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幼女吸血鬼と取り戻せない程の恋をした  作者: 菜乃音
第一章 幼女吸血鬼の紳士として

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10 お人好し故の自分らしさは空間となる

 アリアと一緒に住むことが決まってから、多少の条件は決まった。


 一・アリアがご飯は作る。ただし、買い出し等は主に陽がやること。

 二・掃除はお互いの手が届く範囲にしつつ、無理はしないこと。

 三・お互いに遠慮は出来る限りしない。


 その他もろもろあるが、代表例で挙げればこのくらいだ。

 陽としては『遠慮は出来る限りしない』に目的がある。それは、遠慮をしない事によって、お互いに住みやすい環境を作り、いざこざを生みださないためだ。


 種族が違うのを含めて、お互いの意見がぶつかるのは目に見えているので、それなら最初から自由を狙った方が良いだろう。

 陽としては、意見をぶつかるのは避けたいが、アリアの好みや行動を理解できていない以上、仕方のないことだと割り切っている。



 アリアとの同居生活が始まったのは良かったが、陽は一つだけ見落としていたことがあった。

 それは昨日の放課後、陽がアリアに日傘を差してエスコートしたことだ。

 今まで話すそぶりも、近づくそぶりも見せなかったため、次の日には学校中で噂になっていたのだから。


 クラスは愚か、他クラスや先輩方の中でアリアに恋心を抱いていた人たちから、絶え間なく質問攻めにあった程だ。


 陽自身、どこか抜けている、という言葉が深く刺さる出来事だったのもあり、半日も過ぎていないのに疲弊してしまっている。


 だとしても風の噂で、アリアには女子からの質問があっただけと聞いたので、陽は安心している方だ。


 自分が蒔いた種でアリアに迷惑が掛かるのは、ごめんこうむりたかったのだから。


 そんな忙しい学校の朝を終えた陽は、落ちついた昼休みにホモと一緒にお昼ご飯を食べていた。

 陽としては、ホモが居なければここまで早く噂が収束しなかったので、感謝しきりである。


「ホモ、こんなことの為に今まで蓄えてたポイントを使ってもらってすまない」

「気にすんな! 陽の為なら、良いってことよ! それに、あのポイントくらい勝手に溜まるしなー」


 陽の通っている学校は、他の学校とは違う点があるのだ。

 成績や態度が良ければ問題が無いのは、他の学校との共通点と言えるだろう。

 しかしこの学校はそれだけにとどまらず、ポイント勝負、という特別制度がある。

 正式名称が無いため、陽とホモは『魔法勝負』と呼んでいる。


 魔法勝負に参加するかは各自自由になっており、ポイントの奪い合いが絶えない勝負なのだ。

 勝負方式も、対戦相手との話し合い次第なので、学校側はもはや生徒の自主性を尊重しているに近い。そのおかげか、今では血気盛んな男子生徒の大半が参加しており、放課後に連日よく魔法勝負が行われている。


 ポイントの数次第では、学校側への願い、勝者から敗者への願い、悪い成績の隠ぺいなど、学校内なら様々なことが出来る万能なポイント制度だ。ちなみに、悪用は無論厳禁である。

 それもあり、陽とホモは嫌味も込めて、魔法勝負と呼ぶようにしている。


 ポイントが多く溜まっていたホモのおかげで、陽はこうして平穏が訪れ、アリアへの危害も必要最低限に抑えられたのだ。

 ちなみに以前、ホモが『アリアさんのフルネームを叫びながら落ちていく人がいる』と言っていたのは、ホモが狙い撃ちされているのが原因だからだ。


「てか陽さ、いいことでもあったのか?」


 ホモは食堂から買ってきたウインナー盛り合わせ定食を食べながら、おにぎりを食べている陽を見てきていた。

 他人思いのホモに、陽は優しい笑みを返しておく。また、ホモにアリアとの関係を深掘りされないのは、彼なりの考慮なのだろう。


 ホモにされた質問に対して、陽は思わず食べる手を止め、悩んだ様子を見せるしかなかった。


 良い事。それは、陽からすれば事態の収束が早かったことだが、ホモが尋ねているのは違うことだと理解できたからだ。


「……まあ、多少は」


 答えづらそうな陽の問いに、ホモは「ふーん」と鼻を鳴らしていた。

 ウインナーを頬張りながら鼻を鳴らすので、心の内を見透かされていそうなのが怖いところだ。


 この学校、というよりもホモに隙でも見せれば、彼は迷いなく攻めてくるだろう。

 陽がめんどうくさそうに苦笑いしたところで、ホモは知らん顔をしており、今にでもうずうずした様子でいる。


 陽がわざとらしく息を吐き出せば、ホモは思い出したように口を開いた。


「深くは聞かないけどさ。それが、過去から出られるキッカケになればいいな」


 陽は瞬時に肩をピクリと動かし、ホモを睨みつけた。

 本気で睨みつけている、というよりも、牽制程度の睨みに過ぎない。

 陽としては、過去について触れられることは、親友のホモであっても遠慮願っている。

 過去という過ちが今の自分を作ってしまうように、陽は鳥籠から出られないでいるのだから。


 ホモもさすがに陽の様子を察したのか、慌てて手を横に振り、持っていた箸をお皿の上に置くほどだ。


「は、陽! す、すまない!」

「別に、気にしていないから安心してくれ」

「いやいや、目が笑ってないんだよ」


 ホモの言っている通り、陽は目が笑っているはずもなく闇に侵食されている。

 とはいえ、陽も本気ではないので、さっと柔らかな表情を向けてみせた。


 ホモは安心したのか、そっと息を吐き出している。だが、先ほどの行為を怒りに触れたと思ったのか、申し訳なさそうにウインナーを一つ、陽のお弁当に分けてきている。


「でもまあ、どこか抜けた紳士さんも、正々堂々とした振る舞いをすれば立派に見えるんじゃないか?」


 ウインナーを口に放り込みながら言ってくるホモに、陽は苦笑した。

 どこか抜けた紳士というのは、自分に対して全員が抱く印象なのだろうか。


 陽自身、別に紳士の振る舞いをしているわけではなく、ただ人に優しくしている。本当にそれだけで、他意や、恩着せがましい気持ちは一切ない。

 どちらかと言えば、仲間のピンチにポイントを簡単に使えるホモの方が、陽としては紳士なのではないかと思っている。


 ただし、ある一点を除いて。


「正々堂々と称した卑怯者に言われたくないからな?」

「陽さん、卑怯者とは心外な。勝ちに貪欲、抜け目がないだけ、と言ってほしいもんだ」

「それを全て総称すると、結果だけが全て、になるが?」


 ホモは当然のように首を縦に振るので、それでいいのだろう。

 陽としては、猪突猛進、玉石(ぎょくせき)混淆(こんこう)、といった言葉をホモに贈呈したいくらいだ。


 それでも、ホモが魔法勝負で勝ち残っているのは、ホモの正々堂々であり抜け目ない結果なので、陽は全否定する気はない。ただ、やり方をもう少しスマートにしてほしいだけだ。


 こちらが呆れた様子を見せたところで、知らん顔をしてやり過ごせるホモが羨ましい、と陽は内心で微かに思った。


 良い友人関係でありながら、相談相手だからこそ、陽だってこうして、ホモとは長く付き合えているのだ。優しさや貸し借り、複雑な思いが交差しない、気楽な関係だから。


 陽がおにぎりを口に頬張った時、ホモがじっと見てきていた。


「なあなあ、ところでさ? アリアさんとはどうゆう関係なんだ?」


 陽は思わず咳き込みそうになった。

 ホモから聞かれるとは思っていなかったため、完全に油断していたのだから。


「……別に、どうって関係でも無いよ」

「なら、わざわざ日傘を持参して、アリアさんに差さないだろ普通?」

「……え? 男性が女性を理由なく守るのは、間違いなのか?」

「ああ、陽に聞いた俺が馬鹿だったよ」


 陽としては、ただ単に彼女の正体が吸血鬼なのと、白い肌を秋の日差しとはいえ守ろうとした、本当にそれだけの理由だ。

 他意や下心は一切なく、無償の優しさをアリアに振舞っているだけで、見返りを求めていなかったのだから。


 見返りを求めていなかった結果が、アリアと一つ屋根の下、一緒に過ごすことになっただけで。

 ふと気づけば、ホモは窓に目をやり、わざとらしく空を見上げている。


「ほんとうに、陽はお人好しで」


 何を言いたい、と陽が聞けば、別に、とホモに言われて茶化されるのだった。

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