15 恋の暗躍者現る。幼女吸血鬼への火を灯せ
「陽、ここはどうすればいいんだ?」
「ここは……」
休日となり、陽はホモと恋羽と一緒に学校近くのお店に来て勉強していた。
このお店自体、高校の息がかかったお店なので、テーブルを独占しても迷惑が掛かることが無いのはありがたい限りだろう。
ポイント制度を投入できる高校なのもあり、生徒の教育にも力を入れているおかげか、サービスも充実しているのだ。
温かなお店に独特なコーヒーの香りが漂う空間は、外が冬に変わる境界線を伝えてきている。
現在陽は、ホモと恋羽に勉強を教える約束で指導役をしており、黙々と進める二人には感謝しかない方だ。
ホモは勉強の基礎ができるのだが、恋羽は基礎よりも複雑なことを理解している、という真逆な二人を相手にしている陽は苦労人である。
恋羽は放置で問題なくとも、ホモに関しては手取り足取り状態で付きっきりになっている。
周囲を見れば、迫りつつあるゲリラテストに向けてか、やる気のある生徒で溢れていた。
冬の焼けるような日差しが差し込む中でも熱心にできるのは、場を用意してくれる学校のおかげだろう。
陽が一息つくためにコーヒーを口に含んだとき、ホモは持っていたペンをノートに置いた。
「なあ、陽?」
「ホモ、どうした?」
「教えてくれる理由は理解出来るんだけどさー。本当の目的はなんだ?」
「うんうん、私も気になってたー」
陽は普通に教えているつもりだったが、体の外に気持ちが溢れていたのだろうか。
ホモのニヤニヤした視線と、恋羽のワクワクしたような視線は、陽をじりじりと追いつめるように気後れさせてくる。
陽がそっと目を逸らせば、誤魔化すな、と言いたげなホモの視線が飛んできた。
苦笑いを陽が浮かべたとしても、ホモと恋羽は察しているからか、引き下がる様子を見せない。
今までなら素っ気ない態度をすればどうにかなったが、今回は許されないようだ。
(……アリアさんに対しての悩み、っていうのはバレていないよな?)
陽が悩んでいるのは、アリアに対してサプライズをしたいことだ。
サプライズ、と言っても盛大に祝うようなことではなく、ちょっとしたプレゼントをあげる感じだ。
陽はアリアと過ごすようになったが、彼女にこれといって特別なものをあげたり、全てを手伝ってあげたり、過保護気味になるつもりはない。
それでも陽は、ポイントやテストの話をした日、アリアの喜ぶ顔が見えるような未来を思い浮かべてしまったから、行動に移したいと思ったのだ。
陽自身、使えるものはすべて使い、自分なりの初めてを形にするつもりで考えていた。だが、考える事と行動する事は釣り合わず、数多の知識を持っていたとしても吸血鬼の感性は分からないでいる。
サプライズの問題としては、アリアの誕生日を知らないことだ。それは、学校側にポイントを使っても個人情報だったせいか、情報を得られなかったくらいに難関である。
当の本人に聞けばいい話だが、そこまで親しい仲だとは思っていないので、答えてくれるか不明だろう。
また陽は、ホモと恋羽にアリア関連について考えているのだと知られたくない。
紳士や親友としてではなく、陽自身の想いとして。
陽はこれでも見習い紳士であるが、アリア関連となればありのままの自分、堂々と居るのは恥ずかしさがあるのだ。
陽はコーヒーカップを置き、少しうつむく様子を二人に見せた。
「……陽、もしかしてさ、アリアさんの事で悩んでいるのか?」
ホモの一言に、驚きを隠せるはずがないだろう。
陽は確かにアリアについて悩んでいたし、優柔不断になりかけていた節がある。
気づけば陽は、体を前のめりにして、机から自身のペンを落としていた。
「な、なんでわかるんだよ!」
ホモからは、少し落ちつけ、といった視線が飛んできている。
自分の気持ちを落ちつけつつ、陽は落ちたペンを拾い、コーヒーを口に含んだ。
さっきまでは普通に呑めていたコーヒーも、今では苦みがあるように思えた。
陽が気持ちを落ちつかせていれば、ホモと恋羽は顔を見合せている。
「他の人は気付いていなくても、陽と一緒の俺らだからだよなー」
「ねー」
まるで打ち合わせをしていたかのような二人に、陽は肩を落とすしかなかった。
陽としては、二人に対してアリア、とは言葉を出していないが、反応した時点で確信を持たれただろう。
この場所が学校の生徒を居るのも踏まえれば、アリアというワードを出さないようにして話したいものだ。
ふと気づけば、恋羽はポケットに忍ばせていたのか、陽の目の前にカードのような物を出してきていた。
「……名刺?」
「そうそう。私が作った特製品の愛だよ! 陽には特別にあげる!」
恋羽から差し出された名刺を見れば、名前には柔らかな文字が使われ、その上には二つ名で『恋の暗躍者』と書かれている。
色々とツッコミどころ満載の柄ではあるが、恋の暗躍者、という言葉に陽の目を引かれていた。
陽が名刺を見ていれば「作りたいな」とホモが言ったので、二人は二人で盛り上がっているようだ。
(……二人になら、相談してもいい?)
正直、陽としてはアリアの件を一人で進めたかったのだが、今の自分ではもう一つ先に進めないと理解している。
陽は、ホモに対しての信用は誰よりも高く、恋羽も恋羽で頼れる仲ではあるのだから。
アリアへのプレゼントは自分で決めるとしても、意見くらいは聞いてもいいだろう。
陽は気持ちを整え、笑みを浮かべている恋羽と、好奇心が湧き出ているホモを真剣に見た。
「本題なんだけど。そのさ……プレゼントを渡してみたい相手が居るんだ」
「うっ、陽にもついに春が来たんだな」
わざとらしく顔に腕を当ててみせたホモに「違うから」と答えておいた。
「その、日頃お世話になっているし、少しくらいは贈り物をしたいな、って人が居るんだ」
「つまり陽はアリアさんのお世話にぃ……」
「ホモ?」
「ごめんって!」
軽く睨みつければ、ホモは慌てたように手を合わせて頭を下げてきた。
陽は確かに図星であるが、ホモがこれ以上追求しない事を願って、いつものように表情を和らげた。
陽は恋羽からもらった名刺を丁寧にカードケースにしまい、コーヒーで喉を潤しておく。
見てきている恋羽は何とも思っていないのか、楽しそうにピンク色のポニーテールを揺らしているので、ホモよりは安心感を覚えそうだ。
「ふむふむ、じゃあじゃあ、陽はその子にプレゼントをしたいけど決めるのを手伝ってほしい、って言いたいんだね!」
「そういうことだな。どこかのウインナー好きと違って、話しが早くて助かるよ」
「こっち見んな」
「自覚があるようで何より」
「ホモもホモで和ませてるんだから、貶しちゃ駄目だよ」
この空間に花を添えられる恋羽は、ある意味で大きな荷物を背負っているだろう。ましてや、男二人と一緒なのだから、陽としてはいらぬ噂が立っていないか心配だ。
恋羽も恋羽で、アリアには劣るが異端な美少女の分類なので、あらぬ疑いが立つのなら芽は潰しておきたいだろう。
ピンク色の瞳がぱちくりとウインクした時、陽の姿が鮮やかに反射して映っていた。
自称『恋の暗躍者』と書くだけあって、陽の気分は甘い海に放り込まれているようだ。
恋羽がココアの入ったマグカップを置けば、テーブルに重い音が鳴る。
「そもそも、相手の性別は? 好みは? それが分からないと、私も案の出しようがないよ?」
「恋羽、何でもいい……趣味が偏っても良いから、女の子の好きなものとか教えてくれないか?」
「さらっと失礼だねー。女の子にあげるのね。うーん……私は人形が好きだけど、自分で作っちゃうしー。愛だよね」
正直な話、陽とホモ、恋羽の組み合わせでプレゼントの答えを辿るのは困難に近い。
この三人は他と違い、自分の趣味での欲しいものや手に入れたい物は、ほとんど自作して作ってしまう集いなのだから。
陽に至っては、趣味が趣味なので、下手すればお金をかけないで完結してしまう場合だってある。
恋羽が悩んだように指を口許に当て、首を傾げていた。
交互に首を傾げるので、ポニーテールは左右に揺れ、恋羽の明るい性格を表しているように見せてくる。
「信頼度次第だけど、人形やハンドクリーム、お菓子や小物類も喜ばれると思うよ」
「なるほど……小物類か」
「小物、って言っても嫌がる人も中にはいるから、しれっと確認しちゃえばいいと思うよー」
「おっ、それならどこか抜けた紳士さんなら、さりげなく聞けるぜ」
「ホモ、冗談は行動だけにしてくれないか?」
「事実ですが何か?」
ホモが先程の仕返しと言わんばかりにでしゃばってくるので、陽はそっぽを向くように恋羽を見た。
恋羽は陽にアドバイスをする為か、手慣れたようにスマホを取り出し、何やら検索していた。
画面を操作する指先は、流石現役女子高生、と言える手さばきだ。
ふと気づけば、ホモがじろじろとこちらを見てきては、灰色のつなぎの腕の袖をまくっていた。
陽としては、ホモが本当に何をしたいのか分からないのもあり、苦笑いしておく。
「あったあった! もし案があれば私のお店でオーダーメイドをすればいいよ!」
「テスト明けまでには考えておくよ」
恋羽はそう言いながらも、陽のスマホにサイトのリンクを送ってきていた。
陽はスマホの通知に合わせ、指先でさっと画面を開く。
リンクのアドレス表記を見るに、恋羽は人形やぬいぐるみ等に使う手芸の材料が記載されているページを共有してくれたらしい。
恋羽も陽が理解しているとしてか、特にリンクについては触れようとしなかった。
また恋羽が言っていた通り、恋羽の家はお店もやっており、手芸やら工芸品を幅広く取り扱っている。
ホモと何度か訪れたことがあるが、言葉に出来ない程の品数の多さに目を奪われたほどだ。
陽がスマホをしまえば、恋羽は思い出したように萌え袖状態の腕でぺちぺちと肩を叩いてきた。
痛くないが、柔らかな風が当たるのは些か居心地が良いものではないだろう。
「そうそう……ここだけの話なんだけど」
恋羽が考慮してなのか小さな声で呟いたので、陽はそっと聞き耳を立てた。
「私、アリアさんの誕生日をいつなのか知ってるんだよね」
「……え? 本当?」
うんうん、とうなずく恋羽を見て、陽は心が揺らいだ。
表情には出さないようにしているが、アリアの情報となれば、喉から手を伸ばすほど今の陽にとっては重要だ。
恋羽がアリアについて知っているのかは半信半疑だが、この機会を逃せば次はないだろう。
陽としては、アリアの誕生日を一番知りたかったのもあるが、日付次第では目安になるからだ。
陽は少し曲げた指の角を額に当て、物思いに更けた顔をした。
そして、ポケットからカードケースを取り出し、恋羽の前に一枚のチケットをゆっくりと差し出す。
チケットを見た恋羽は、分かりやすい程に嬉しそうに口角を上げた。
「ふむ、よろしい。じゃあ、耳を貸して」
「恋羽、協力感謝する」
「……陽、恋羽……お前ら高校生なんだから、常識の範囲内にしとけよ?」
呆れているホモを横目に、陽は恋羽にアリアの誕生日を教えてもらった。
それから陽はホモに勉強を教えつつ、恋羽からプレゼントのアドバイスをもらうことにした。
(……実行、してみるか)
自分の伸ばす指先は、熱を帯びた灯のように過去を照らしていけるのだろうか。




