75.いらっしゃいませ!わちきが案内して、見送りもさせて頂きますね!
初めての給料日から1ヵ月後。
村のスーパーマーケットでラムネは2度目の給料明細書を受け取っていた。
「はい、ラムネちゃん。今回はボーナス多めで、前とは比較にならない金額だよー。ざっと見積もって20倍くらいかな」
「ありがとうございます……。でも、なぜか素直に喜べない自分がいます」
「この1ヵ月間が大変過ぎたからねー。他店の研修では鉄砲玉にされた挙句、領地争いの組織間戦争が勃発したんでしょ」
「最初から最後まで説明が無いまま巻き込まれたので、何度も挫けそうになりました。しかも周りは恐い顔の人しか居ませんでしたよ」
よほど苦い思い出として残ってしまっているらしく、ラムネは苦虫を噛み潰した表情を浮かべていた。
苦労を経験すれば先の苦難も耐えられるようになるとは言え、あまりにも荷が重かったらしい。
比べてセブンスは重く捉えておらず、当時の仕事予定について深掘りした。
「その後の1日店長はリビィちゃんと一緒に地獄を奔走した後、なぜかテレビの現地リポートと通販番組の商品紹介を頼まれる。で、ユリユリ合衆国の訪問販売では……」
「こみっくまーけっとの催しがあって、わちきの美術作品が売りに出されました」
「すごかったねー。何でも最後はオークションになって大統領が落札。そのまま大統領の誕生日パーティーに招かれたんでしょ。テロリスト集団に襲撃されて、パーティーどころじゃなくなっていたみたいだけどさ。そんな状況でも諦めず、愛馬に跨って大統領を救出する姿はカッコ良かったよ」
「あはは………」
「ありゃ?偉大な活躍をした割に、あまり嬉しそうじゃないね?」
「わちきのことをヒーローだと持て囃して、色んな人に引っ張りだこにされましたからね。そして、ものの見事に全ての場所で恥をかきました」
またもやラムネは苦々しい思い出に顔をしかめる。
ただ彼女が苦しそうに語るのは仕方ないことであって、セブンスですら少し気まずそうな様子で喋った。
「遺憾なく才能が発揮されてたね。ラムネちゃんがパーティー会場を破壊するか、必ず事件が起きるかの2択だったもん。連日新しいニュースなのは、さすがの私でもぶっ飛ぶよ」
「おかげさまで途中から連絡がぷっつりと途絶えた方が多いです。まぁ……うん、わちきの身の丈に合った友達がいれば何も文句は無いですよ」
「人見知りは相変わらずだしね」
「それはゆっくり直していきます。最近はお姉ちゃんの真似をして、少しでも慣れるよう練習している最中です。ところで……、わちきが村から離れている間に色々と物が増えてました」
「なんか変わり者の農民が来たらしいよ。それで巨大惑星が衝突しかけたり、空飛ぶ巨城が村に留まったり、巨大怪獣が出現したり……。私的には、そんな事もあるよねーって感じかな」
「そう言われると、わちきが世界で経験したことも似たような大事ばかりです」
「おっ、少しは動じない度胸が身に付いたのかな?さてさて、開店準備を済ませたら仕事だよ。この1ヵ月で培った実力をみんなに見せつけてね」
セブンス店長に促され、ラムネは気持ちを切り替えて元気よく頷く。
今日はリビィ達も店内業務だ。
そのためラムネはいつも以上に勇気を持ち、誰よりも早く接客する心構えでいた。
すると僅か数分後に、赤ん坊を抱えた女の子が来店してきた。
更に後ろには3人の女の子が居て、こちら従業員側と同じく仲良しの女子グループらしい。
また、異常な元気と賑やかさも同等だった。
「アカネママ!あれは何ですか~!?あと、あれも何ですか~!?ミャーペリコ、初めて見るものばかりですよ!」
「おぉー。あれは剥製だねー」
「凄い迫力です!」
呑気に話す小さな女の子とは対照的に、元気があふれている女性は頭のアホ毛を触手みたく飛び跳ねさせている。
一方で赤ん坊を抱えている女の子は、眼鏡をかけた妖精の女の子にグイグイ迫られていた。
「ちなみに、この私アズミがアカネちゃんのライブDVDを作っています!これ凄い事じゃないですか?凄いですよね!」
「はいはい、凄いよ。アズミの涙ぐましい努力に私ルリは感動しました」
来店してきたお客さんたちは、自由に商品を見て楽しそうに話している。
その慌ただしい雰囲気にラムネは親近感を覚えつつも、焦った表情で一直線に駆けて行った。
緊張を一番に紛らわしてくれるのは、やはり勢いだ。
「いらっしゃいませ!商品をお探しですか!?それなら店員であるわちき……じゃなくて、あたしに任せて下さい!全力で対応させて頂きます!初々しさが売りです!是非ともご贔屓を!」
ラムネは思いついた言葉を手当たり次第に発する。
まだ荒っぽいが、聞き取れる言葉を口にしているだけでも進歩だ。
また、それとなく形にはなっている。
ただ肝心の女性客は少し怪訝そうな表情を浮かべており、視線もラムネの後ろへ向けていた。
このときラムネは気が付いてないが、実はセブンス店長たち4人は離れた後方から彼女の接客を見守っているところだ。
合わせて小さな声援まで送る。
「頑張れ、ラムネちゃん」
「ラムネお姉ちゃんなら人間が相手でも話せるんだ」
「ラムネさん、努力は裏切りませんのよ」
「ラムネ様なら成し遂げられると私は知っています」
ラムネは焦っているせいで、仲間からの温かい声援は耳に届いてない。
それでも彼女の心は勇気で満ちており、赤ん坊を抱えた女性客との接客を拙くとも進める。
「それでね、私たち赤ちゃんの生活用品が欲しいんだけど」
「分かりました!それなら、わちき……わたち?あれ、えっと……とにかく付いて来て下さい!あります!その、赤ちゃんが商品になってます!」
「うん。とりあえず落ち着いてね?だいぶ凄いことを言ってるから」
「あと赤ちゃんのオモチャもありますよ!ぶるんぶるんのぐるんぐるんのオモチャもあります!それと、ばぶばぶでオホホってなる、わちきが今でも好きなオモチャがあって……あるんです!」
「ありがとうね。それじゃあ、あとでオモチャも見てみようかな~」
「ありがとうございます!…ひぐっ……ロゼラムお姉ちゃん。わちきやったよ………。初めての接客、できたよ。うぅ~……!」
普通に考えて、このタイミングで成し遂げたつもりになるのはまだ早い。
しかも相手が親切心で話を合わせてくれたようなものだ。
それでも鬼娘は本気でうれし涙を流しており、セブンス達も心からの拍手を送っていた。
事情を知らない人からすれば摩訶不思議な雰囲気だが、今ここに大きな偉業が成されたのは事実だろう。
小さくて大きな一歩。
そうして来店してきた女性客グループが買い物を終えた後、ラムネは盛大に見送るため急いでスーパーマーケットを出た。
「さぁ行きます!今日は、わちきにとって本当の記念日!金剛鬼神酒呑大星銀として、アオとして、レモネードとして、妹であり姉として、そして従業員のラムネとして祝します!鬼神ドンドンパンチで、わちき頑張ります!」
ラムネが全力で拳を空へ打ち出した直後、盛大にして強大な鬼火が天を突き抜ける。
これは祝砲であり、彼女の成長の証だ。
その鬼火をセブンス店長、リビィ、フーラン、ハイピス、更にロゼラムといった遠くに居る者たちの目にまで映っていた。
そして世界の次元に亀裂が入り、その割れ目から桃色髪の幼い鬼娘が無防備な姿で落下してくるのだった。
『村の異世界スーパーマーケットへいらっしゃいませ~新人の鬼娘が入りました~』......了。
※後書き
お疲れ様でした。
次回作は某ちゃんの3姉妹が主要メンバーの一員となる「最強に転生した私だけど、最弱道場の3姉妹師匠が可愛すぎたので弟子入りしました」を1ヵ月後くらいに予定してます。
時間軸はあまり変わりませんが、新作の方に今作の主要メンバーたちを出す予定は無いです。
また新作を書かず、過去作の更新を優先するかもしれません。
とりあえず今作の文章を見直しつつ、執筆意欲を溜めておきます。
最後に今作の設定公開については、他の人でも分かるように修正すると文章量が膨大だと作業中に気が付いたので半分諦めています。




