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俺を振った元カノがしつこく絡んでくる。  作者: エース皇命


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19 放課後の呼び出しはこりごりだ

 心がもやもやするのを感じた。


 いざ爽やか系イケメンの存在を確認すると、あの時の浮気現場の記憶が鮮明によみがえったのだ。


 手を繋いでいたわけじゃない。

 肩を寄せ合い、恋人のような距離感で歩いていた。


 その時は当然千冬の彼氏は俺だったため、かなり衝撃的で落ち込んだのを覚えている。その夜は睡眠の質がグンと落ち、翌日の目覚めも悪かった。


「あれ? どっか行った」


 壮一(そういち)は相変わらず呑気な奴だ。


「もうすぐ読書タイムだし、教室に帰ったんだろ」


「だったら何の用があってここに来たと思うよ? もしかして、おれに告白するため、とか?」


「ほざけ。貴様の存在など知られてたまるか」


 真一(しんいち)の当たりが凄く悪い。


 とはいえ言われる方の壮一は世界上位クラスのアホなので、何を言われても脳に響かない。言葉を理解する、という工程を忘れてしまっている。


 突然の来客に注目する俺たちに対して、龍治(りゅうじ)は帝王学の啓発本を読んで新たな知識を会得していた。


 この差は何か。


 そんなことを考えていたら、チャイムが鳴った。

 これからいつも通り10分間の読書タイムがあり、必ず遅刻する松丸(まつまる)先生によるホームルームがその後に始まる。


 木曜日という憂鬱さに侵されながら席に着く生徒たちの姿はなかなか悲しいものだ。


 そこに、本当にギリギリで千冬が入ってきた。


 いつもより1分20秒くらいは早い到着だ。

 今日朝から何か……。


 爽やか系イケメンとの、密会……。

 

「あら、この時間に来たらみんな読書してるのね。龍治君は何の本読んでるのかしら?」


 今度は担任が来た。

 松丸先生が読書タイム中に現れることは初めてだ。


 案の定、生徒の読書の邪魔をしている。

 その対象が龍治だったのは幸か不幸か。いや、不幸だな。


「松丸先生、読書タイム中は私語禁止だと入学のしおりに書いてあります。無論、教師が生徒に語りかけるのも私語とみなされます」


「入学のしおり? そんなのあった?」


「はい、この学校で生き抜いていく上で、最も重要なことが書かれたサバイバル書です」


 龍治の中での入学のしおりへの信頼感が凄い。


 聖書主義ならぬ、入学のしおり主義。


「あー……そんなのがあったような気もするけど……それがどうかした?」


「しおりの13ページに書いてある内容です。この学校の教師なら、朝礼の際に必ず暗唱されられているはずではないですか?」


 それはもはや洗脳だ。


「それなら、これはどう? 教師が読書タイム中に生徒に話しかけたら、必ず3秒以内に答えるっていうのは」


「入学のしおりには書いていません。この世界は入学のしおりに書いてあることが全てです」


 そうなのか。

 初めて知った。


「入学のしおりに書いてないこともあるんじゃない? たとえば、男女交際についてだけど――」


「15ページに具体例付きで掲載されています。男女は清き交際を心がけるべし、と」


「でも、それだと清きの基準がわからないと思うの。そうでしょ? だからそれはクラスの担任である私が決めます」


「いえ、失礼ですが、松丸先生は自由に世界のルールを変えられるような地位をお持ちですか?」


 相当失礼です。

 しかも、何言ってるのかわかりません。


 それに加え、たかが佐世保(させぼ)という小さな地域にある、小さな公立高校のルールが全世界に勢力を拡大したとも思えない。


「世界はちょっと言い過ぎよ、龍治君。でも、あなたの凝り固まった心は変えてあげられるかも。私がとろとろにしてあ・げ・る」


 ちょっとキモいのでやめてほしい。


 またチャイムが鳴った。

 今度は読書タイムの終焉を知らせる音だ。


 龍治はさっきのことなんてなかったかのように、本を閉じて号令をかける。


「起立!」


 松丸先生VS龍治の熱い討論に耳を傾けていたクラスメイトたちが一斉に立ち上がる。


 龍治は切り替えが早い。

 世界レベルで早いので、世界大会があったら出てもらいたいところだ。世界切り替え選手権――うん、悪くない。


 ホームルームは上機嫌の松丸先生の挨拶と共に始まった。


 あの異常者が上機嫌ということは、放課後になるまでの間に俺が何かしら不幸なことを体験するということでもある。




秋空(あきら)君、放課後職員室に来てちょうだい」


 始まった。


 いや、終わった。


 ホームルームを無難に終え、油断していたところで声をかけられた。


 他の生徒は1時間目の数学の準備をしている。

 今日は定期テスト前の単元テストがあるため、必死にノートを見ている生徒が多かった。


「何かあるんですか?」


「部活のことで、少しお話があります」


「昨日はちゃんと部活しましたよ」


「別に疑ってるわけじゃないのよ。休日について、少し確認したいことがあって」


「休日は休日なので、帰宅部は活動しなくてもいいんじゃないですか?」


 ここで、松丸先生が大きな溜め息をついた。


 溜め息をつきたいのはこっちの方だ。

 自分の帰宅部の価値観を押し付けてこないでほしい。


「私が目指してるのはお遊びの帰宅部じゃないのよ、秋空君。本気で帰宅を頑張りたいっていう人が入る部活なの、ここは」


 確かに俺は帰宅に対して本気だ。


「帰宅が上手になるためには練習が必要なのよ? ラクをして帰宅の技術を高めよう、なんて甘い考えは許しません。いいかしら?」


 俺は自分に甘えていた。

 松丸先生の言葉は、帰宅に対して少しでも不誠実な考えを持った俺の気持ちを奮い立たせる。


「あなたのお姉さんとも話したのだけど、インターハイを本気で目指してるそうよ。だったら部長のあなたも、もっと頑張らないと」


 部長として恥ずかしい。


 副部長の姉さんには、インターハイという高い目標があるのに……。


「だから私が顧問の帰宅部では、休日も1日中練習するから覚悟していてちょうだい。その件で、放課後に真剣な話があるの」


「先生……」


 松丸先生の熱い想いに、心打たれ――るはずがない。


 帰宅部にインターハイなんてない。

 帰宅の練習って何だ? 帰宅は家に帰ることであって、それ以上でもそれ以下でもない。


 よって、そこに技術なんてない。


「先生、今の話で気持ちが変わりました。放課後は職員室に寄ることさえ惜しいです。だからすぐに帰宅して、帰宅の技術を高めていきたいと思います」




《次回20話 姉とのデートで恋人ムーブ》

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