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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第二章 自分として、紳士として

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88 幼女吸血鬼とのご褒美論争

 陽はアリアとソファに隣同士で座りながら、紅茶を嗜んでいた。

 もちろん、紅茶は陽が入れたものになっており、アリアは嬉しそうに笑みを浮かべている。


 帰りが遅くなったのもあり、夜ご飯ができるまでの戯れに過ぎないだろう。


「陽くん、今回のテストは頑張る気かしら?」


 アリアが聞いてきた質問、それはホモに話しそびれた内容だ。

 アリアは何かと耳がいいので、ホモとの話を盗み聞きしていたのかもしれない。


 陽はティーカップを置き、軽く天井を見上げた。

 装飾の無い、電気が照らす、真っ白な天井を。


「……自分は、いつも通りぼちぼちのつもりかな」

「会長としては零点ね。でも、自分らしい価値観としては百点と言ったところかしら?」


 呆れながらに言うアリアは、陽に期待していたのだろうか。

 期待されていたかどうかはアリアだけが知るので、真相は闇の中だが。


 アリアはおせっかいを焼いても、親みたいにテストや学校の事に関しては、アリアが関係しない限りは関与しないので、今回も気まぐれで聞いてきたのだろうか。


 もしくは主としての威厳が働き、行動を把握しようとしているのかもしれない。


「まあ、猫がこたつで丸くなるように、自分も温かい場所に居たいからかな」

「あなたが目立ちたくないのは、私がよく理解しているわよ」


 遠まわしに言ったのだが、アリアにはお見通しのようだ。


 陽は裏生徒会の会長としての威厳よりも、目立ちたくない心が未だに勝っている。

 きっと過去の自分を超えていないから、と陽は紳士目線で理解はしているものの、拭え切れていないのだ。


 無論、点数や評価が全ての世界なら、行動は意味を成さない、と今の陽は言い訳していただろう。


 気づけば、アリアは紅茶を静かに嗜んでいた。

 相変わらず幼女体型でありながらの優雅な振る舞いは、美しい所作が洗練され過ぎている。


「やる気、出させてあげましょうか?」


 微笑みながら見てくる小悪魔のささやきに、陽は思わず体を震わせた。

 アリアを恐れているわけでは無いのだが、不意に圧を感じたのだ。


 陽は恐る恐るアリアの深紅の瞳を見た。


「……一応聞くけど、どうやって?」

「あら、簡単な話よ? テスト結果に応じて、ご褒美をあげる、と言ったらやる気は出るかしら?」


 陽は思わず息を呑んだ。

 確かに陽は、テスト後のご褒美をもらったことは無い。

 だからこそ興味はあり、やる気云々関係なしに貰えるのなら貰いたい方だ。しかし、ご褒美の誘惑をしてきている相手がアリアなので、恐らくただであげる理由は無いだろう。


 アリアからのご褒美は未知数なのもあり、好奇心がそそられつつも、ちょっとした不安が突っかかるようだ。


 不意に見た、揺れる紅茶の水面。それは、陽の心が揺さぶられているのをお見通しなのだろう。


 陽は呼吸を整え、静かにアリアの方を見た。


「そういう誘惑はいかがなものかと思うよ? 自分がアリアさんだけの紳士と言え、心は男だよ?」

「あら? 飢えた野獣に負ける程、私はやわじゃないわよ? それに、あなたが一生を償って責任を取ってくれるのなら、私は受け入れるわよ?」


 反論の隙というよりも、陽の通路を綺麗に一直線にしていくアリアは、油断の隙も無いだろう。


 現状、陽はアリアと一緒に寝るようになってから、アリアに一切手を出していない。健全ではあるが、心は男、という言葉に独立性を感じないだろう。


 陽自身、ご褒美を避けたいわけではないが、誘惑でやる気を出すのは避けたいのだ。

 ご褒美に魔法のような効果があったとすれば、それに依存してしまうのは胸を張れなくなる可能性がある。


 自分の実力と言い切れても、裏にはご褒美の引力があった、と自分を肯定しきれないのだから。


「……正直に言うよ。確かにふざけなければいい順位は取れるかもしれないよ? それを取る前に、ご褒美の誘惑で力を出したくないんだ」

「ふふ、長い年月を見れば、あなたの言葉は理解できなくもないわ」


 妙に飲み込みが早いアリアに、陽はどこか気が抜けてしまった。


「陽くん、私みたいな歳を装っている吸血鬼はね、同じ問題に何万と当たるのよ。見ただけで理解出来る紙に、価値はあるのかしら? 誇りや名誉を守るのは許せるとしても、無駄な野外の圧は雑音に過ぎないのよ」


 陽は正直、難関とも言えるアリアの言葉遣いに、頭がハテナで埋まりそうだった。

 それでも理解できるのは、たとえ今を避けていたとしても、いずれは交差する中心にある道、という事だろう。


 陽は、優雅に紅茶を啜るアリアを、理解し切れていなかったのだと改めて感じた。


 理解し切った気にはなっていないが、彼女のご褒美はただの休息に過ぎず、テストに干渉するつもりで言ったのではなかったのだから。


 アリアは多分、今の陽に、ご褒美をあげたいのかもしれない。

 陽からすれば素直に言ってほしいものだが、主たるアリアは自然にご褒美を渡してきそうなので無理もないだろう。


「……まあ、テストは頑張ってみるよ」


 アリアは目を細め、小さく口角をあげて笑みを浮かべた。


「良い子ね。あなたは頑張っているのだし、私からのご褒美をもらう権利はあるわよ」

「うん。ほどほどに頼むよ?」

「どうしましょうかね?」

「……本当に、無理はしなくていいからね」

「主が部下を労うのとは違って、私は陽くんだけは甘やかすつもりよ?」


 ご褒美をくれるのは理解したが、後のお返しのハードルが上がるというものだろう。

 無論、お互いの間に『遠慮』は要らないので、アリアの選択は間違っていないのだが。


 陽が苦笑いしていれば、アリアはティーカップに紅茶を注ぎ足していた。


 そんなマイペースなアリアを見て、陽はふとある事を思いついた。


「そういうアリアさんは、ご褒美なにがいい?」

「……え?」

「なんで驚くの……。ほら、前は自分が勝手にやったことだから、アリアさんの要望を実現できる範囲であればご褒美をあげたいな、って」


 本当に何でもしそうで怖いわ、と言いたげなアリアの目を見るのはいつぶりだろうか。


 実際、陽はアリアの為なら、お店の貸し切り程度なら簡単にする気だ。

 無論、お互いに貸し借りは無しなので、ハードルは上がらない……予定でいる。


 アリアが困りそうなのもあり、陽としてはあくまで最終手段だ。

 ふと気づけば、アリアの頬が赤くなっていた。


 手を出していないのに頬が赤くなっているのもあり、陽は心配する気持ちが勝っていた。

 アリアに血を吸わせたが、あの量では足りなかった、もしくは不足し始めているのか、と言った葛藤が湧くようになったのだから。


「私は……陽くんの血を飲めるようになっただけでも、成長のご褒美をもらっているわよ」

「え、ああ……アリアさん、血を飲むのはやっぱり苦手だよね」

「ふふ、あなたの血なら、私は好きよ。これは、愛、というものかしら?」

「……メンヘラみた――いだぁい」


 口が滑った陽の原因だが、アリアから頬を軽く引っ張られたのもあり、陽は痛覚を言葉にせずにはいられなかった。


 それから微笑みながら頬を触ってくるアリアは、ただ単に触る口実が欲しかったと思わせてくる。


「……多く望むなら、もう少しくっつきたい……」

「……アリアさん?」


 確かに聞こえたのだが、アリアの頬が先ほどよりも赤いので、陽は触れないで置いた。


 それでも、静かにアリアの方へと、陽は身体を寄せるのだが。

 紅茶を飲むのに支障が出ない程度に、いつでもくっつける距離になれるように。


 陽の何気ない仕草に合わせてか、アリアは陽の肩に頬を軽くくっつけていた。それは、幼女体型のアリアだからできる、ちょっとした甘え方なのではないだろうか。


「話は戻るけど――会長になった以上、裏生徒会を率いていけるくらいには頑張ろうかな」


 それを聞いたアリアは、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「私が認めたあなたなら、出来るわよ。……蛹から羽化し始めた蝶は、愛らしくも美しいわね」

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