102 裏生徒会の会議は遠慮しない自由をもっとうに
「みな、揃ったな。これより、裏生徒会の会議を始める」
仕切ったのは、テーブルに両肘をつき、顔の高さで指を交じり合わせているホモだ。
なぜそのポーズをしているかは不明だが、長方形のテーブルかつ、面積の広い横、ましてや恋羽の隣に座っているので威厳も何も無いのだが。
「はいはい。ホモ、恋羽、これが今回の資料になるから」
陽は軽く流し、二人の前に資料という名の紙束を置いた。
テーブルに置いた瞬間、じんわりと鈍い音を立てたが、たかが二百枚以上の紙の束なので問題はないだろう。
現在、陽とアリア、ホモと恋羽の四人で学校の地下にある裏生徒会の教室におり、会議をするところだ。
ホモが変に仕切ったおかげで遅延が起きたので、後ほど請求をした方がいいのだろうか。
アリアはと言うと、生徒会室に簡易キッチンを設置したのもあり、四人分の紅茶を入れている。
紅茶を振舞う姿勢を忘れないのは、流石おせっかい焼きの吸血鬼、と言ったところだろう。
「はい! どうしてこんなにも紙が多いんだ!」
「それじゃあ、会議を始める」
「ホモー、無視されててきゃわいそぉ」
「こはねぇ、堅物の陽のおかげで傷ついたから、後でイチャ――」
「お二人さん、夜まで学校に居座ることが可能だけど?」
「すいませんでした」
「ホモ、今回は愛だねぇ……」
二人は危機感を覚えたのか、しぶしぶ会議を進めるのを承諾してくれた。
表情は嫌だと言っているが、紙束を四人分用意した陽にも原因があるので、とやかく言えたものでは無いのも事実だ。
陽は自分用にまとめた十枚程度の紙を見て、苦笑している二人に視線を送った。
「今回の会議の内容だけど、つまんで話すと……裏生徒会の役員割と目的の整理、ポイント制度の修正案、近づきつつある学校行事の提出案を決める、の五点を重点に置くこととする」
「陽、五点じゃなくないか?」
「そこはおいおい説明するし、知りたかったら資料の百ページ以降をすべて見てくれると助かるかな」
ホモが天に唾を吐きたそうな顔をしているが、陽は事実を言ったに過ぎない。
陽自身、裏生徒会の会長をしている以上、学校からのお達し……という名の元々は陽が一人で請け負っていたものを共有せざる得なくなったのだから。
ホモの横で恋羽が堕落した様子を見せていれば、目の前に音を鳴らしてティーカップが置かれていった。
アリアは紅茶の準備が終わったようで、微笑ましそうに振舞っている。
恋羽はアリアの紅茶を見るや、表情に光が戻っているので、まだまだ働いてくれるようだ。
アリアは更に準備を欠かしておらず、恋羽にはクッキー、ホモにはウインナーの盛り合わせを差し出した。
「アリアさん、手を焼いてくれてありがとう。おかげで円滑に進みそうだよ」
「これくらいは慣れたものよ」
陽に普段しているから、とアリアが言いたげな視線を飛ばしてきたので、軽くそっぽを向いておいた。
何はともあれ、二人もアリアのおかげでやる気を出してくれているので、無下になる前に会議を終わらせたいものだろう。
ホモと恋羽の集中力の無さは、陽が一番理解しているのだから。
アリアが二人の対面上に座るのを見てから、陽は紅茶を一口啜った。
「最初に役員割だけど、自分は会長で全てを回すとして、アリアさんには書記に回ってもらう事にしたんだけど、良いかな?」
「なるほど! つまり、この資料を用意したのは陽だけど、アリアたんが文字は……」
「これ、全部一人で陽くんが用意したのよね」
「陽、化け物すぎるだろ!?」
「……まあ、あれよりは楽だし……」
陽が顔を強張らせたのもあってか、ホモは納得したように頷いていた。
アリアと恋羽は分かっていなさそうだが、理解しない方が幸せというものだろう。
アリアの書記に反対の意見は無く、どちらかと言えば賛成の声だったので、決定で大丈夫だろう。無論、アリアには先日の内に確認済みなので、無理強いはしていない。
「それじゃああれか、俺や恋羽の役員ってことか!」
「ホモさん、こういう時は容量いいわよね?」
「アリアたん、サラッと辛らつだよねー。じゃあじゃあ、私は交渉関係に回るよ! 関係の幅は高いし、愛だよね!」
恋羽がちゃっかりと指を丸にしているので、経費を陽に任せる気だろう。
出来る限り、交渉にお金の力を使って欲しくないのだが、多少は目をつむった方が良いのだろうか。
「恋羽の判断が良いのは助かるよ。ホモだけど……」
「みなまでいうな! 雑用をすればいいんだろ?」
「よろしく頼むよ」
まあ、ホモには雑用という名の自由の羽をもたせているので、ここまでは前々からの根回し通りだろう。
雑用は聞き方次第で聞こえは悪いが、この裏生徒会にとってのホモの役割は重要なので、ホモにしか出来ない事でもある。
そもそもの話、裏生徒会の設立はホモなので、ホモ以外に頼む気は無いのだが。
「とまあ、次に裏生徒会の目的だけど……」
「恋羽さん、ホモさん?」
「そうだったな!」
「私が明記するね! 裏生徒会は、陰ながら学校を支えつつ、伸び伸びと過ごせる日常を作ることだよ! つまり、愛だね!」
恋羽の言葉のままにアリアがメモを取ってくれているので、後ほどの提出は滞りなくできそうだ。
目的に関しては二人から話されていたが、二人の主旨がまがっていないかの確認なので、問題は無いと考えていいだろう。
食べたり飲んだりしながらではあっても、ものの数分で会議の五分の一を終わらせることが出来るのは、各自の理解が早いおかげだ。
資料の束を配布したが、あくまで後に影響するだけなので、会議は殆ど口頭で済んでいると言っても過言ではない。
だからと言って配らないわけにもいかないので、許しは乞いたいだろう。
陽は二人が貪っているのを横目に、小さく微笑んだ。
「で、ポイント制度の話に映るわけだけど……」
「ああ、最近でも活発に魔法勝負はしてるよなー」
能天気なホモに、陽は思わず頭を抱えた。
「おまえが原因なんだよ」
「何でぃだよ!」
「この五月でポイントを独占している奴がいるおかげで、対策しないといけないんだからな?」
「……ホモさん、ポイント勝負はどれくらいしていますか?」
「え? テスト以外は連日聖剣を抜いていましたが?」
「あはは、愛だねぇ」
流石の恋羽も呆れたようで、ホモに苦笑いしている。
わざわざポイントの話を会議で出したのは、他の誰でもない、ホモに原因があるのだから。
確かにホモはポイントをよく使い、ポイントで学校への頼みなどでは目立っているだろう。逆に言えば、ホモにポイントが溜まりすぎているせいで、他の生徒が使いづらくなっているのだ。
もちろんだが、全てホモが悪いわけではない。
誰が悪とかと断定するよりも、ポイントの偏りを改善しないことには話にならないのだ。
陽自身、ポイントの流れを知っているのでグラフにしている……そのうちの九割がホモなので、他の生徒のポイントが多少なりとも使えない状態化である。
ホモに勝負を挑んでギャンブルしている生徒が多くいるので、正々堂々以前に、他の生徒がポイントを使えなくなるという負のスパイラルが完成しているのも事実だ。
実際、勝負をしない生徒がポイントを貯める方法は、テストの成績、学校判断の活躍、の主に二種類である。
だからこそ、ポイントの偏りを改善してほしい、と学校側からホモの居る裏生徒会に話がきてしまったのだ。
現状、陽としてはポイントの制度を改善したいが、急に変えたとなれば反感は逃れないので、慎重にならざる得ない状況である。
「ホモ、一応聞くけど……ポイントの使い道は?」
ホモは悩んだ後、指を折るように天井を見上げた。
「食堂にウインナーメニューの追加だろ。ウインナーの銅像建築はポイント九割出して却下されて返還無しだろ?」
「何気に酷くない?」
「……ホモ、お灸据えてやろうか?」
「だから、なんでよ!」
「いやいや、学校の風紀を乱そうとするなよ? これでも、裏生徒会は礼節ある模範になった方が良いだろ?」
学校側はあくまで、限度あるポイントでの頼みを受け付けている。
ウインナー銅像が立っている学校、という面では話題になりそうだが、一部から卑猥な目を向けられるのは待ったなしだ。
と言うよりも、未来ある行動を心がけてほしいものだろう。
「まあ、ホモの使用用途もあるけど……ポイントにある程度の限度を持たせて、ポイントの流れをよくしよう、っていうのが今回一つの議題なんだ」
「それじゃあ、裏生徒会の設備整理は?」
「アリアさんが頼んでたから自分が出しておいたけど?」
「うわぁ」
「なんで恋羽が引くんだよ!」
実際、アリアが裏生徒会の教室にポイントを回してくれたので、陽が自腹を切っただけに過ぎない。
結果として、テーブルにキッチン、新しい椅子、エレベータでのアクセスをしやすくできたので、文句はないだろう。
「陽くんには驚かされてばかりだけど、ありがたいのも事実なのよね」
「流石、学生泣かせの財力を持つ陽。……アリアたんが珍しく陽を褒めてる?」
「珍しくは無いと思うわよ?」
疑問気な恋羽を横目に、ホモがこちらを見てきていた。
「なあ、陽ぅ。裏生徒会の教室にステージと防音付きの個室を――」
「駄目に決まってるだろ」
「うっそだろ!? ステージや個室を作ることの利点はな、ここで恋羽に【自主規制】したり、こっそりと【自主規制】出来る事なんだよ!」
「……ホモ、私をエッチな目で見すぎだよ、もう! そういうのは……」
なぜか二人の空間を作り出し始めたホモと恋羽に、陽はため息をこぼした。
卑猥な会話はよそでやってほしいのだが、この二人には言っても無駄だろう。
実際、陽の家で真っ裸になっていた二人なので、余計に説得力が生まれてしまう。
ホモと恋羽に関しては、法律のグレーゾーンを叩いているので、法律に触れていないのは褒めるに値するのだが。
陽が呆れていれば、アリアは席を立ち、こちらに近づいてきていた。
近づく振る舞いでさえ落ちついていて、凛としつつも深紅の瞳をうるりとさせ、柔らかな白い頬を揺らすアリアを、二人も見習ってほしいものだろう。
「ねえ、陽くん、御二方は何を話しているの?」
「大人の話。まあ、アリアさんは知らなくても問題は無いよ」
「私だけ……仲間、外れなのかしら?」
「……白い花は、美しき姿のまま、自分と歩んでいけばわかると思うよ」
二人の話は、陽は人間の生殖方法を知っているので理解しているが、アリアには純粋でいて欲しいものだろう。
アリアは納得したのか、笑みを浮かべてうなずいているので、陽は何故か罪悪感に押しつぶされそうだ。
実際、アリアと夜に寝る際は二人の話に共通するものがあるので、アリアに気負いしてほしくないだけなのだが。知らない方が幸せ、という言葉が存在するくらいなのだから。
変に意識して距離が離れるのなら、このままを陽は望んでいる。
陽は笑みをこぼし、残っていた紅茶を飲み干した。
「アリアさん、紅茶のお代わりはある?」
「ふふ、すぐに準備できるわよ」
「それじゃあ、ジャスミンのアールグレイをおねがいしても……いや、一緒に入れようか」
「長くなりそうね」
「半分は決まったから、今宵と踊らなきゃありがたいけどね」
ポイントの話を確立する前に、陽は椅子から立ち上がり、いちゃつき始めたホモと恋羽を横目に、アリアと紅茶を入れることにした。
この騒がしい会議は、もう少し続くようだ。




