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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第一章 幼女吸血鬼の紳士として

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57 幼女吸血鬼を中心に和む空間

 四人でお昼ご飯を食べている際、陽は思わずため息が出そうだった。

 無論、ため息が出そうになる理由は、アリアの料理を美味しそうに食べているホモと恋羽にあるのだが。


 気を紛らわせるように、恋羽リクエストのお昼ご飯、アリア特製親子丼を静かに口に頬張った。

 その時、陽は見てきていたホモと目が合った。


「なあ、陽、まーだ怒ってるのかよ?」


 どの口が言っているんだ、と思うのは内心だけに留める必要があるだろう。

 陽がご機嫌斜めなのは、一階に下りた際の出来事が原因であるのは言わずもがなだ。

 着替えを終えてから一階に下りるまでは天国であったが、リビングを見た瞬間に地獄に落とされたような気分だったのだから。


 ホモと恋羽がリビングで寝ているのは理解していたが、まさか抱き合って裸で寝ているとは思わないだろう。ちなみに、布団がはだけていたので、寝相の問題なのかもしれないが。

 朝から二人の生まれた姿を目撃し、気分が良い理由は何処にもない。

 一部の方々からすれば、オマケを除いて運よく見られたのはラッキーという考えに至るだろう、が陽に関してはあるはずもなく。


 この二人には前々から陽宅での好き勝手を許している。だが、今回ばかりは流石の陽も堪忍袋の緒が切れたのだ。


 アリアの着替えがゆっくりだったのが功を奏してか、二人のあられもない姿を見させずに済んだが、下手すれば騒ぎになりかねなかったのだから。


 結局のところ、陽は朝から二人を正座させ、小一時間以上お灸をすえたのだが。


 ホモと恋羽の関係を理解していたとしても、人様の家での良い事と悪い事の区別くらいは付けてほしいものだろう。

 ちなみにホモは前々から陽宅で大人向けの本を読んだりしていたが、今回に関しては度が過ぎたことを理解していたらしい。


 親子丼を頬張っているホモと恋羽は、現在こそは落ちついているが、またいつ、何をしでかすのか分かったものでは無い。


「誰のせいだと思ってるんだ、誰の」

「はは、すんません」

「頼むから、ほどほどにしてくれよ?」

「ほどほどにすればやりたい放題ってわけだな!」

「恋羽と合わせて、もう一時間ほどお灸すえてやろうか?」


 お前の家でしか暴れられないから仕方ないだろ、と言ってくるホモに、陽は呆れるしかなかった。

 ホモの事情は理解しているので、陽家に来た時くらいは自由にしても良いが、恋羽を巻き込んでは遠慮願いたいものだろう。


 陽の心臓への負荷を含め、人様の肌をあまり見たくないのだから。


 その時、恋羽が空気を換えるかのように、恋羽の隣に座っていたアリアに顔を合わせた。


「アリアたんの作ってくれた親子丼、すごく美味しいよ」

「ふふ、喜んでもらえたようで、作り手としてなによりですよ」

「ほんと、気楽な奴らだな……」

「まあ、陽……みんな楽しめたわけだし、良いだろ?」


 ホモ曰く、陽たちが寝た後に恋羽が部屋に侵入したらしい。そして、光景を羨ましがった恋羽の起こした行動が朝の一面に繋がるとのこと。


 陽としては、無駄に責任転換をされてたまったものでは無かったが、各個人が満足いくのであろう時間を過ごしたのも事実なので、折れるしかなかったのだ。


 肩を叩いてくるホモに、少しだけ笑みのある視線を陽は向けておく。

 気づけば、恋羽はアリアの顔を見て、不思議そうに首を傾げていた。また、ピンク色の髪が小さく揺れ、恋羽の気持ちと連動しているようだ。


「そういえば……学校に居る時のアリアたんと、陽の隣に居るアリアたんだと、天と地ほどの差があるよね?」

「恋羽、どういうことだ?」

「言葉にはしづらいんだけど……人間なのに、人間じゃないような?」


 陽は思わず、手に持っていたスプーンを落としそうになった。


 恋羽が勘づいている通り、アリアは本来人間ではなく、紛れもない吸血鬼だ。

 アリアの吸血鬼の姿を知っている陽は、言葉が濁りかけていた。

 二人を騙す気が無くとも、アリアを庇うためには嘘を、虚偽の申告をしなければいけないのだから。


 アリアが驚いた顔をしているのを見るに、恋羽から言われるとは思っていなかったのだろう。

 現状、アリアの正体を知っているのは陽を除き、父親の真夜しかいない筈だ。


 どうにか言葉を探していれば、ホモがアリアの方を静かに見ていた。


「俺は相手から出る僅かな生命線を見てるけどさー」

「白井さん……生命線、ってなんでしょうか?」

「ああ、ホモは生まれつき人並み以上に優れた感性を持ってて……所謂、強感覚で、相手の体調とかを多少は肉眼で見抜けるんだよ」

「陽、説明ご苦労さん。で、まあ、アリアさんの線は他と異質っていうか、一線を画しているからなー」


 ホモは興味なさそうに親子丼を頬張り、美味しそうに食べていた。

 ホモが加わると面倒くさいと思っていたので、感心が無いのは好都合である。


 問題は、話題に出した恋羽だろう。


 恋羽との付き合いもなんだかんだ長くはあるが、彼女の思考と見えている世界は、未だに理解できないままなのだから。


「……恋羽さん、どうしました?」


 アリアは小食なのもあり、少し前に食べ終わっているので、食べている三人を見ては絶やさず笑みをこぼしていた。

 そんなアリアでも、食べる手を止めてまで見てくる恋羽に困惑したようだ。


 勘づいたか、と焦りが生じた時、見える光景に陽は口が塞がらなかった。


 恋羽は瞬く間もなく、隣に座っていたアリアを抱きしめ、嬉しそうに頬をすりすりしているのだから。


 アリアの幼女体型や、恋羽の成長途上の体つきも相まって、恋羽に上から抱かれているアリアが人形のように見えてしまう。実際、アリアに抱きついて頬をすりすりする仕草の恋羽は、人形を大事にしている時の仕草そのものではある。


「でもね私、アリアたんはアリアたんだから、大好きだよ!」

「もう、恋羽さん、くすぐったいです。それに、お食事中に行儀が悪いですよ」

「えへへ、アリアたんやわらかーい」


 恋羽の暴走癖には、常々呆れさせられる。

 それでも、くすぐったそうにしつつも嬉しそうなアリアの表情を見て、陽は思わず頬が緩んでいた。


 気づけば、ホモが肘で小突いてきていた。


「陽、想い人の仲が良いのはいいことだな」

「……余計な一言を抜けば、そうかもな」


 アリアを加えるようになってから、遠慮気味だった恋羽の表情に笑みは絶えず顕在している。

 実際、朝のあの光景だって逆を返せば、今まで恋羽に窮屈な思いをさせていたのかもしれない。


(……恋羽の出入り、緩めてもいいかもな)


 陽はそんなことを考えつつも、自分だけに出された味噌汁を静かに飲み込んだ。


「ホモと陽って、俯瞰してるか、ぐいぐい来る確率が高いよねー」

「ふふ、そうかもしれないですね」


 恋羽の口を丁寧に拭いているアリアが、チラリと微笑ましい表情で見てきていたことに、陽はついぞ気づかなかった。

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