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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第二章 自分として、紳士として

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87 幼女吸血鬼とクラスメイトの勉強会

 ゴールデンウィークが明けたのもあり、学校内は一種の行事状態で賑わっていた。


「お願い、アリアたん! 勉強を教えてほしいの!」

「恋羽さん、勉強は出来ますよね?」

「うう、そこをどうにか女神様ぁ」


 一種の行事……それは、中間テストだ。


 学校によってはゴールデンウィーク前に行う場所もあるらしいが、この学校は明けとなっている。

 たるんだ生徒の精神を正すためだとか、根も葉もない噂が飛び交うくらい、この学校の中間テストはある意味で難関だ。


 ポイント制度が開始されたのもあり、少し溜まったポイントでテストを難しくする票を入れる者も存在するのだから。無論、簡単になる事はないので、勉強していない者は自業自得である。


 二人の様子を見ていれば、ホモが肩を叩いてきた。


「陽、恋羽が気になるのか?」

「まあ、そうだけど。恋羽はお前以上に勉強できるよな?」

「あー、あれだよ。恋羽のやつ、ゴールデンウィークは遊び倒したから、その分の付けが回ってきただけさ」

「風が良くないものを運んできた感じで言ってるけどさ……お前はどうなんだよ?」

「俺は、まあ……大丈夫だ!」

「目を逸らさずに言えよ!」


 おそらく、ホモと恋羽は二人で遊び倒していたのだろう。

 結果的に恋羽は、アリアに決死の思いでしがみついている可能性がある。


 恋羽は勉強を出来ない、という訳ではないが、遊び過ぎて抜けている箇所が不安なのだろう。


 そして今回の中間テストは、陽自身も一筋縄ではいかないと思っている。


 現生徒会が一斉に自主退学をした影響もあり、今まで息をひそめていた学生が動きだしているのだから。

 主に二年生と三年生なのが、どれほど生徒会を嫌っていたのか理解出来るだろう。


 無論、裏生徒会はポイントが高い生徒から強奪は……ホモに挑まない限りはしないので、安心してほしいものだ。


 ふと気づけば、ホモがジト目で見てきていた。


「……なんだよ」

「いやいや、陽ぅさんは裏生徒会の会長として、今回のテストへの意気込みはいかがなものかとぉ」


 ニヤつきながら言ってくるホモは、恐らく何か企んでいるのだろう。

 陽自身、アリアのおせっかいを焼くゴールデンウィークであったが、勉強は欠かさずにしていた方だ。


 様子を見に来た真夜から、点数で遊ぶのは良いが、アリアさんの隣で恥じないように、とお灸を据えられたのだから。


 アリアは真夜に気に入られている、というよりも将来に期待されているようなので、妥当なお説教ではあっただろう。


 陽は、軽く息を吐いた。


「まあ、いつも――」

「アリアたん、ありがとう!」

「恋羽さん、仕方なく、教えるだけですからね?」


 会話を遮って聞こえてきた方を見れば、恋羽がアリアに張り付いて感謝をしていた。

 恋羽の粘りに、アリアが先に音をあげたようだ。


 恋羽は普段なら諦めは良いのだが、今回ばかりは譲れないものがあったのだろう。

 そして恋羽に便乗してか「アリアさん、私にも」や「うちらにも教えて」とアリアに迫る女子たちの姿が見える。


 アリアは苦笑いしているが断る気はないようで、人数の都合上、放課後に勉強会を開くめどを立てているようだ。


 ふと気づけば、隣で苦笑していたホモがこちらをじっと見てきている。


「陽さんや、わいにも教えてくれんかのぉ」

「なんでおじいさん風? てか……さっきまでの威勢はいずこに?」


 疑問気に尋ねれば、ホモがこっちこっちと言った感じで手招きをしてきた。

 陽が耳を近付けると、ホモはニヤリと笑みを浮かべている。


「陽さんや、アリアさんと帰りは一緒なんだろ? なら、一緒に勉強をしないと、な」

「そういうことか。はいはい、ホモの計画性には勝てませんよ」

「学生らしからぬ動きをする陽がよく言うぜ」


 どの口が、と陽は言いたかったが、一応自覚はあるので言葉を慎んでおいた。


 成り行きで決まったにせよ、女子のほとんどを相手するアリアはきっと大変だろう。

 ふと気づけばニマニマ顔で見てくるホモに対して、陽は静かにホモの横腹に一撃を入れておいた。



 放課後となり、掃除の終わった教室ではグループを作るように各々が机を囲っている。

 アリアは本当に全員に教えるようで、グループそれぞれの勉強個所を把握しているようだ。


 始まった瞬間、ひっきりなしに呼ばれているのは、流石アリアの人望の強さと言ったところだろう。


 そして男子軍である陽の方だが、ホモだけだと思っていた、のだがアリアファンの集いの数名が合流している。

 この学校はテストが近くても、部活や集いの勢いは活発なので、不思議では無いのだが。


 陽としては、どことなく集いからの圧を感じるので、目を合わせないようにしている。


 無論、男子も数名残っているが、部活が始まるまでの暇つぶしだろう。


「……でまあ、ホモはここを重点的に抑えれば、難しくなっても大丈夫かな」

「陽さんや」

「なんだよ」

「教えて貰っといてなんだけど、把握しているお前が怖いわ」


 ホモの出来ない箇所を把握しているというよりも、見ていればわかるのもあり、陽は首を傾げるしかなかった。


 才能だな、と呆れ気味にホモに言われたのもあって、陽はますます頭がハテナで埋められそうだった。


 気晴らしに周囲を見れば、アリアファンの集いは仲間内で教え合っているようだが「ううん」や「こうか」と言った疑問気な声が聞こえてくる。


 陽はホモに謝りを入れ、椅子から立ち上った。


 そしてゆっくりと、集いの机の方に寄っていく。


「急にすまない。よかったら、どこでつまずいているのか教えてもらえないか?」

「え、白井殿が直々に!?」

「まあ、驚くのも無理はないよね。嫌じゃなきゃだけど、自分が説明してもいいかな? 教えているアリアさんは忙しそうだしね」


 アリアを見れば、恋羽に付きっ切り、というよりも女子全員を均等に回っているので、多忙も無謀だろう。


 それをこなせるアリアは、流石おせっかい焼きの幼女吸血鬼と言ったところだが。


 集いの人達がつまずいていたのは、ちょっと思考を変えれば簡単なので、教える側の陽としては楽な箇所だった。


 ふと気づけば、ホモが察したように机を近付けてきていた。

 ホモはアリアファンの集いとは、踊りの面では肩を組んでいる仲なので、さも当然のように迎えいれられている。


「白井さんさえ良ければ、我らがアリアファンの集いに入りませんか!」

「白井殿のアリアさんを守る姿を見て、我らは胸を打たれた者なのですぞ」

「いや、自分は遠慮しとくよ」

「そうだよな……陽は何て言ったって、アリアさんを登下校守って、一緒――」

「おい、ホモ?」

「いってぇ、言葉に出す前に叩くなよ」


 静かだった教室に笑い声を生みだしたのもあり、女子からの視線が棘のように突き刺さった。

 そして、陽がすべて悪いです、と言った様子で彼らは徒党を組んだので、血も涙も無いのだろう。


 陽としては、女子たちを敵に回したくないので、ホモの言葉は水に流すつもりだが。


 その時、アリアがこちらに近づいてきているのが見えた。


「手が回ってなくてごめんなさい……あら? 陽くんが教えているのですね。陽くんは教え上手ですし、良かったですね」

「別に、自分は教え上手じゃ……」

「陽くん、謙遜はいけませんよ?」


 アリアは多分だが、陽が学校での振る舞いをするアリアに弱いと知っていて、あえて口調を変えているのだろう。

 そもそもの話、教えるのが決まった瞬間わざとらしく近づいてきたのもあり、陽は苦笑するしかないのだが。


「ひゅーひゅー! 陽にアリアさんや、夫婦喧嘩とは仲が良いですなぁ。ねえー、集いさん達」

「くっ、我らも白井殿に負けておられませんぞ!」

「ホモ、覚えておけよな」


 騒がしいクラスメイトとホモ、そして微笑ましい笑みを浮かべるアリアは、クラスの雰囲気に順応しているのだろう。


 結果的に、そんな雰囲気になったおかげで、この後は女子たちも輪に加わって大団円になったのだが。

 おそらく、男子諸君がうるさくならないように、と言った牽制の意味合いが大きいのかもしれない。


 アリアの好きな人の特徴を聞いたり、勉強の仕方を教え合ったりと、このクラスは男女で派閥が起きない程の関係ではあるのだろう。


 陽自身、アリアと近寄れたのもあって、満更でも無いのだが。

 無論、ツンツンしてきたホモと恋羽にはお灸を据えている。



 勉強会が終了した後、陽はアリアと帰宅する準備をしていた。


 先ほどからアリアがチラチラと見てくるので、周囲に誰も居ないのもあり、なにかを求めているのだろう。


「……アリアさん、今日は暗くなって遅いし、送っていくよ」

「言葉はまだまだだけど、紳士としては合格点ね」

「図ったよね? というか、いつも一緒に帰ってるわけだけど」

「その言葉を、あなたから聞きたかったのよ?」


 陽が慣れたように手を差し出せば、アリアは嬉しそうな笑みを浮かべて重ねてきた。

 アリアが求めていたものを、どうにか察することが出来たようだ。


 学校から出れば、夕日は沈みかけており、ずいぶん遅くまで勉強会をしていたと物語っている。

 アリアはやはりと言うか、吸血鬼なのもあり、足が軽そうだ。


 陽の血を吸って以降、アリアに不満な様子はなく、どちらかと言えば幸せに満ち満ちている。それは、白き羽を携えた天使のように。


 自分の血がアリアのお眼鏡に叶ったのなら幸いだと、陽は心の中で静かに思っている。

 アリアの事を誰よりも心配していた証拠ではないだろうか。


 陽が気づいた時、アリアはぎゅっと距離を詰めてきていた。

 また首をきょろきょろとさせ、周囲を窺っているようだ。


 陽がアリアに微笑ましさを覚えていれば、重ねていた手は浮き上がり、地面に映った影が二人の人物を重ね合わせた。

 差している傘の影は、二人を包み込んでおり、むず痒さを感じさせてくるようだ。


 そう、アリアは時を窺っていたようで、外にも関わらず抱きしめてきた。

 外でくっつかれるのは何度かあったが、抱きしめられるのは初めてで、陽は正直混乱している。


 それでも嫌な感情が湧かないのは、アリアだけだろう。


「甘えん坊だな……」

「……は、陽くんだけによ……」

「うん。知ってる。でも、他の人に見られたら焼かれちゃうよ?」

「あら、それは価値観の違いに過ぎないわよ? 私は、陽くんだけ、側近であるのを許しているのだから」


 価値観という、二人の間で一種の愛言葉になっていた言葉を聞き、陽は微笑ましかった。

 いつしか見た景色を、二人の出会いを思い出せるようで、優しい響きだから。


「アリアお嬢様、今日はどんなティーを用意いたしましょうか?」

「あら、気が利くわね。あなたは、どんな茶葉がお好みかしら?」

「……赤く輝く瞳のように、淑女さながらの落ちつきを見せる、透き通るような赤い紅茶は如何でしょうか?」

「それじゃあ、帰ったらお願いしましょうかね」


 アリアは甘えん坊であり、陽に紳士としてのおせっかいを焼いてくれる、無くてはならない存在だ。

 お互いに言葉遣いや種族が違っても、そこに確かな共感があるように。

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