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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第二章 自分として、紳士として

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72 裏生徒会の始まりを綴る日

 休み明けの学校、陽はアリアと一緒に、ホモと恋羽と向き合っていた。

 様々な妨害等を考えて、屋上の木陰に今は場所を置いている。


「そう言う事で、ホモ、恋羽……自分も、二人が作る生徒会に入れてくれないか」


 二人を見て頭を下げれば、ホモがそっと肩に手を置いてきた。

 陽が顔をあげると、穏やかな表情をしているホモに、嬉しそうな笑みを浮かべている恋羽の姿が視界に映った。


 そして、アリアがちゃっかりと体を寄せてきている。


「陽、ようこそ新生徒会へ! お前なら来てくれるって信じてたぜ……ほんと、肝心な場面でどこか抜けてるんだよ、お前は」

「陽、これから始まる新しい学校生活、一緒に頑張ろうね! あ、もちろん、アリアたんも入るんだよね?」

「ええ、恋羽さんとの約束ですから」


 アリアは上手く恋羽の口車に乗せられている気もするが、アリアが嬉しそうなら問題ないだろう。


 二人に断られないという自信はあったが、陽の心は実際怯えていたらしく、少し冷や汗が溢れている。

 アリアに気づかれないように陽は平然を装いつつ、拍手している二人を見た。


「陽とアリアたんを正式に迎え入れるのが決まったとしてー」

「問題は、生徒会室と名前だよな……」

「後肝心なのは、四人で話しあって生徒会長を決める事だよね。私はパスで!」


 決めごとがあるようで、二人は報告無しで話を進めている。

 陽がアリアと顔を見合わせれば、二人のマイペースさにはアリアも苦笑いするしかないようだ。


 ホモと恋羽の話をまとめると、生徒会室を決める、四人だけの生徒会として独立した名前に、生徒会長を決める、その三点が必要らしい。

 そして話が進んだ末に、生徒会室を先に決めようとなっているようだ。


「いやいや、今指揮する人は必要だろ?」

「じゃあ、言い出しっぺの陽で決定の人―」

「私は異議なーし!」

「陽くんなら問題ないですね」


 どうやら味方は独りも居ないようだ。

 現状、生徒会長として決まったわけではないので、陽は受け入れるのだが。

 今で言うのなら、指揮する人及びにまとめ役が近いのだから。


 どこか抜けた紳士と呼ばれる陽であるが、嫌われ者の運命を背負い、隠してきた長けた能力を考えれば、これくらいは容易いものだ。


 微笑んでこちらを見てくるアリアは、信頼を置いているのかもしれない。

 陽は考えつつも、意見をまとめることにした。陽も意見を持っているが、全ての意見を聞いてからの方が都合はいいのだ。


「ホモから聞くけど」

「名指しかよ!?」


 言い出しっぺ、とホモは言っていたので、その理論を通るならホモからで問題ないだろう。

 ホモが不服そうな表情で見てきても、陽は言葉を続けた。


「生徒会室はどんな場所が良いとかの案はある?」


 生徒会室、と言っても学校内の空き室を借りるのが基本だが、聞いて損はないだろう、

 現状、ほとんどの教室が様々な部活や集いで埋まっているのだが。


「うーん、俺はー、よくエロ漫画とかでありがちな……」

「おい」

「【自主規制】できたりとか、恋羽と【自主規制】をしたりできれば嬉しいかなー。で、遭遇イベ――」

「真っ昼間から何を言ってるんだよ、お前は……」


 完全に私情を挟んでいるホモに、陽はため息をつくしかなかった。

 最後まで喋らせる気はないので、途中で止めて正解だろう。


「ホモは発情期だねー」

「年がら年中発情期のホモと同罪の恋羽が言うな」

「な、私がホモから【自主規制】されてるだけで、私は誘ってるだけだよ!」

「そんなこと暴露するな!」

「陽くんも、期待してるの?」

「頼むから、アリアさんは勘違いしないでくれ……」


 ホモに話を振ったのは良くなかった、と常々思わされそうだった。

 それでもホモが気兼ねなく馬鹿な話題を出してくれるからこそ、気心知れた仲で笑い合えるのだろう。


 愉快な仲間に囲まれている自分は、過去であれば想像もできなかったと確信できる。


 ホモが暴走しないうちに、陽は恋羽に話題を振った。


「私ねー」


 恋羽は悩んだように頬に指を当てている。


「表向きは、一応、生徒会であって生徒会では無いから、隠れ基地みたいなところが良いかなー」

「恋羽の意見はホモに近い感じか……」


 恋羽がホモから「同類にされてやんの」と笑ったのもあり、恋羽に横腹を殴られて悶えている。

 女の子をからかったホモが悪いので、陽は見て見ぬ振りをした。また、二人はカップルなので放置が一番という判断もある。


「アリアさんは?」

「……私は、盗撮されることを考えても、見えやすいところは避けたいわね」


 アリアの言い方だと、遠回しに日が当たらない場所を望んでいるように聞こえるが、アリアを吸血鬼と知っているせいで起きる錯覚だろう。

 陽は三人の意見を頭の中でまとめつつ、自分の意見と繋げ合わせた。


 現状、三人の意見は予定通りなので、陽は特に困っていない。

 自分の意見を持ちつつも、場所の案を持ち込んではいたので、頭の中で整理はしやすい方だ。

 もはや、考えなくとも直感で理解できる程に。


「三人の意見を踏まえてなんだけど……」

「お、陽の意見か、楽しみだな!」

「自分が目立つことはしたくないのもあるけど……生徒会として活動しつつ、裏方に徹するには良い場所があるんだけど、着いてきてもらってもいい?」


 本来であれば使う予定はなかったのだが、真夜及び学校側に許可申請は既に出しているので、準備は万端である。


 また、万が一の妨害工作も考えて、現在は授業の時間を借りているので問題なく行動できるだろう。


 授業の時間と言っても、連休が近いので空いている時間を借りたに過ぎないが。


 ホモと恋羽、アリアは不思議と首を傾げつつも頷いた。


 陽は三人を引き連れ、屋上を後にするのだった。



「まさか、こんな場所があったなんてな」

「陽くん、ここは?」

「……旧職員室」


 三人を引き連れてやってきたのは、学校の中で唯一使われていない建物、旧職員室に当たる場所だ。

 創設当初は休憩室的な感じで職員が使っていたらしいが、今は使っていないらしい。


 学校の隅で草花生い茂る場所なので、人は滅多に近寄らないのも把握済みだ。


(鍵、持ってくるのは忘れたけど……)


 ドアには鍵がかかっているが、これくらいならピッキングでどうにかなった。

 カチャリと音が鳴れば、古いドアは重い音を立てて開いていく。


「それじゃあ、入ろうか」

「陽、さり気なく愛が無いよ?」

「まあ、それほど陽も本気なんだろ」


 旧職員室に入ってから、念のためも考慮して、陽は内側からドアの鍵を閉めた。


「前は生活感があったみたいだけど……」

「恋羽の言葉を続けるなら、もぬけの殻だな」

「……さてと、どこにあるかな」


 さっと周囲を見渡せば、よほど使われていなかったのか、旧職員室の中は埃をかぶった物で溢れかえっている。

 埃っぽさはどうにか出来るとして、問題はシステムが生きているかだろう。


 陽はメガネケースを取り出し、普段付ける事のない、黒い縁のメガネをつけた。

 これは真夜から付けるように注意されていたメガネで、ただのメガネではない。


 メガネをつけた陽は、周囲、というよりも壁沿いを見渡した。


「陽、そのメガネ……」

「ホモ、別に気にしなくても大丈夫だよ。あ、あった」


 淡々と進んではいるが、ホモと恋羽は呆れた様子を見せていた。

 陽自身、呆れられるのは承知の上で計画を練っていたので、仕方ない事ではある。

 ふと気づけば、アリアは楽しいのか、嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「アリアさん、どうしたの?」

「あ、いえ……陽くん、子どもみたいで楽しそう、って思っただけよ」

「アリアたん、陽の変化は見逃さないねー」


 恋羽がアリアを茶化している際に、陽は望みの個所である壁際に辿り着いていた。

 埃をさっと払えば、微かではあるが特徴的なマークがあった。

 丸縁に囲まれた特徴的な双葉マークは、陽の知っている紋章でしかない。


 ふと思えば、まるで廃校舎を探索する怖いもの知らずの四人組のようで、陽は正直楽しくなっていた。


(これ、電気回路は動いてはいるけど……)


 マークというよりも、埋め込み式の認証セキュリティなので、陽は腕時計を近づけた。


「陽、何やってるんだ?」

「ハッキング」

「……ここ、下に穴があるわね」

「アリアたん、私には見えないよ!?」

「なあ、陽、ここは俺が壊して――」

「すまないな、ホモ。もうハッキングは出来た。というか、認証だけでよかったみたいだよ」

「早いな」


 苦笑しているホモを横目に、陽はアリアと恋羽を近くに呼んだ。

 予想が正しければ、旧職員室は表向きの名称なのだから。


 木を隠すなら森の中と言うように、秘密を隠すなら表は秘密にならない場所なのだから。

 四人が集まってから、陽はシステムを起動させた。


 その瞬間、歯車の噛み合う音が聞こえたと思えば、床は揺れて沈みだした。


「やっぱり、この旧職員自体がハリボテだったか」

「陽くん、あなたは一体、どこまで見通しているの?」

「……今は、ここまでかな」


 そう、このほとんどは真夜に聞いた情報から確証を得ただけであり、未来を見ているはずがない。

 ただ、アリアを少し驚かせたいという、陽は幼い心が湧き出たに過ぎない。


 床が沈んでいく中、ホモと恋羽は楽しそうに笑みを浮かべ、アリアは陽にくっついてきていた。


 床が止まれば、そこは人目が絶対につかない、秘密裏に創られたであろう地下室だった。

 人が踏み入った瞬間に光が付き、全貌を露わにしていく。


 見た目は殆どよくある教室と変わらないが、無駄な物が無い、話し合いをする場所にはうってつけの空間だ。

 ぱっと見たところ、違うテクノロジーも生きているみたいだが、今は触れる必要が無いだろう。


 陽は三人の前に出て、ゆっくりと振り返った。


「アリアさん、ホモ、恋羽……生徒会室をここに建設するのはどうかな?」


 その時、ホモと恋羽は顔を見合わせ、ワクワクした笑みを浮かべていた。


「俺は賛成だぜ! ここなんて、まさに意見が合わさった理想の空間だろ!」

「うんうん! 愛だね! ……あ、アリアたんはどう思う?」


 恋羽の言う通り、ここに来てからアリアは黙りっぱなしで、落ちつかない様子を見せている。

 場所としてはアリアに日の光が当たらず、盗撮もされない良空間だと思われる。だが、アリアは何かが足りないのだろう。

 先ほどから周囲をきょろきょろ見渡しているのだから。


「場所はいいのよ、ただ……アクセスがしづらいわよね?」

「そこは問題ないよ。学校内の専用エレベーターを使えば分岐できるから」


 一般生徒や一般職員ですら使えないエレベーターがあるのだが、それはこの場所に直通しているのだ。

 わざわざ遠回りしたのは、仕掛けを確認したに過ぎない。また、四人でワクワクした感情を味わいたいと思ったエゴでもある。


 アリアは悩みが解消されたのか「それなら私も賛成よ」と笑みを浮かべていた。

 陽は言わずもがななので、全員の意見がまとまったと言えるだろう。


 ふと気づけば、ホモが陽の外したメガネを何故か持っていた。

 それでも、今はただ静かに見守っておく。


「なあなあ、陽! 生徒会室の開設祝いとして宴しようぜ!」

「ホモ、まだ決めることは残ってるだろ。まあ、騒ぎが済んだら用意はするよ」

「あはは、陽が珍しく乗り気だね! これは愛だね、アリアたん!」

「ふふ、そうかもしれないわね」


 陽は三人を微笑みながら見つつ、近くの椅子を引いて腰をかけた。

 腰をかけた時、ホモと恋羽は陽の後ろに立ち、アリアが隣に寄り添ってきた。


「ねえねえ、生徒会の設立記念で写真を撮ろー!」

「お、撮ろうぜ撮ろうぜ! この際に名前も決めようぜ!」

「陽くんは何がいいですか?」


 写真を撮りたいのか、生徒会の名前を決めたいのかは不明だが、陽は一応悩んで見せた。


「……安直だけど革命を起こす意味で『裏生徒会』はどうかな?」

「裏生徒会……愛だね!」

「陽くん、自分らしさとしては百点ね」


 アリアからすれば、紳士としてはマイナス点なのだろう。

 名称は分かりやすいに越したことは無いので、意味が通るのなら良いと思いたい。


 そう、この場所から、この四人で、新たな風を吹かせるのだ。

 気づけば、ホモはスマホを片手に持ち、カメラを向けていた。


「うんじゃあ、撮るぞー」

「おい、まだ――」

「陽くん、笑顔でいきましょう」

「イェーイ! 愛チーズ!」


 シャッター音が鳴り響いた。


 笑顔絶えない空間で、陽は嬉しかった。

 初めて、人に囲まれた場所で、陽は自然と笑えたのだから。


 止めたかった理由であるアリアに関しては写真に写っていたので、鏡に映らないだけのようだ。


 その時、ホモが肩に手を置いてきた。


「陽会長、これからはよろしくな!」

「うんうん、私たちをまとめられるのは陽だけだからね」

「陽くん、私も手伝うから安心して大丈夫よ」

「……まあ、信用を無碍にしないように、頑張ってみせるよ」


 全てが決まった今、裏生徒会の始まりはこの場所から綴られていくのだろう。

 陽とアリア、ホモと恋羽、四人で送る一度きりの学校生活の日常を乗せて。

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