくるけれど、行事もなにもないであろうエンジェル部は、夏休み中特に部活動はないであろう。知らんけど。
とまあ、夏休み中は久しぶりに一人遊びと洒落込む事が出来るのである。
そして、間が空いたのちに二学期に入ってからもエンジェル部をフェードアウトしていこう……。
そう思っていると、僕にとって絶望的な知らせが耳に入ってきた。
竜胆は、笑顔でこう言った。
「夏休み、いろんな行事があるから、正義くんと凪さんがいて助かったよ」
と。
僕の一人夏休みライフの未来は打ち砕かれたのであった。




