15 徒歩での帰宅でハーレムを
中学時代からずっと帰宅部だった。
そんな俺もやっと高校で部活デビュー。
そして入部することになったのはなんと帰宅部。複雑な心境だ。
「秋くん、やっと来たね」
いつもはバス停で待っている姉さんが下足室にいた。
もうすでに俺の靴を取り、最高の流れで履き替えられるようにスタンバイしている。
俺と一緒にいるのは同じ部活の仲間である日菜美と千冬。
元カノがいる気まずさを常に感じながら、俺は靴を履き替えた。
「ねえ秋くん? この女って、もしかして秋くんの元カノ?」
メスとか言うな。
「うん、まあ」
「どうしてここにいるの? もしかして私に謝りにきたの? 秋くんを傷付けてごめんなさい、って」
「あたしも帰宅部の部員です」
千冬はツンとした表情をしながら、俺の腕を掴んだ。
姉さんの千冬へのヘイトは相当溜まっている。
その状態でこんな様子を見せつけられれば、もう姉さんの彼女に対する殺意はマックスだろう。
「日菜美ちゃん? 百歩譲ってあなたはいいとして、なんでこの女を帰宅部に入れたの?」
「松丸先生が入れました、夏凛様」
名前で呼び合うほどの仲になってくれたようで感動だ。
でも、そこには封建的主従関係があるような気がしてならない。姉さんがいい上司であることを願おう。
「日菜美ちゃん、あなたには失望したよ。私が日菜美ちゃんの入部を許可したのは単なる人数合わせ。仕方なく、なんだよ? 別に、ちょっと話してみたら案外素直で可愛くて、気に入っちゃったから、とかいう理由じゃないからね」
本音が漏れてます、姉さん。
ほんと、仲良くしてくれているようで何よりだ。
「あの、とりあえず学校を出よう」
仲良くしてくれるのはいいんだが、まだ下足室から一歩も動けてない。
これは帰宅部存続の危機。
帰宅に振り切るまでの前置きが長い帰宅部など、あってはならない。
「思ったんだけど、千冬はこれでいいの?」
「どういうこと?」
帰宅部最初の活動は、帰宅途中のコンビニに立ち寄ることになった。
バスで家のすぐそばのバス停まで行き、佐世保駅にあるコンビニで買い食いをする。いかにも青春っぽいイベントだ。
問題は、歩く、ということ。
姉さんが、歩いて帰るのが帰宅部なんだよ、とか勝手なことを言いだして歯止めが利かなくなったのだ。
いつもはバスで帰る道を、今日は歩いて帰っている。
これが毎日続く、なんてことないよな……?
「千冬の家って逆方向だよね? 今まったく違う方向に歩いてるんだけど」
「秋空く――秋空、あたしは帰宅部の副部長なの。だから部長の家があたしの家ってことになるんだよ」
「無理して呼び捨てにしなくていいんじゃない? ていうか、俺の家には来ないでくれよ」
頼むから爽やか系イケメンとどっか行ってくれ。
「あなた、秋くんの元カノだからって、少し調子に乗ってるんじゃない? こんなに素敵な秋くんを振っておいて、そんな勝手な――」
「あたしは今でも秋空の彼女です!」
「いや違うよ」
今の状況を説明しておこう。
俺の右手には姉さんがいて、恋人かのように腕を組んで歩いている。
左手には千冬と日菜美。
日菜美は姉さんからの指示を受けて千冬を押さえているが、もし彼女がいなければ俺はハーレム状態だった。
美少女3人と歩いているという時点で、ハーレムの雰囲気はあるけど。
学校から家まではだいたい徒歩で20分くらいかかる。
小中学生の時には同じくらいの距離を歩いて登下校していたので、なんだか懐かしいような気分になった。
もちろん、その時には365日姉さんが隣にいたわけだけど。
それは高校生になっても変わらないらしい。
「秋くん、この子は秋くんにとって有害だと思うよ。だから部長命令で退部にしよ?」
「秋空? あたし今、彼氏いないから。だからその……あたしの隣はいないってこと」
「秋空くん、ショジョについて教えて」
部長命令で自分を退部させることはできるんだろうか。
「俺、帰宅部辞めたい」
「秋くん、それだけは許されないんだよ? 秋くんのためにお姉ちゃんが作った部活だから、絶対に秋くんは辞めちゃダメ」
「部長が辞めたら駄目なんてルールはないだろ。流石に」
少なくとも、入学のしおりには書いてなかった。
「帰宅部作る時の申請書見てないの? 部長は卒業するまでずっと秋くんで、もし秋くんが部長を辞めるんだったら、それは学校を辞めることと同じ扱いになるんだよ」
そっか、それは辞められないな。
「――って、そんなわけ――」
「そんなわけあるよ。私と夏凛様で申請書作ったから」
「帰宅部を辞めるか辞めないかに俺の人生がかかってるってこと?」
「そうだよ」
だからなんだその平然とした顔は。
日菜美はまだしっかり千冬を拘束している。
日菜美の方がずっと力が強いので、小動物みたいな千冬は簡単に動けなくなっていた。
そういえば、日菜美は中学時代に体操をしていたそうだ。だからほどよく筋肉も付いているし、それが彼女のスタイルのよさを引き立てていると言っても過言ではない。
「秋くん、やっぱり今日は五番街まで行くよ」
「え、普通にコンビニ寄って帰れば――」
「初日だからって、甘えてたら強豪校に勝てないよ。秋くんと一緒にインターハイで優勝するのが夢なんだから」
姉さんに腕をグイグイ引っ張られながら、俺は帰宅部の強豪校とは何かについて考えていた。
《次回16話 そんなチョロい奴じゃない》
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