107 夏服という名の楽園に幼女吸血鬼を添えて
学校に着いてから、陽は教室で荷物の整理をしていた。
席に着いていれば、現在クラスの注目の的になっているアリアの方から声が聞こえてくる。
「アリアたん、衣替えしたんだね! 長袖なのにすべすべしてるー、愛だね!」
「恋羽さん、くすぐったいですよ」
アリアと恋羽の話を聞いてか「白色の制服いいな」や「天使様みたいで可愛い」と言った声が周囲の女子から上がっていた。
アリアは実際、体型は幼女であるが、美少女であるのに変わりはないので、女子たちすらも魅了してしまうのだろう。
無論、男の陽から見た思考なので、内側の黒い部分は理解できないが。
「ねえねえ、よかったらアクセサリーとか付けちゃおうよ?」
「だ、駄目ですよ? これは、陽くんとお揃いの……制服ですから……」
アリアが頬を赤めていったのもあり、クラスメイト……と言うよりもアリアに恋心を寄せているであろう男子諸君から、嫉妬と怒りにまみれたような視線が飛んできた。
アリアファンの集いからは「アリアさんに対して陽殿は抜け目なさすぎる」や「抜け駆けとは、やはり隠れファンか」などと、あらぬ疑いをかけられている。
陽は自分としての考えた行動だったが、流石に視線を集めてしまうのは仕方ないのだろうか。
「私も早く夏服にして、アリアたんとお揃いにしたいなぁー。愛だよね!」
「恋羽さんにも専用の制服があるのですか?」
呑気に話している二人は、今や今やと陽に向けられている視線は一切考慮していないのだろう。
と陽は思っていたのだが、アリアがニコリと視線を周囲に向けたおかげか、全員が分かりやすく視線を逸らしていた。
アリアは恐らく牽制としてのつもりでは無いと思われるが、男と言うのは理解しやすい生き物なのだ。恋を抱いている子に、悟られたくないのだから。
変に濁すくらいなら、潔く撃沈した方が楽になれるのではないだろうか。
どっちにしろ、アリアは知らぬ人を愛せないのだから。
ふと気づけば、ホモが隣の席で鼻の下を伸ばしているのが見えた。
ニヤついているその表情は、殴りたい以外の何物でもない。
アリアを変な……恋羽を見ているのは理解しているが、二人揃っている時に変な視線を向けないでいただきたいのだから。
「いやー、恋羽の制服か……想像するだけでも聖剣伝説だな」
「ホモ、本音漏れてるぞ」
「おっとこれは、失敬失敬」
ホモは平謝りしているが、顔が笑っているので謝る気は無いのだろう。
無論、ホモに謝罪を求めているわけではなく、本音を口から漏らさないでいただきたいだけだ。
ふと気づけば、ホモは椅子から立ち上がり、こちらに近づいてきていた。
「にしてもさ……陽は衣替えという名の男の楽園を軽々しく無下にできたもんだよな?」
「ホモ、どういう意味だ?」
「あちゃぁー、それも分かっておりませんでしたか」
「……いつまで突っ立っているつもりだ?」
「すんませんでした! あ、あれだよ、陽には分からんかもしれんが……白きワイシャツから透ける女子の姿ってのは、男のロマンなんだ。味わってみな……癖になるぜ?」
「おい」
睨みつければ「言わないから、な」とホモが念押ししてきたので、陽は見過ごすことにした。
「そうだ。今後の予定なんだけど……」
「陽さんや、それは会議室だけにしましょうぜ」
「……それもそうだな」
これに関してはホモの言う通りだ。
裏生徒会は本来、表向きでの行動は控えるつもりなので、公の場で話すことでもないだろう。
幸いにも、ホモと恋羽、陽とアリアは部活動に所属していないので、時間さえ合えば集まることが出来るのだから。
ポイント制度は小さく改変したのもあってか、学校に滞っているひりついた空気はあっても、勉強に力を入れる者も増えたのだ。ポイントの流れが変わったのが原因か、今の学校は教室や廊下問わず、にぎやかな声で溢れている。
「剣を携えた白馬の王子様が意味するのは、羽ばたくための携える翼か、落とすところまで落とす悪となるか」
「……ホモ?」
「お二人さん、何話してたの? 愛だね!」
ホモへの言葉を遮り、恋羽がアリアを引き連れてやってきていた。
恋羽は何処からともなく取りだしたヘアゴムを手首に付け、慣れた手つきでアリアのストレートヘアーをいじいじしているようだ。
「よっ、恋羽! そりゃあ、二人を卑猥な目で見てただけだよな? 陽」
「自分に振らないでもらえるか?」
「ふふ、陽くんはそんな人じゃありませんよ?」
「……陽、アリアさんの視線が妙に怖いんだけど……」
珍しく怯えた様子を見せたホモに、陽は苦笑いするしかなかった。
陽自身、アリアを卑猥な目で見ることは無いのだが……自宅でのアリアの服装は男らしい目で見ることは少なからずあるので、他人事では無いのだが。
だとしても、アリアに信用されていると思えば、自ずと手を出さない意志は更に固まると言うものだ。
ふと気づけば、恋羽はホモの話を無視しているのか、黙々とアリアの髪型を完成に仕上げているようだ。
暑そうだから涼しくしてあげる、と恋羽はアリアに言っていたので、その髪型に近づけているのだろう。
「はい、アリアたん、できたよ! ほら、鏡だよ」
「恋羽さん、ありがとうございます」
「おお、これはすげぇな……陽?」
(……え、このアリアさんの髪型……)
偶然か必然か、恋羽はアリアの髪を右にまとめる、ワンサイドヘアにして見せたのだ。
黒い髪だからこその違和感はあっても、アリアの吸血鬼の姿と何ら変わりが無いのだから。
強いて言えば、後ろから流す形になっているくらいで、髪のボリューム感はアリアに似合っており、妖精のような愛らしさを携えている。
吸血鬼の姿を思い描かせてしまう程の恋羽の手つきがいいのか。はたまた、アリアの容姿端麗かつ、どんな髪型でも違和感なく可愛く見えるのが原因だろうか。
二つが重なって今があるので、運命が交差……いたずらとでも言うべきだろう。
陽は耐え切れなくなり、気づけば目を背けていた。
「あれれ? もしかして陽は、アリアたんをエッチな目で見ちゃったのかな? 初心だねぇ」
「俺が言うのもなんだけどさ、陽は俺みたいなやつじゃないから、絶対にないだろ?」
「……陽くん、大丈夫?」
「ご、ごめん。……アリアさん、その髪型も似合ってるよ。うん、似合ってる」
「あはは、壊れたロボットみたいだな」
「陽、愛だね!」
夏服を準備したいな、と恋羽がぼやくように話を逸らしたので、陽はひっそりと胸を撫でた。
その時、ホモが囁くように顔を近付けてきた。
「なあ、なんでお前らはこれで付き合ってないんだよ。……アリアさんは不明だけど、お前、さっきから――ぐべぇぁあ!?」
「あ……ホモ、すまない。本当に、すまない」
陽は耐え切れなくなり、気づけばホモに腹パンをかましていた。
今回ばかりは流石に悪い気持ちはあるので、陽は手を合わせて謝るのだった。




