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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第一章 幼女吸血鬼の紳士として

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43 幼女吸血鬼と共通する好きな味

 普段であれば、買い出しは陽の役目なのだが、この日はアリアの付き添いで一緒に買い出しにでていた。


 学校の制服姿で無いのが救いとはいえ、アリアの容姿と雰囲気もあって、同じ学校の人に見られればすぐに勘づかれるだろう。


 そして現在、最寄りのスーパーの中にある、紅茶の棚があるコーナーに来ていた。


「白井さんは、今まで飲んだ中でどの紅茶が好きかしら?」

「えっと……アリアさんが買いたい物って、紅茶だったの?」

「そうよ」


 買い出しがある、と急に彼女に言われて家を出たのはいいものの、まさか紅茶だと思わないだろう。


 家にある紅茶専用の棚は二人で管理しているが、在庫が尽きそうな紅茶は無かったはずだ。


 また陽は、アリアが個人で持ってきた紅茶だけ並べていると思っていたので、お店で買えるのは予定外である。


 棚を見てからアリアの方を見れば、深紅の瞳がぼんやりとした様子で見てきていた。

 小さく揺れる黒いストレートヘアーは、今か今かと答えを待っているようだ。


「えっと、一般的に売られているもので?」

「当たり前よ。誰もかれも、あなたみたいに専用品を買えるはずないのよ?」

「いや、アリアさんも十分に対外だよね……」

「私は人じゃないのよ」

「人の形をしてるから人じゃない?」


 吸血鬼を人外と称すべきか、それとも人と称すべきなのかは、その者の持つ価値観次第だろう。また、陽は少なくとも、人間の姿で居る時のアリアは人だと思っている。


 呆れたように肩を落としているアリアに、陽は慌てて手を振った。


「ふふ、まあいいわ。私は、白井さんが好みの味を分かち合いたいのよ」


 と言ってくるアリアに、思わず息を呑み込んだ。

 喉から宙を舞うように音が出るのではないか、と勘違いしてしまう程に。


 味を分かち合いたいという、人が持つ、わけあう美味しさの味がアリアにも伝わっていたのだろう。


 宝石のような赤い輝きを持つ瞳から目を逸らすように、陽はそっと紅茶が並んだ棚を見た。


 紅茶の棚には、アールグレイにダージリン、柑橘系と様々な種類が並んでいる。

 どの紅茶が一番というのは無いに等しい。それは、ここまで多種多様な紅茶があるのだから、その日の気分、天候とかで味を変えるという嗜み方もあるのだから。


 陽自身、一つをずっと飲み続けたり食べ続けたりできるタイプであるが、アリアと過ごしてから栄養面の偏り上避けるようにしている。


 陽は悩みつつも、一つの袋を手に取った。


「自分はこれかな」

「これは、アールグレイね」

「うん。アリアさんと飲むならブドウの香りがする紅茶が好きだけど、一般的ならアールグレイが飲み慣れているからね」


 シンプルな回答ではあるが、嘘はなく、事実を述べているだけだ。

 以前アリアと話している際に、お互いの為に淹れる紅茶が一番好き、という結論に至っていた。それは、お互いにとっての味は雰囲気を味わうためにあるようなものだろう。


 ふと気づけば、アリアは陽の手からアールグレイを取り、笑みを浮かべていた。そして、ゆっくりと陽が持っていたカゴの中に入れている。


「シンプルだけどしつこくない紅茶……あなたらしいわね」

「そうなの、かな?」


 紅茶を好きになっているとはいえ、詳しいとは言えない。

 紅茶の生産場所、日光や水分量に応じて、同じ茶葉であっても味が変わりかねないのだから。


「食材が食べられるためにあるように、紅茶もその人が好んでくれるのなら輝いて見えるのよ」

「……哲学はわからないな」

「ふふ、あなたにはまだ早すぎたかしら?」


 吸血鬼の生きてきた歴史で当たり前かは不明だが、少なくとも陽の中では無いに等しい。


 不思議と首を傾げれば、くすくすと上品に笑ってみせるアリアは、からかっているようで愛らしさが溢れ出ているようだ。


 他愛もない話をして彼女の笑みを見られるのは、自分が恵まれている証拠だろう。


 幼くも可愛らしい笑みを直視していたのもあり、陽の方がだんだんと恥ずかしくなってきていた。

 火照った頬を誤魔化すように、アリアから目を逸らしてしまう程だ。


 陽はふと、疑問に思ったことが脳裏をよぎる。


「そういえば、なんでアリアさんは自分の好みを聞いてきたの?」


 聞いたのが不味かったのか、アリアは焦った表情を見せている。

 あわわ、といった様子で手を振っては、悩んだように手を頬に当てて誤魔化しているようだ。


 陽からすれば、別に話したくないのなら言わなくてもいいのだが、アリアは隠し事をあまりしたくないのだろう。


 今までの様子からしても、アリアは本当の隠し事以外は隠すのが不向きなので、いずれは白状するタイプである。


 アリアは息を吐き出し、深紅の瞳で真剣にこちらを見てきた。


「あれよ……恋羽さんに料理を教えないといけなくなったから、まずは紅茶で雰囲気づくりを……」

「アリアさん、自分は気にしてないから、無理に言い訳をしなくても大丈夫だよ?」

「教えるのは言い訳じゃないわよ!」


 ぎろっと睨まれて盛大にアリアに逆ギレをされているが、これも定めなのだろうか。


 アリアが何を考えているのか理解できず、陽は首を傾げるしかなかった。


 アリアが恋羽に料理を教えるというのは、二人で連絡を取り合い始めたようなので嘘ではないだろう。それでも、アリアが何かを隠していそうで、どうも気がかりではある。


「……本当に、どこか抜けた紳士さんね」

「今関係あるの?」

「関係あるわよ……馬鹿。まあいいわ、白井さんの好みも知れたし、夜ご飯の食材を一緒に選びましょう」


 陽が呆然としていれば、小さな手は陽の手を取りエスコートしてくる。

 彼女が何を考えているのかは不明だが、少なくとも危ういことでは無いだろう。

 陽は切り替えて、アリアと共にする買い出しを心ゆくまで堪能するのだった。

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