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俺を振った元カノがしつこく絡んでくる。  作者: エース皇命


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24/27

24 強化合宿に意味はあるのか

 木曜日の次に憂鬱なのが、月曜日だ。

 土日にゆっくり休日を謳歌した後、青春など微塵もない学校が始まる。


 朝から日菜美(ひなみ)は上機嫌だった。


 鼻歌を披露しながら『エンパイア』を読んでいる。

 昨日買った最新刊。

 きっと昨日のうちに読み切っているだろうから、2周目だろうか。


「それ2周目?」


「6周目だよ」


 いきなり想像を超えてきた。


 短期間に何度も読んで、飽きたりしないのか。俺はだいたい3周目以降は一定期間を開けてから読むようにしている。


秋空(あきら)くんはもう読んだ?」


「一応昨日のうちに」


 それから俺と日菜美は、最新刊の内容についての意見交換をする。

 特にラストシーンは衝撃だった。


 話が盛り上がってきたところで、ふと後ろの席に視線をやる。


 オタク日本代表の席だ。

 もしここに真一(しんいち)がいれば、さらに盛り上がったことだろう。


南波(なんば)くんはどうしたの?」


「熱が出たらしい」


「でも、昨日南波くんもアニマイト来てたんだよね?」


「普段日曜は家にこもるから、無理に外出したことで体の免疫システムに異常をきたしたってさ」


 馬鹿みたいな話だが、本当だ。


 日曜日に外出耐性はないらしい。


 なんで俺が知っているのかというと、昨日の夜に連絡があったからだ。とはいえ、俺は基本スマホを見ないので、知ったのは今日の朝だったけど。


 お大事に、と無難な返信をしておいた。


「ねえ、何の話してるの?」


 真一お疲れムードに包まれている俺たちに、聞き馴染みのある声がかけられる。


 千冬(ちふゆ)だ。


 土曜日、今カレのシグレ君とデートしている現場を見てしまったことを思い出す。シグレ君は凄くいい匂いがしたし、体も柔らかくて女子みたいだった。


 やっぱりイケメンは違うな。


「千冬には理解できないであろう話だよ」


「あたしにも理解くらいできるから」


長谷部(はせべ)さん、『エンパイア』知ってるの?」


 日菜美が椅子から身を乗り出し、興味深そうに千冬に聞く。


 俺たちは一応同じ部活だ。

 仲良くやっていきたい。


「な、名前くらいは」


「好きなキャラは、何?」


「えーっと……聖徳太子?」


 何も知らないじゃないか。

 別に見栄を張る必要なんてないのに。


「聖徳太子は出てこないよ」


「漫画って難しいんだね」


 あなたが読んでないだけです。


 それにしても――。


「なんでわかりもしない話に入ってこようとするの?」


「だって……同じ部活だし」


 そっか。

 同じ部活だからか。


「それに……伝えておかなきゃいけないことがあるの」


 何それ。


「帰宅部の部員が増えるってこと」


「は?」


「だから、帰宅部に入りたいって人がいるの」


 俺と日菜美は顔を見合わせた。

 絶対姉さんは許可しなさそうだけど……部長は俺だし、問題ないか。


「それで、帰宅部に入りたい人っていうのは……」


 なんとなく予測できた。


白水(しろみず)紫雨(しぐれ)っていうんだけど……」




 ***




 土曜日。

 秋空が紫雨に絡まれてすぐ。


「ごめんごめん、両替機探してたら時間がかかっちゃった」


「そうだとしても長くない?」


「そんなことないよ。ボクが方向音痴だってこと知ってるでしょ?」


 ミントの香りがしそうなくらい爽やかな笑みを浮かべ、紫雨が言う。


 それを見ていた周囲の女子高生集団が黄色い声を上げた。

 男装をしている紫雨は、すっかりイケメン男子高生である。


 500円玉を機械に入れ、クレーンゲームが始まった。ユーメロディーのぬいぐるみが手に入れられるゲームだ。


 当然これは、千冬にプレゼントするためではなく、純粋に自分が欲しいから。紫雨はユーメロディーに目がない。狙いはクロコちゃんだ。


「ボクの技術をもってすれば、3回で獲れる」


「絶対無理」


「いいや、今日こそ行ける気がするんだ。さっき素敵な出会い(・・・)もあったしね」


「素敵な出会い?」


 円らな瞳で首を傾げる千冬。


「よし決めた! もし3回以内にクロコちゃんが獲れたら、ボクは帰宅部に入部するよ」


「え?」


「ずっと迷ってたんだ。千冬がいるし、それに……秋空くんが部長だし、ね」




 ***




 朝のホームルームが終わると、なんだか嬉しそうな様子で松丸(まつまる)先生がタックルしてきた。


 大人な胸が俺の腹に激突する。


「何ですか?」


「もっとドキドキしてちょうだい。こんな美人な教師が抱き着いてきたのよ?」


「セクハラで訴えますよ」


「いいじゃない。秋空君と私の仲なんだから」


 俺はただ毎回ウザ絡みされているだけだ。


「それで、本題は何ですか?」


「今週末、金曜の放課後から日曜の昼まで強化合宿をします。部員にも伝えておいてちょうだい」


「強化合宿?」


「もう宿は予約してるから変更はできないの。それと、新入部員とも仲を深めておいてね」


「なんでそれを――」


「今日の朝、手続きが終わったのよ。あなたのお姉さんもきっと喜ぶでしょう」


 松丸先生は俺の姉さんがわかってない。


 でもまあ、シグレ君は千冬の彼氏だし、別に問題はないのかもしれない。それよりも強化合宿だ。


 帰宅部の強化合宿。


 そんなわけのわからないことをするのは、世界でもこの清明(せいめい)高校が初めてだろう。

 誇らしい限りだ。




《次回25話 イケメンと同じ部屋はいけないのか》

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