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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第二章 自分として、紳士として

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75 幼女吸血鬼のバスタオル姿が紳士の男心を貫く

 結局のところ、陽はアリアを寂しくさせた罰として、付かず離れずに居る事を余儀なくされていた。


 陽としては、アリアと居る時間は苦では無いので問題ないのだが。

 そして何よりも真夜が言っていたことが真実であるのなら、陽はアリアから愛を知れる機会だとも受け取っているので、内心では嬉しい気持ちが込み上げている。


 現在、張本人であるアリアは陽の後にお風呂の順番となっているので、陽はリビングで待っていた。

 お風呂まで一緒に入る、とかなったら間違いなく陽の気持ちは持たなかったので、リビングで待つだけなのは救いだろう。


 二人で寝るようになったとはいえ、陽はアリアよりも先に自室に戻っているのは変わりないのだから。それは、陽がわずかながらも出来る、アリアへの気遣いとして。


「アリアさん、怒ってなくってよかった」


 思わず安心して、口から言葉が零れ落ちていた。

 陽は正直、アリアに嫌われていないかが一番心配だった。


 それなのにアリアは、自分勝手な行動をした陽を咎めようとせず、逆にあーんをされる刑だけで見逃がしてくれたのだから。無論、プラスアルファで現在の状況には至るが。


 おせっかいを焼くアリアだが、度を越えて干渉してこないからこそ、陽も気楽に過ごせるのだろう。

 とはいっても、生活リズムに影響があろうものなら、アリアに制裁を加えられかねない。


「アリアさんが来るまで、調べて学んでみるかな……」


 当てになるかは不明だが、恋羽やホモの手も借りつつ、陽は愛について調べてみようと思った。


 スマホを出し、画面に触れようとした……その時だった。


「……陽くん」

「……あ、アリアさん、もう、あが……!?」


 スマホから目を離した陽は、言葉を失った。

 今目の前に立っているのは間違いなく、アリアだろう。

 だが陽の気持ちは、嘘だ、と言って光景を信じようとしていない。


 現れたアリアは、寝間着を……着ているわけではなく、バスタオルでその身を隠していた。

 太ももの方まで抑えきれていないバスタオルの隙間から映る白い肌から、明らかに下に何も身に着けていないと理解出来る。


 バスタオルを抑える胸元の手の圧も相まってか、アリアの胸元は強調され、確かなふくらみ……谷間が存在感を露わにしていた。

 大きくなっている、とは以前聞いたが、まさかここまで強調されるとは思わないだろう。


(なんで、アリアさんがそんな姿で)


 お風呂から水やシャワーの音が聞こえていなかったので、アリアはまだ入る前なのだろう。

 そうなってくると理解できないのは、なんでアリアがバスタオルでこちらの方に来ているかだ。


 チラリと見える鼠径部(そけいぶ)に、陽は思わず息を呑み込んでいた。

 無論、アリアを襲おうだなんて思っていない。

 アリアから嫌われることをしたくないのだから。


 軽く目を逸らしてからアリアを見ても、やはりアリアはバスタオルを身に纏っており、見間違いでは無いようだ。


「……その、コンディショナーをちょうど切らしてたの……それで、陽くんのコンディショナーを使ってもいいか聞きに来たのよ」


 アリアは普段なら準備は万端である。だが、まさかコンディショナーを切らしており、聞きに来るとは予知できるわけがないだろう。


 陽は今でも自分の欲を抑えるのに精一杯であるのに、アリアにバスタオル一枚の格好をされては、気持ちが刺激されてしまうというものだ。


 幼女体型でありながらも、成長している部分を含めて、男心をキラーされない理由は無いのだから。


「自分の使っているやつはユニセックス品だから、アリアさんの髪質なら使っても大丈夫だと思うよ」

「あら、遠慮なく使わせてもらうわね」


 予備なら常時あるので、アリアに遠慮なく使われても問題ないだろう。

 問題と言えば、今のアリアの姿ではあるが。


 アリアは陽が気まずそうにしているのに気づいてか、深紅の瞳でじっと見てきていた。

 陽としては、見てくるのはいいが、絶対にバスタオルを支えた手を離さないでもらいたいと思っている。


「……アリアさん、なんでバスタオル姿?」


 聞いたのが不味かったのか、アリアの頬は赤く染まっていった。


「し、仕方ないでしょう。服は洗濯機にかけた後なのよ……それに」

「それに?」

「陽くんだけは信頼してるから、この姿でも大丈夫、って」


 信頼を人質に取られた気もするが、信頼されているのは悪くないだろう。

 念の為の忠告も含めて「自分も男だから」と言えば「理解しているわよ」とアリアは恥ずかしそうに言ってきた。


 現状、バスタオルの下に見えるアリアの足は白く美しく、普通なら興奮しない理由は無いのかも知れない。

 それでも陽は、理性を保つ程の余裕は一応あるため、問題は無いのだ。


 気づけば、アリアはちらっと上目遣いで見てきていた。


「……陽くんは、見てみたいのかしら?」

「いや、それは無いかな。だって、アリアさんを大事にしたいし、節度は守りたいからね」

「ふふ、陽くんらしいわね」

「ま、まあ……え?」


 アリアがくすくすと微笑んだのが不味かったのだろう。

 バスタオルは振動のせいか緩んだ手の合間を抜け、ぱらりと床に落ちたのだ。

 目の前で鮮明に映るアリアの姿は、陽の魂を刈り取った。


 アリアは自分の現状に慌てたように顔を赤くし、バスタオルをすぐさま引き寄せて身体を隠した。


「は、陽くんの、えっち……」

「いや、自分は悪く……行っちゃったよ」


 アリアの判断は正解なのだが、陽としては虚しかった。

 事故ではあるが、この目は確かに、アリアの一糸も拭わぬ姿を見てしまったのだから。

 男の本能とは実に厄介で、脳のフィルムに、鮮明に思い出せるほどの記憶としてカラーで残していた。


(……アリアさん、綺麗だったな)


 今は、この言葉しか思い浮かばなかった。

 この後、陽は必死に忘れようと、虚無すらも求めぬ煩悩を捨てようとして、座禅を組むのだった。


 それでも男の性とは悲しいことか、目をつむれば映し出す先ほどの美少女の姿に、煩悩を捨てられるはずが無いのだ。

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