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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第一章 幼女吸血鬼の紳士として

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24 クリスマスイブの来訪者

「……嘘だよな」


 クリスマスイブ当日、お昼時に鳴り響いたチャイムに、陽は頭を悩ませた。

 陽の学校は、クリスマスイブ前には冬休みに入っている。そのため、休み中の生徒間での交友は連絡を取っている者同士だけだと思っていたのだから。


 チャイム越しのカメラから見える突然の来訪者、ホモと恋羽の姿に困惑するしかないのだ。


 ホモと恋羽とは、冬休みに遊ぶ約束を話していないくらいだ。それでも、今目の前に壁として立ちはだかる二人は、間違いなく本人達である。


 頭を悩ませていれば、椅子に座って本を読んでいたアリアは立ち上がり、こちらに近づいてきていた。


「白井さん、チャイムが鳴っているわよ?」

「……その、大変言い難いのですが。ホモと恋羽が家にやってきたみたい」

「……え?」


 流石のアリアも困惑したらしく、驚きを隠せないでいるようだ。

 アリアと恋人関係ではないので、イブではなくクリスマスに遊ぶ約束をしたからいいが、問題はそこではないだろう。


 現在陽は、アリアと一つ屋根の下で過ごしているため、二人に見つかればあらぬ疑い、というよりも花畑の妄想をされかねない。


 連絡をしている父親ならまだしも、関係を知られていない二人なのだから。

 また問題として、アリアが普段着である長袖の白いパフスリーブブラウスに、白いフレアスカートというお嬢様のような姿なので困るしかないだろう。


 上手く言葉が出ていないアリアを横目に、陽は息を吸った。


「アリアさん、自分がどうにか説得して帰ってもらうから、待っててもらってもいい?」

「ええ、信じているわよ。……あなたの悔いのない選択、見届けさせてもらうわ」


 陽はうなずき、玄関の方へと向かった。


 玄関のドアを開ければ、二人の姿……ホモと恋羽が嬉しそうな表情を携えて待ち構えていた。また、二人が手に持つ大きな袋を持っているのが目に映った。


「陽、メリークリスマス! 遊びに来たぜ!」

「メリィィクリスマウスの時期だよ!」

「……ホモ、恋羽、何をしに? ていうか、祈りの日にテンション高いし、一人はネズミの国にご帰還してどうぞ」


 初手からテンションが高い二人に、陽は苦笑いするしかなかった。

 また家に入れる気はないため、塞ぐようにドア前に立っておく。


 陽としては、どうして付き合っていない二人が一緒に家に来たのか、というのが疑問でしょうがなかった。

 ホモは百歩譲って理解できるとしても、陽が恋羽に苦手意識が高いのをホモは理解しているはずだ。


 恋羽は口角を上げ、ニヤついたような表情を見せる。そして、ピンク色の瞳とポニーテールを揺らし、さっと距離を詰めた。


「ふふふ、イブに可哀そうなぼっちと一緒にクリスマスパーティーをしようかな、って思ったのだよ」

「恋羽、陽が困るからやめてやれよー」

「お二人さん、出口はあっちだよ」


 二人にも理解しやすいように、庭の出口の方を指さしておいた。


 まあまあ、といった様子で手を下げさせてくるホモは、力加減をしていないので引く気はないらしい。

 ふと気づけば、恋羽は鼻を鳴らし、不思議そうに頭を傾げていた。


「なんか、愛の匂いがするね。うん、愛だね」


 アリアの事を勘ぐられたのかと思ったが、理解不明の彼女は置いといて、陽はホモを睨むように見た。


「あはは、陽はどうせクリスマスを知らないし、遊ぶ相手も居なさそうだから、って思った俺らなりの労わりだ」

「そうそう。こうしてホモと事前に話しを合わせてきたんだよ! それに、食べ物も買ってきたからね!」

「……正論が痛い」


 今の陽からすれば、クリスマスには遊ぶ予定があるので正直痛くはない。それでも、ホモと恋羽にアリアとの関係がバレないようにするため、演技をするしかないのだ。


 二人が抱えていた荷物が判明したとしても、家に入れづらいのは事実だろう。

 もしくは、アリアが察して二階の自室に戻っていることを信じるかだ。


 アリアの事なので、下手したら一階で紅茶を飲んでいそうだが、流石に今の状況で一階にいないだろう。


 突き刺さる針に肩を落とす前に、陽は一つだけ言う事があった。


「てか、来るなら事前に連絡してくれよ」

「今連絡したから大丈夫だろ? てことで、お邪魔していい条件は達成だ」

「どこかでしたような会話だな……。いや、そうじゃなくて報連相を――」


 呆れていれば、ホモが肩に手を置いてきた。


「陽、世の中にはな、事後報告っていう馬鹿でも理解しやすい言葉があるんだ」

「ホモ、馬鹿はそもそも言葉を理解できない人を指すんだよ。てか、厄介事を起こした後の処理を考えて行動しろよ」


 自由人の相手をするというのは、これ程までに疲れるのだろうか。

 それでも、さり気なく横を通ろうとする恋羽を見逃がす気はない。


「それじゃあ、陽宅にお邪魔しまー……」


 恋羽が通ろうとした瞬間、陽は右腕を横に出し侵入を防ぐ。

 恋羽はムスッとした表情を見せ、ピンクの瞳でじっとこちらを見てきている。

 アリアの視線と違い、恋羽の瞳がピンク色なのもあり、圧を感じないので陽は痛くもかゆくもなかった。


 ホモもさすがに違和感を察したのか、さり気なく恋羽の手から袋を取っている。

 ホモに袋を持ってもらった恋羽は、空いた手を萌え袖にし、自身の胸を隠す仕草をした。そして、いやらしい目で陽を見てきた。


「陽、もしかして私の胸を触る気……?」

「何でそうなる?」

「確かに、私の胸のサイズはしぃ……標準ながらも強調されている自覚はあるし、陽くらいの男の子は触りたくなるかもしれないよ」


 突然意味不明な論理を語り始めた恋羽に、陽は開いた口が塞がらなくなっていた。


「でもね、私は触らせる相手は決めているし、女の子同士じゃない限り良くないと思うの」

「恋羽のぱいおつは標準……脳内にメモだな」

「年がら年中変態のホモは静かにしてくれ、ややこしくなる」

「もしかして、陽、触りたいの?」


 もはや話の流れが理解出来ない陽は、首を横に振るしかなかった。

 陽自身、恋羽の胸を触りたいと思ったことは一度もない。それに、紳士たるもの一人を愛せよ、という父親の当てにならない教えを守っているくらいだ。


(……この手で触れるのなら)


 陽が女性を色目で見る時は、きっと大事な相手が出来て、時が来た時か、ひと時の戯れ限定だろう。

 気心が知れた仲であっても、最低限の礼儀や作法をわきまえていなければ、近くにいて遠い存在となってしまうのだから。


 陽が固まっていれば、そのできた隙に乗じてか「お邪魔しまーす」と恋羽の侵入を許してしまった。


「あ、恋羽!」

「陽、どんまいだな」


 笑いながら言ってくるホモに、陽は肩を落とすしかなかった。

 触れたいかどうかの話題をホモが触れてこないのは、ホモながらの労わりだろう。それは、恋羽というじゃじゃ馬の手綱を放してしまった自身を戒めるように。


 ホモが居るから恋羽はあれでも落ちついているが、ホモが居なければ、と考えると想像したくもないだろう。


 諦めてホモと家に上がろうとした――その時だった。


「え、なんで!?」


 恋羽の驚く高い声が廊下を伝い、陽とホモの場所にまで聞こえてきたのだ。

 ホモと顔を合わせ、二人で慌ててリビングへと駆け足で向かった。


(……まさか!?)


 この気持ちは、嘘だと思いたい。

 それでも恋羽の驚いた声からして、間違いなく余寒が走る。


 リビングのドアを開ければ、その視界に映った光景に思わず息を呑んだ。

 まず目に映ったのは、ドア前で驚きのあまり棒立ちで立っている恋羽である。

 そして問題なのが、ソファに頭を預け、すやすやと心地よさそうに眠っているアリアの姿があったことだ。


 アリアの天使とも言える可愛らしい寝顔に、陽は気づけば言葉を失っている。


 その時、一緒に駆けつけたホモが横腹を肘でついてきた。


「陽さんや、理由を説明してもらおうじゃないか。もちろん、何とは言わずもがなだよな?」


 荷物をテーブルに置いて詰めてくるホモに、陽は息を吐くしかなかった。


 恋羽に関しては、眠っているアリアに物珍しそうに近づき、寝顔を眺めているようだ。

 ホモにどう説明しようかと悩んでいたら「あっ」と恋羽から鈴を転がすような声が漏れた。


 恋羽の方をホモと見れば、ホモが「あ」と言ったのに続き、陽は顔を抑えた。

 そう、今まさに本題になろうとしている張本人、アリアがうたた寝の世界から目を覚まそうとしているのだ。


 幕が上がっていけば、潤う深紅の瞳はほっそりと姿を覗かせ、アリアはソファから頭を上げた。


 同時に、恋羽はアリアが目を覚ましたのを合図にしたかのように、そっと顔を近づけている。


「アリア・コーラルブラッドさん、おはよう」


 おはよう、と言いかけたアリアは驚いたように目を開き、呆れていた陽を見てきている。


(……何でこうなるんだ)


 陽の心配をよそに、アリアに近づいている恋羽、そして訳を聞きたそうなホモという自由人に頭を悩ませるのだった。

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