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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第一章 幼女吸血鬼の紳士として

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16 幼女吸血鬼は温もりを手放さない

 テスト終わりの夜、アリアが紅茶を飲んでいる傍で、陽は珍しくノートパソコンをいじっていた。

 お互いにテストの心配が無いに等しいので、周りの生徒と違って話題にしづらいのは悲しいものだ。


 言葉の弾まない空間には、キーを叩く音がカチカチと鳴り響いている。


(……どうやって気を引かせようか)


 テストもあって先延ばしになっていたが、陽は現在、アリアの気を引くためにわざとパソコンを目の前で使っている。


 指先はキーに向いているが、陽の気持ちはアリアに向かっていた。


 恋羽にチケット『豪華スイーツ食べ放題』をあげた結果、余剰分としてさりげなく情報を聞き出すアドバイスを受けたのだ。


 交友関係が狭い陽としては、恋羽のアドバイスはありがたい限りだった。


 陽はキーを打ちつつも、ちらりとアリアに顔を覗かせた。

 アリアはお構いなく、といった様子で紅茶を嗜んでおり、優雅に香る熟成されたぶどうの匂いが鼻をつついてくる。


「あの、アリアさん」

「あら、何か用かしら?」

「今日のテストはどうだったの?」


 ベタな持ち掛け方ではあるが、テストの話題を出すしか陽には無かった。


 正直、紳士なら話題のネタを増やすように、とアリアに言われたのもあり申し訳なさがある。


 陽としては、どんなネタであっても上手く扱えるようになりたいので、日常を話すのはお湯を沸かすくらい簡単にしたいつもりだ。


 アリアはティーカップを静かに置き、深紅の瞳でこちらを見てきた。


「まるで、年単位の時間の牢獄に縛られているようだったわ」

「天才が故の悩み、か」

「あら、理解が早いわね」


 上品に小さく微笑むアリアの表情は、心の隙間をくすぐっているようで、聖者には毒のように浸透していく。


 その時、アリアの着ていた白いパフスリーブブラウスの肩についていたフリルが揺れ、伸ばす指先が陽のパソコンをさした。


「……アリアさん、パソコンに興味があるの?」

「パソコン? ……恥ずかしいことだけど、私は人間界の電子機器を知らないのよね」


 消え入るような声で話すアリアは、知らないが恥ずかしいことだと思っているのだろう。

 確かに知らないよりは知っている方が知恵は広がるので、長い時を生きる吸血鬼にとっては致命的なのかもしれない。


 だとしても、人間の知恵の結晶を吸血鬼が知ったところで、というのもあるので仕方ないだろう。


「よかったら、見てみる?」


 アリアがうなずいたのを確認して、陽はアリアが立ち上がるのと同時に立ち上がった。


 陽はさっとアリアに近づき、彼女の座っていた椅子を持ち上げ、自分の居た方へと運ぶ。

 アリアを座らせてから、調整するように椅子を押し、近くにティーカップを寄せておく。

 陽自身、これくらいの動作はさりげなくできるようになったが、成長と呼べるのか不安ではある。


 アリアがフレアスカートなのもあり、若干の動揺があったのだから。男の性、というものは女の子の何気ない仕草一つでさえ、実際目を逸らしたくなってしまう。


 アリアの隣に座れば、やはりというか、アリアが幼女体型なのもあって身長差を明確に伝えてきているようだ。


「アリアさん、これはパソコンっていう電子機器なんだけど……画面を見てて体調が悪くなりそうだったら、目を離すことをお勧めするよ」

「ふふ、吸血鬼の目は人間よりも……わかったわ」


 アリアは初めてパソコンの画面を見たのか、分かりやすい程に体調を崩しかけたようだ。

 体調を崩しかけたというよりも、情報の多さに目が疲れたのだろう。

 アリアは陽よりも視力が良いので、見慣れない画面に酔ってしまったのかもしれない。


 そんなアリアに、陽は持つ知識でパソコン及びにスマホの事を教えつつ、アリアの目が慣れるのを待つことにした。

 アリアが慣れてきたところで、陽は握っていたマウスをアリアの前に差し出した。


「アリアさんも使う機会があるかもだから、試しに操作してみるのはどう?」

「ふふ、この矢印を動かすくらい私でもたやすい事よ? 度肝を抜かれない事ね」

(……カーソルは誰でもできそうだけど、黙っておこうと)


 何を言いたいのかしら、と言いたげな視線を飛ばしてきているアリアに、陽はそっと首を横に振った。

 アリアの指はマウスが隙間から見える程に細いらしく、繊細な手だと間接的に伝えてきているようだ。


 マウスの主導権をアリアに握らせれば、アリアは教えたとおりに手を動かし始めた。

 最初はカーソルの動きに慣れなかったのか、目で追いながら、手をきょろきょろ見ている。

 画面を見ないと分からない筈なのだが、自分ならしない行動は新鮮味があるというものだろう。


 しばらくすればアリアは慣れてきたのか、次第にその場でマウスを円状に回したり、笑みを浮かべながら体と一緒にマウスを動かしたりしている。


(アリアさんの行動、可愛すぎないか……)


 確かに、ゲーム中に体を傾けたりする人がいる、というのはよく聞く話だが、マウスと連動して動くのは珍しいものだろう。

 彼女が真剣であるのは理解しているが、幼女吸血鬼でお嬢様のアリアと知っているからこそ、垣間見える幼さが一面に溢れ出てしまっている。


 ただアリアを見ているだけなのに、知らない胸の高鳴りは、水面に浮かぶ月に見透かされているようだった。


 可愛い、という一言で収められるのに、胸に手を当てれば陽の手は微かに振動してしまうのだから。


 陽が気持ちと葛藤しているというのに、笑みを浮かべながらマウスを動かしているアリアは微笑ましいものだろう。



「あ、そうだ」

「白井さん、なにか用事でも思い出したの?」


 紅茶から立ち昇っていた湯気が薄っすらとし始めた。

 陽はわざとらしく思い出したそぶりを見せ、マウスを握っているアリアの手に自身の手を伸ばした。

 自分の手がアリアの手に触れた瞬間、アリアはピクリと体を震わせた。


 次の計画に進めようとしただけだが、アリアの手に触れてしまうのは誤算だ。


 初めて包み込んだアリアの手は、自分の手よりもひと回り以上小さくて、すっぽりと収められている。


 ふとアリアの顔を見れば、深紅の瞳は驚いたようにこちらを見てきており、今にでも滴りそうなほど震えていた。


 沈黙が訪れた時、息を呑む音が鳴る。


「その……アリアさん、勝手に手を触ってごめん。今、離すから……え?」


 手を離そうとした時、小さな手が動きを止めた。

 驚いた様子を陽が見せれば、アリアは陽の右腕にくっつくほど体を寄せてきている。


 状況整理が落ちつかない中、アリアに更に接近されたのもあり、思考は更に乱雑を極めているようだ。

 アリアの瞳の中には、驚きを隠せていない自分が映っている。


「あなただけになら、触られても嫌じゃないわよ……前もだけど、本当に、私は何を言っているのかしらね」

「……画面の見過ぎで具合悪くなってない? その、無理はしない方がいいから」

「心配しなくても大丈夫よ。自分の管理くらいは造作もないわ」


 アリアが小さな声で「今は離さなくてもいいから」と言ってきたのもあり、陽はもう一度息を呑んだ。


「そうだ。アリアさんにも見てもらいたいものがあったんだ」


 陽は慣れているが、アリアが操作に慣れていないのを踏まえて、陽はアリアの手に自分の手を重ねたままマウスをゆっくりと操作した。


 隠していたデスクトップ画面が横に移動すれば、裏で開いていたサイトが画面に映し出されている、


「……リボンテープ?」


 アリアが疑問そうに呟いたのを聞いて、そっと頷いておいた。


 遠回りではあったが、鮮やかなリボンテープが記載されているサイトをアリアに見せたかったのだ。


 陽はアリアの手を温めるように包み込みながら、一番見せたいと思っていたリンクを開いていく。


 詳細を開いていけば、しっかりと色が主張された単色のリボンテープに、白や黒のラインが端に沿っているリボンテープの画像が浮かび上がった。


 これは以前、恋羽から送られてきたリンクから見つけたページであり、陽が準備をしている最後のキーとなる予定の物だ。


 アリアはリボンテープに興味を示してくれたようで、ぽかりと口を小さく開き、深紅の瞳が水に濡れたように輝いていた。


「気になる?」

「ええ」

「よかった。……アリアさんは、この中だとどの種類が好きとかある?」


 言葉を濁して、あえてアリアに選ばせるのは、小さな蕾が星の煌めきになるようにしたいからだ。


 恋羽のアドバイスもあるが、意味が分からないものをプレゼントするくらいなら、選んだものを工夫して使いたいと思ったのだから。


 アリアは悩んだ様子を見せた後、逆の手で単色の赤いリボンテープを指さした。


「私はこの色が好きね」

「少し濃い目の赤色でありつつ、ワインのような鮮やかさを持つ色合いのリボンか……理由とかあったりする?」

「理由は……私にとって馴染み深い色で、落ちつく色だから、かしらね」


 単純なようで明確な理由を聞けて、陽は笑みを浮かべるのだった。

 小さなピースが揃った、この瞬間に。

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