開拓者の見る悪夢
しいなここみ様「冬のホラー企画3」参加作品
ーー 時々見る夢がある ーー
私は集団で走っている。
マラソン大会の時もあれば、怪獣から逃げている時もある。シーンは様々だが、とにかく集団で走っている。
しかし、なかなかスピードが出ない。何とかして前傾姿勢を取ろうとするが、逆に体が後ろに倒れてしまう。
ならばと後ろ向きになって走ってみる。
そうしたら進む。なかなかスピードが出る。
しかし、一緒に走っている周りの人からは奇異の目で見られる。
それが恥ずかしくなって、また前を向く。
すると、また走れない。
そんな夢だ。
人と違うことをやることに迷いがある。そんな悩みを抱えている時に見る夢だと、自己分析している。
ーー 度々見る夢がある ーー
私はどこかに向かっている。通勤の場合もあれば、登校の場合もある。誰かとの待ち合わせの場合もある。夢なのでその都度、私の年齢も境遇も変化するのだ。
ただ、共通するのは目的地到着までタイムリミットがあることだ。しかも、そのリミットまであまり時間が無い。
私は急いで近道をする。
しかし、近道した先が通行止め等で通れない。ただ、引き返すのもロスだと思い、別の近道を行く。そこもダメ。別の近道を探す・・・とやってるうちに道に迷う。
そこで地図を見ると、随分道が逸れていることに気がつく。
東京から徒歩で移動しているはずなのに、いつのまにか京都にいるという具合。
そんな夢だ。
この夢は本当によく見る。私は度々、自分の人生の行くべき道に迷っているのかも知れない。
それとも、これまで来た道に対して後悔があるのだろうか?
・・・いや、後悔なんかしていない。
自分で下した決断だ。後悔など微塵もない。
ーー 久しぶりに古い夢を見た ーー
私は小学生だ。
吹雪いている夕方に家を出た。学習塾に行く為だ。
弟は両親と祖父母と炬燵に入り、チョコレートを食べながらTVを観ていた。
「寒いから気を付けて」
と彼らは言った。「寒いから行くな」とは誰も言わなかった。
玄関を出ると、既に雪は膝上まで積もっており、少し歩いただけで長靴の中に雪が入った。
この雪は徐々に融けて爪先を冷やしていく。ただ、それさえ我慢すれば寒さはなんとか耐えられる。雪国仕様の防寒着、マフラー、耳当て、分厚い手袋という完全装備のおかげだ。
時折吹き付ける風の音と、自分の息遣い以外は、チリチリという、雪が傘に積もる音しかしない。
傘は数分で雪が積もり、ずっしりと重くなる。その度に私は雪を振り落とした。
そんな中を私は歩いた。しかし、塾に行く気は無かった。
家を出て、1時間ちょっと散歩で時間を潰し、何食わぬ顔で家に帰る。それがサボりの常套手段だったのだ。
(こんな吹雪の日は、普通に塾に行った方が楽なのではないか?)
大人の頭で考えるとそう思う。しかし、子供の頃の私は、サボると決めた日は、こんな苦労をしてでもサボっていたものだ。
私はしばらく歩いて、スーパーマーケットに入った。そこは外とは別世界のように明るく、温かく、人が大勢いる。
適当に売り場を周回し、温まり、休憩し、怪しまれる前に外に出た。
「あら、〇〇君!」
女性に声を掛けられた。友人の母親だ。
「おうちの人は?こんな天気にお使い?」
そんな質問をされた。当然だろう。時間的には夕方だが季節は冬。曇天と雪も相まって既に外は真っ暗だったのだ。
「いえ、塾の帰りです。寒いから少し寄り道してました」
私は咄嗟に半分嘘をついた。
「おばさん、車だから家まで送ろうか?」
女性はそう提案してきた。いや、まだ塾が終わるには早すぎる時間だ。今、送ってもらうのはマズイ。
「いえ、大丈夫です。すぐ近くなので。ありがとうございます!」
私はなるべく女性に心配させないように明るく、元気に答えた。
そして、スーパーを出ると、車が通れないような細い道に入った。
車に乗っている女性に、見つかるわけにはいかなかったから。
裏路地は人が踏み入れない分、腰まで雪が積もっていた。そこを分け入って入る。
とても暗い。
学校帰りによく裏道探検するので、よく知っている道のはずだ。しかし、暗さと雪のせいで、随分知っている景色と違う。
私はだんだん心細くなってきた。
(こんな所を歩いている方が怪しいか・・・)
私はそんな理由をつけて、引き返すことにした。
(!)
振り返り様に一歩踏み出した時、片足の長靴が脱げた。
脱げた靴は雪の中に埋まっている。足を雪に突っ込んで探ってみたが、なかなか見つからない。
私は覚悟を決めて、両手で周りの雪を掻き分けた。
「どうしたの?」
なんとか長靴を見つけた時、大人に声を掛けられた。今度は知らない人だ。50歳ぐらいの体格のいい男性。
「長靴脱げちゃって・・・でも大丈夫です。見つかりました」
私は答える。
「危ないから、こんな所で遊ぶなよ!」
男性の声は少し怒気を含んでいる。
「すみません!」
「どこの子だ?帰りなさい。家に連絡してやるから」
男性は言う。
「すみません!近いので帰ります!すみません!」
私はそう言って走り出した。
足元は雪。爪先は冷えで感覚が無くなってきている。防水素材の厚手の手袋も、脱げた長靴を探した際に中に雪が入り、手がジンジンしてきた。
そう言えば傘を持っていない。おそらく路地裏に置いてきたのだろう。
「待ちなさい!」
男性の声が聞こえる。
「すみません!大丈夫です!近くなので!」
私はそう繰り返して走った。
何度も小道に入り、何度も転んだ。
吹雪はますます強い。体が前に進まない。何とか前傾を作ろうとするも、突風で体が後ろに倒される。それでも走る。後ろ向きになったり、横向きになったり、風に煽られながら必死に走る。
気が付けば男の声は聞こえなくなっていた。
そこで私は気が付いた。
(塾のカバンを持っていない・・・)
やはり、どこかで落としたのだろう。
(探さなくては!)
振り返ると一面の雪原だった。
いつの間にか吹雪は止んで、空には月が出ていた。
町が雪で埋まっている。
カバンはおろか、自分の家がどこかも分からない。
少し前まで滞在していたスーパーがどこにあるかも分からない。派手で目立つはずの看板の灯すら見つけられなかった。閉店したのだろうか?今は何時だろう?
誰かに聞くか?しかし、どこを見ても誰もいない。
みんなどこに行ったのだろう?家に帰った?家なんてどこにある?
見渡す限り雪原しかなかった。
砂漠のようになだらかな雪原を、ただ月光が照らしていた。
ーーそこで私は目が覚めたーー
「お目覚めですね。気分はいかがでしょう?」
アンドロイドが声をかけた。
「まあまあです。ありがとう。着いたんですか?」
私は答えつつ、人工冬眠のカプセルから出た。
「いえ、強いストレスがかかっている数値が検出されたので、いったん覚醒してもらいました。診察を受けてください」
アンドロイドは言う。
「ご丁寧にどうも」
「とんでもない。あなたの体に何かあったら、惑星間の外交問題になります」
アンドロイドは、冗談とも本気ともつかないようなことを言った。
2XXX年。
地球は異星からの訪問を受ける。
友好的な異星人との交流によって、地球の文明レベルは一気に進歩した。
そして、彼らの星に初めて大使を送ることになった。
他の銀河系への航行は地球人の寿命をはるかに超える移動時間がかかる。そこはコールドスリープを使用して解決できるのだが、当然、帰ってくる頃には家族、友人、知人は誰もいないことになる。
意外にも、そんな大使に志願者は少なからずいた。
その中から様々な審査を得て5人が選ばれた。
(誰かがやらなければいけないんだ。意義のあることだ)
私は先ほどまで見ていた夢を思い出して呟いた。
もちろん、こんなことに志願するからには、それなりに紆余曲折ある人生だった。でも後悔なんてしていない。ただ・・・
(そう自分に言い聞かせてばっかりいるから、あんな夢をみたのかもな)
私は苦笑いをする。
(彼らはどんな夢を見ているのだろう?)
コールドスリープのカプセルには他の4人がまだ眠りについている。
私はそれを一瞥し、アンドロイドに促されるまま、宇宙船内の医務室に向かった。
了
お読みいただきありがとうございます。
◼️補足・蛇足
SFによく出てくるコールドスリープ。低体温にして代謝を落とし、老化を遅らせる技術になります。
慣用的に「冷凍睡眠」という字が当てられ、本作も最初そう書いていましたが、「人工冬眠」に改稿しました。
何故かというと、実際には冷凍まではしない技術だからです。(現実でもマウスで実験されているようです)
一般的なSFでは、そこはあまり重要じゃないんですが「冷凍したら夢なんて見ないよな」という疑問がわきやすい表現だと思い変えた次第です。
まぁ、低体温でも、夢を見るかどうかは分からないのですが、そこは物語ということで。。




