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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第二章 自分として、紳士として

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69 幼女吸血鬼と出会って色づいた日々の気持ちを

「陽くん、あなたは生徒会に入る気持ちはあるのかしら?」


 夜ご飯を食べ終えた後、陽はアリアから詰め寄られていた。

 無論、アリアが悪いわけではなく、結論を出せない陽をアリアは正そうとしているだけなので、非はこちらにある。

 結論を待ってほしいとアリアにすら先延ばしにしたのは、陽の方だ。


 もちろん、おせっかい焼きのアリアに詰め寄られるのは想定内なので、陽も出来うる限りの情報整理に収集は完了している。ただ、深紅の瞳が陽の姿をしっかりと反射する予定外を除いて。


 ダイニングテーブルを挟んだ距離であっても、テーブルに置かれた香る紅茶が縮まる距離を伝えてくるようだ。


「自分の気持ちを述べる前に、まずはこれを見てほしいんだ」

「……相変わらずね。他の学生とは比にならないわよ?」


 陽がテーブルの上に出した物を見て、アリアは驚いた表情をみせ、苦笑していた。


 アリアに前菜として見せたのは、学校のデータベースに侵入して収集した、現生徒会と天宮透及びに関係者の繋がりだ。


 普通の学校であれば、陽が望んでいる一人を退学させるのは不可能に近い。だが、この学校はポイント制度を含めた悪行を一切禁止している。

 情報及びに開示を上手いこと証拠として出せれば、生徒自身が学校側に情報提示して退学させるまでの道のりは造作もない。


 だからこそホモや恋羽に関しても、グレーゾーンの限度ある行動を徹底しているとすら言える。


 アリアは差し出した資料を見ては、感心した様子をみせていた。


「ホモさんの話にあった作る予定の生徒会プログラムに、現生徒会の暴挙の数々……本当に、よくここまで調べ上げたわね? そんな陽くんには私が甘やかすご褒美をあげるわよ?」

「はは、それは全てが終わってからお願いしたいかな」


 陽自身、ここまでしなくても良いと当初は思っていたが、透の不可解な行動や、現生徒会に対する反感の多さから調べるしかなかったのだ。


 アリアは陽を甘やかしたかったのか、頬をぷくりと膨らませつつも、紅茶を嗜んでいた。


 陽としてはアリアに遠慮をする予定はなかったのだが、今は一つの目標に走ってみてもいいだろう。


 宴会を開くなら、今ある事案を解決した方が交わす盃も美味しく感じるはずだ。


 陽も紅茶を嗜みつつ、アリアの深紅の瞳をしっかりと見た。


「ところで、アリアさんはどうするつもりで?」


 自分の意見よりも先に、陽はアリアが生徒会に入るのか気になったのだ。

 仮に陽が生徒会に入ったとして、アリアが入らないのであれば、その手を放すことを強要されるようなものなのだから。


 その時、ティーカップを置く音が静かに響いた。


「私はあくまで中立よ?」

「あー、人間ではなく吸血鬼の意味で?」

「それもあるわね。ただ……」


 アリアは思うことがあるのか、こちらを見て頬を赤らめては、静かに目を逸らしている。

 変に気まずい空気に、陽は落ちつかなかった。


 普段であれば思うことをあっさり言えるアリアなのに、最近は陽の前だと考えて悩むのが多いのだ。


 上目遣いでチラリと見てくる深紅の瞳はうるりとしていた。


「中立を崩してでも、私は成し遂げたい事があるのよ」

「アリアさんの成し遂げたいことって?」

「陽くんと一緒なら、ホモさんや恋羽さんの作る生徒会に入りたい、って意味よ。一緒に居るのに気づけないなんて、本当にどこか抜けているのね」


 そっと微笑んでいるアリアに、陽は息を呑んだ。


 陽としては、アリアがてっきり生徒会自体に興味が無い、と思っていたので自分を含めての了承は想定していなかったのだから。

 彼女は確かに吸血鬼であるが、一人の少女であって、同じ学校の生徒でもあるアリアだ。


 中立云々は、あくまで仮付の本音に過ぎないのだろう。

 主あっての思考なのか、吸血鬼あっての思考なのかは不明だが、周囲をしっかり見て手を焼くアリアは、喉から手が出てもほしい逸材だろう。


「……一応聞くけど、ホモと恋羽には何て返事をしたの?」

「二人の計画は前もって聞かされていたから、二つ返事での了承は出しているわよ」


 二つ返事というのは恐らく、陽が生徒会に入る事が一つに含まれているだろう。二つ目は不明だが、彼女も彼女なりの考えあっての行動だと重々理解出来る。


 アリアは紅茶を静かに啜り、息を吐いていた。

 小さな吐息すらも聞こえる空間は、陽が驚きで声が出ていない証拠だろう。


「先ほどから自分の事を話さずに私にばかり聞いてる陽くんは、どうするつもりかしら?」


 全ての資料に目を通し終えたのか、アリアは資料を綺麗に積み、陽の前に戻してきていた。


 生徒会に入るかどうかという意味では、今の陽が上手く言葉に出来る筈はない。


 生徒会という言葉に恐怖は無かった。ただ、閉じていた過去から溢れ出る負の遺産は、気持ちを怖気づかせるように、一歩を歩みだせないのだ。

 過去は自分が作り出した言い訳でしかないと、陽自身が一番理解している。


 それでも震える手は、今を拒んでいるようだ。


「……あなたは自分に自信が無いのね」


 無色透明のような感情から出された言葉は、過去を引き連れた陽を軽く貫いていた。


 深紅の瞳に映る自分は、肩を落としている。

 恋羽ならまだしも、アリアにすら過去を打ち明けられていない自分に、陽は自分の知らぬ間に嫌気がさしている。


 アリアと出会って、色づいたはずのこの日常が、また透明に変わることを望んでいない筈なのに。


「……どうするかは陽くんの好きにすればいいわよ。でもね、あなたを信頼している人の気持ちは無碍にしないことよ。これはあくまで、私と同じ過ちを繰り返さないための、陽くんだけにする忠告よ」


 気づけばアリアは、湯気の沈んでしまったティーカップを持ち、キッチンに立っていた。

 囁く水の音が、心を溢れさせていない器を刺激しているようだ。


「アリアさん」

「陽くん、どうしたのかしら?」

「アリアさんは、自分を信頼しているの?」

「……馬鹿ね。答えは既に出ているわ。だからこそ、あなただけに私は言葉を口にしているのよ。……陽くんの進む紳士としての一歩は、あの子たちと進んでみたらどうかしら?」


 陽は確かに、自分に自信が無い。だけど、臆病でもこの手の中には守りたいものが、笑顔が詰まっているのだ。

 迷ってはいけないと、握り締めた拳は伝えてくる。


(早く、結論をつけないと)


 自分を信頼してくれる人が居るから、この見えうる世界には色が付いているのだと、陽は確信していた。

 自分だけは無色透明でも、今は多種多様な色が混ざるこの世界に。

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