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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第二章 自分として、紳士として

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68 嫌われる覚悟を背負う意味

 椅子から立ち上がり、近づいてきた男に臨戦態勢をみせたホモを皮切りに、同じくカフェに居た生徒が騒めいていた。


 近付いてきた男のキリっとした目つきに、冷徹を装っているような声は、明らかに仮の姿だと陽の直感は察していた。

 ホモが彼を煽ったのが原因か、イラっとした表情をしている。


「貴様、我が生徒会を貶すことは万死に値する」

「あらら? 俺には堀山文次郎って言う、ホモって呼ばれる、学校の誰しもに知れ渡るほどの愛称があるんだけどご存じないのか?」


 ぶつかるホモに、生徒会を自分の物と称す人間……陽は彼の姿をふと思い出した。

 思い出したというよりも、学校の生徒を全て把握している陽からすれば、覚えやすい存在ではあるのだ。


 現在ホモと垣間見えている男は、天宮(あまみや)(とおる)と呼ばれる、現生徒会の会長である。


 入学式以降は見た記憶がなかったのだが、未だにしぶとく生きていたようだ。

 透は現状、ホモが一番学校内で嫌う人物であり、陽も生徒会の中では危険視している存在である。


 なぜ彼がカフェに居るかは不明だが、話を陰から盗み聞きしているのは良くないだろう。


 ちなみに透は一応、自分たちの先輩にあたるが、明らかに噂で聞いていたほどの才能は無いと断言できる。

 本当に才能があるものは、アリアや恋羽みたいに自然と湧き出ているのだから。


 気づけば周囲では盛り上がりを見せ始め「やれやれ」だのといった野次が飛んできている。


「我が生徒会があっての学校に、新たな生徒会を作ろうなんて身の程をわきまえたらどうだい?」

「その生徒会が他の生徒に圧掛けをしてるから、俺らが歴史を変えてやるって言ってるんだよ。居座ってないですっこめや老害さんよ」


 ますますヒートアップをする二人は、恐らく歯止めが効かないだろう。

 ホモにしては珍しく口が悪いので、透にはだいぶ怒りが湧いているのかもしれない。


 いざとなれば隣で笑っている恋羽が止めると思うので、先ほどから服を引っ張ってきているアリアを陽は見た。


「アリアさん、どうしたの?」

「陽くん、ホモさんと言い争っているあの人は?」

「物事を知らないアリアさんが羨ましいよ。……あれは天宮透……簡単に言えば生徒会長で、見てわかるとおりかな」

「……噂が一人歩きした人間の末路は悲しいものね」


 相変わらず他者に慈悲が無いアリアから見ても、透に才能は無いらしい。


 どこか抜けた紳士である陽から見ても、彼は明らかに見栄を張っているだけと断言できる。そのため、あそこまで威張っているのは目に余るものがあった。


 学校側からも相談されていたが、圧をかけるような淡々とした口調は、噛ませ犬にも程があるだろう。

 先輩であるという威厳を抜けば、社会ではパワハラと呼ばれるかもしれない。


 先ほどから絶えず言い争いをしているが、ホモの方が言葉遣いはある意味で上なので、周囲で観戦している生徒ですらホモの味方をしている。


「なあ、どこか抜けた紳士さんや、この犬をどう思う?」

「……中身の無い薄っぺらな話、馬のションベンよりも悲しい奴だな」

「ふん、お前らと争っているだけ時間の無駄だな」

「いや、先に吹っ掛けてきたのはあんただろ?」


 ホモは呆れ気味に言っているが、完全に事実である。

 四人がただカフェで話していたところに、横から投げ槍をしてきたのは透の方なのだから。


 先ほどから顔を真っ赤にしている透は、陽とホモ、恋羽を見た後に、アリアの方に近寄っていた。

 断然近寄らせる気や、空気すらも触れさせたくないので、陽はそっと腕を横に出してアリアと透の進路を遮断した。


「邪魔だ。……アリアと言っ――」

「気安く呼ばないでもらえるかしら?」

「……ふん、彼らと居ると君も腐ってしまう、君こそ我が生徒――」

「価値観の違いね。それに、私の友達を悪く言う人達とは到底話が合うはずは無いです」


 アリアですら、透の話を最後まで聞かないのだから苦手意識があるのだろう。


 アリアの変えた雰囲気はこちらの風向きになったらしく、周りの生徒を巻き込んで活気が出ている。

 アリアの一言で活気づいている人も居たのは、アリアが学年問わずに知れ渡っている証拠だろう。


 嫌なものは嫌、としっかり言えるのは、現生徒会に反発できる希望と言えるのだから。

 透は周りの空気が自分のものでは無いと判断したのか、苦し紛れにテーブルを叩き、顔に血管を浮かび上がらせていた。


 暴れられたら面倒なので、陽は一応警戒を怠らないようにし、アリアを自分の方にさっと引き寄せた。


「生徒会に喧嘩を売ったこと、後悔するんだな」


 意外とあっさり帰っていった透は、本当に何をしたかったのだろうか。

 疲れた、というよりも通り雨が過ぎ去った感覚に近い。


「最後の最後まで何をしたかったんだ?」

「陽、あいつは馬鹿だから考えるだけ無駄だぜ?」

「アリアたん、さっきのかっこ良かったよ! 愛だね!」

「あら、何かあったかしら?」


 アリアにとって彼の姿は、恐らく視界に映る事もなかったのだろう。


 陽自身、透の形を上手く捉えられなかったが、馬が合わないのは重々理解した。

 周囲を見ても感じられる通り、この学校に不要な存在と確信してしまう程に。


 今後の動き次第では、方針は確固たるものになるだろう。

 守る価値のない無駄なプライドほど、自身の身を亡ぼすのだから。


 アリアを尊敬する恋羽の笑みや、負け犬の遠吠えにケラケラ笑っているホモ、陽の守りたい笑顔や仲間はそこに居る。


「二年と三年の生徒会対決、これは波乱の予感だ!」

「アリアさんの軽くあしらう雰囲気、憧れるわ」

「目だってなかったけど、あのピンク髪とアリアさんに付き添っている人らも、学校では有名人だよな!」


 勝手に盛り上がりを見せる周囲は、絶えずネタを求めているのだろう。

 恥ずかしいようで、嬉しいような気持ちを抑え、陽は三人と同じくもう一度席に着いた。


 その時、ホモが改まった様子でこちらを見てきていた。


「陽、アリアさん、改めてだけど……あれとぶつかって理解したと思うけど、計画していたもう一つの生徒会には二人の力が必要なんだ。だから、俺たちに協力してくれ、頼む!」

「私も、すぐにとは言わないけど、アリアたんと陽の力は必要だと思ってるから!」

「陽くん、あなたはどうしたいかしら?」

「ホモ、恋羽、一度話を持ち帰らせてもらってもいいか?」


 申し訳ない気持ちがあるので、二人に頭を下げた。

 この場で決めてしまってもいいが、先ほどの関わりもあって、陽は情報が足りないと判断している。


 ふと気づけば、ホモが陽の肩に手を伸ばしていた。


「陽、お前ならそう言うと思ったぜ。いったん整理したいんだろ?」

「うんうん、私とホモは生徒会を作るし、陽とアリアたんの気持ちの整理がついたら伝えてくれればいいからね!」

「ホモ、恋羽、ありがとう。できるだけ早めに結論付けるから」


 アリアも陽の意見に共感してか、静かにうなずいていた。

 その後、ホモと恋羽から作る予定の生徒会の方針を説明され解散するのだった。

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