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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第一章 幼女吸血鬼の紳士として

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46 頼り合える友人との時間

「いらっしゃいま……せ! あ、陽、待ってたよ!」

「恋羽、こんにちは。休日の貴重な時間に申し訳ない」

「ふっふっふっ、友達の為となれば、店番をしない理由がないよ!」


 休日、陽は恋羽の両親が営んでいるお店に訪れていた。


 ドアを開ければ、萌え袖をぶんぶんして近づいてくるピンク色の瞳と髪を持つ少女――恋羽は相変わらず変わっていないようだ。また、店番なのもあってお店の制服姿でいるらしく、白い長袖シャツの上から赤いエプロンを着用し、腰に小さな可愛らしいお人形をぶら下げた格好をしている。


 店内を見渡せば、アクセサリーの見本品が置かれたいくつかの棚に、日差しが当たる位置にテーブルと椅子が置かれている。


 恋羽のお店は、基本的にオーダーメイド専門のアクセサリー店となっている。そして、お店が開いていてもお客さんが居る事は滅多に無く、陽とホモ、恋羽の三人の集い場所として定着している程だ。


 ふと気づけば、恋羽はポニーテールを揺らし、ニヤニヤと距離を詰めてきていた。


「さてさて、陽さん、今日はどんなオーダーメイドをお望み?」

「いや、オーダーメイドをしに来た――」

「ふむふむ、アリアたんのチョコは美味しかった?」


 多分、恋羽には何をしに来たのかバレているのだろう。またアリアが以前、恋羽に料理を教えると言っていたので、その時点で勘づいていたのかもしれない。

 陽としては、恋羽が理解しているのは話が早いのだが、問題はそこではなかった。


 ニヤついた笑みに、今にでもうずうずしている手つきは、よからぬ事でも思い浮かべているのだろう。

 陽はアクセサリーへの信頼は高いが、首輪の付いていない恋羽には警戒しかないのだ。


 呆れて息を吐き出しつつ、あらぬ妄想を掻き立てられぬうちに白状した。


「うん。泣くほど美味しかったよ」

「泣くほどなんてー、陽もジョーダンが上手くなったねー」


 ジョーダンで言ったつもりはないが、恋羽の捉え方に異論を唱える必要は無いだろう。


「まあ、本題なんだけど……アリアさんにお返しをするため、ホワイトデーの贈り物の目安を探しに今日は来たんだよ」

「うちのお店を当てにしてくれるなんて、ママとパパも喜ぶよ! 陽なりの、アリアたんへの愛だね!」


 困惑しつつも、そう言う事でいいか、と陽は恋羽の発言を聞き流しておいた。


 気づくと、恋羽はピンク色の瞳を輝かせて陽の姿を反射させている。


「にしても、陽は律儀だね」

「まあ、アリアさんにはお世話になっているからな。それと、恋羽はいつものでいいか?」


 恋羽からのチョコは、至ってシンプルなハート形のチョコだったのだ。

 ただし、媚薬の毒が入っていたのは言うまでもない。

 避けて処分しようとしたのだが、アリアが誤って食べてしまい、大変なことになったのは今でも鮮明に覚えている。


 いつもの、という言葉と同時に睨みを利かせたのもあってか、恋羽は苦笑いをしていた。


「まあ、チョコについてはさておいて……陽、よくわかってるねぇ。どっかの歩く蛮族とは違うねぇ」


 恋羽がそっぽを向きながら言うので、陽は恋羽の視線を辿った。


 視線を辿れば、棚に隠れるようにこそこそしていたある人物――灰色のつなぎを着た歩く筋肉こと、ホモが居たのだ。


 恋羽が居るのにホモが居ないのを不思議に思っていたが、ホモは隠密に徹していたらしい。


 恋羽が先ほどから明るい声を響かせるように喋っていたのは、ホモに間接的に伝えるためだろう。


 恋羽とホモは、陽から見ても仲が良い。だが、お互いの支え合いがすれ違うこともあるようなので、ホモに陽を見習ってほしい意味合いが高いのかもしれない。


 二人の相変わらずの距離感に、陽は思わず苦笑いをした。

 二人は付き合っていないようだが、傍から見ればバカップルそのものだ。


 恋羽は陽の視線に気づいていないフリをしてか、気にした様子を見せないで笑みを宿している。


「話を戻して……どんな贈り物を探してる感じ?」

「探してるっていうか、形が見えていないんだよ……」


 本来であればアリアの欲しがるものをリサーチしておくべきだが、その片鱗すらアリアは見せなかったのだ。

 アリアに何でもいいと言われた以上、自分だけがあげて満足するのではなく、アリアと一緒に満足できるものを探したいものだろう。それは、一緒に過ごしているからこそ湧いて出る、エゴという幸せの感情なのかもしれない。


 アリア自身に喜んでもらうのは難しいかもしれないが、自分がどこか抜けた紳士としてできる精一杯の労いの気持ちだ。


「見えてないのね。あ、そうだ! よかったら、最近のオススメでも見てみない? アリアたんの好きなものはわからないけど、似合うものがあると思うよ!」

「恋羽、お願いするよ」


 大船に乗った気持ちで任せなさい、と胸を張っている時の恋羽は、安心感がそこはかとなく高いのだ。

 陽は頭を下げてから、案内する恋羽の後に続くのだった。



 恋羽がオススメするアクセサリーを見て回ってから、陽は恋羽とホモと共に、テーブルを囲っていた。

 恋羽はちゃっかりとエプロンを脱ぎ、ピンク色のパーカーを羽織っている。


「それにしても、陽は律儀なやつだよな」

「私からしたら、ホモは陽を見習って、愛を理解してほしいけどね」

「こっちみんな」

「ホモ、恋羽にお返しはしてない感じか?」


 お返しはされてるんだけど、と恋羽が濁ったように言うので、趣味がすれ違っているのだろう。

 陽自身、二人の関係を深くは知らないのであまり口を出す気はない。それでも、自分がアリアにお返しをする参考になれば、と思って聞いたに過ぎないのだ。


 ホモは気まずそうにしながらも、準備されていたウインナーにクリームをディップして美味しそうに頬張っている。


 恋羽が笑みを宿し「ホモ、ほっぺにクリームついているよ、もう」と言いながら布巾で拭いていた。


 目の前で何を見せられているのだろう、という感情が湧きつつ、陽は疑問がよぎっていた。


「それで付き合ってないお前らが、自分は不思議でしょうがないよ……」

「あれ? 陽は知らないの?」

「恋羽、何の話だ?」

「あー、すまんすまん、忘れてた! 俺と恋羽は陽と出会う前から、結婚前提で付き合ってるんだよ」


 何気ない真実に、陽は驚きを隠せなかった。

 二人は今までも仲はよかったが、まさか付き合っているとは思わないだろう。

 陽としては、アリアに手を出されない安心感が増しつつも、驚愕の事実に心が揺れている。


 笑いながらもウインナーに手を伸ばしているホモは、恋羽との関係をこちらに明かしたつもりでいたのだろう。

 恋羽は照れた様子を見せているが、真実だよ、と言いたげに片目をウインクさせている。


 この二人の以前からの様子を知っている陽からすれば納得なので、出されていたコーヒーをおとなしく口に含んだ。


「まあ、めんどうくさいから口外はしないんだけどな」

「そうそう。別に誰が誰と付き合おうなんて、その人の自由だよ。愛だよね!」

「付き合うのは自由、か」


 口から溢れ出した言葉は、何を求めているのだろうか。


「……陽は恋愛に、興味ないよな。まあ、俺はなんも言わないけどさ」


 ホモは過去を知る仲だからこそ、詰め寄ってこないのだ。

 ホモとだけ知る会話をしているのもあって、恋羽が話に混ざりたそうに見てきていた。


「ほらほら、恋羽、そう怒らない怒らない」

「自分の前で触るとか……バカップル?」


 ホモがわざとらしく恋羽のたわわを触れば「やっていい事と悪い事もあるからね!」と萌え袖でぺちぺちして怒られている。

 二人のやり取りから見るに、以前から付き合っているのは本当のようだ。


「へへ、ホモとはくっつく程の距離感だから、アリアたんを取られる心配はないぞ」

「なんで自分がアリアさんとくっつくの前提?」

「あの学校じゃ、陽しか候補が居ないからだろ?」


 陽が苦笑いすれば、ホモは持っていたフォークをテーブルに置き、真剣に光を反射させている。


「……ホモ、なんだよ」

「いや、陽も変わりつつあるよな、って感動深いだけだ」

「別に変わってない」

「またまたー。やっぱ、陽ってどこか抜けてるけど、愛だね」

「陽が気付いてないだけで、俺から見れば、立派に変わってるぜ」


 ホモはこちらに近づき、前髪をあげ、素肌を見てきているようだ。

 ホモが相手の変化に敏感なのは今に始まったことでは無いので、否定しづらいものだろう。

 陽としては、二人が何を期待しているのか不明なのもあり、苦笑いするしかなかった。


 ふと気づけば、ホモは陽の前に封筒を一通置き、恋羽の隣に戻っていた。

 ホモから差し出された封筒の内容に触れないようにし、そっとポケットにしまっておく。


「なあ、陽」

「どうした?」

「アリアさんの体調、しっかり気を回してやれよ」

「……言われなくとも、自分が一番よくわかってるよ」


 険しい表情で釘を刺してきたホモに、陽は少しうつむいて言葉を返した。

 その後、二人の関係の話を聞かされつつ、アリアへのプレゼント選びを再開するのだった。

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