74.お姉ちゃんと悪魔ネコ襲来!そしてセブンス店長からの出張命令です
ラムネはトイレで用事を済ませ、浮かれた足取りで部屋へ戻ろうした。
だが某ちゃんに続き、今度は別の人物と通路で出会ってしまう。
それは若い見た目であり、筋肉質の男性だ。
「YO!俺っちは覚えているぜ!君は朝方、交差点のド真ん中で途方に暮れていた女の子だろ?ここで再会するなんて、まるで運命的だぜYeah!」
「あの、すみません。誰でしたっけ?」
「Oh、これってマジよりのマジって感じだZE。まさか超絶イケメンの神様、ポセイドンを忘れるなんてな。もっと自分磨きに力を入れてやるYO!」
独特な喋り方で強い印象を受けそうだが、それでもラムネは思い出すことができなかった。
それくらい記憶の片隅にも残ってない相手なので、反応に困り果ててしまう。
そんなとき、相手の後ろから別の女性が責める口調で話しかけてきた。
「ねぇ、あたしの妹に何か用かな?」
その声は勇ましく、頼りになる安心感が伴っていた。
特にラムネにとっては何者よりも記憶に根付いている人物で、驚愕した顔で名前を叫んだ。
「ロゼラムお姉ちゃん!!?」
「いやっほ~、アオ。思っていたより早すぎる再会の再来だね。それで、あたしの妹に手を出そうとしている不埒な自称神様はどうしてやろうかな」
ラムネと同じ銀髪の鬼娘ロゼラムは、鬼族特有の闘気を発しながら男性を見つめる。
まだ睨みつけるほど敵意は持って無いみたいだが、相手の態度次第では実力行使も厭わないだろう。
そのことを男性は察しているのに、まさに恐いもの知らずの振る舞いを見せた。
「おっと~?これは美人姉妹ってやつだYO。両手に花ってのは、夢があるシチュエーションだZE」
「ふぅん、良い度胸をしているね。ちなみに前門の虎、後門の狼って言葉を知ってる?今の君の状況を正しく言い表すなら『鬼を一車に載す』だけどね」
「それは非常に危険ってことかYO?そこまで言うなら仕方ないZE。今回は大人しく引き下がってやるYO」
「賢明でよろしい。とは言え、こっちも威圧してごめんね」
「声をかけたのはこっちだから気にする必要は無いZE。それとお嬢さん、礼節を弁えている女はモテるってのが相場で決まっているZE」
「はいはい、あたしを口説こうとするのはやめてね。さぁアオ、お姉ちゃんの所に来なさい」
ロゼラムに手招きされたラムネは男性の横を素通りし、そのまま姉の腕に抱き付いた。
一目で分かるほど仲良し姉妹で、そこには大きく温かな愛情があることを男性は知る。
同時に男性は個人的に思い出すことがあって、頭を掻きながら口元を緩めた。
「ははっ……、羨ましいくらい仲が良いな。たまには俺も、真面目に店番をしてくれている妹を労ってやらないといけないかもな。それじゃあな、麗しき乙女たち。Yeah!」
「最後の決め台詞、無駄に大声でちょっとダサイなぁ」
「へっ、結局は辛辣な態度のままだったZE」
締まらない言葉を最後に男性は2人から去り、カラオケ店を出て行った。
そして一難を退けた後、ラムネ甘える仕草でロゼラムに喋りかけた。
「えっへへ~。まさかお姉ちゃんに会えるなんて、今日は本当に最高の日です」
「あたしもアオに会えて嬉しいよ。それにしてもオシャレしているね。いつも世界で一番可愛いけど、今日は格別に可愛くて良いね。だから記念に写真撮るね」
「はい、どうぞ!」
ラムネは何も違和感など覚えず、ひたすら呑気に姉の要求を受け入れてポーズをとる。
それで数枚ほど写真を撮り終えてから、ロゼラムに向けて質問を投げかけた。
「ところでお姉ちゃんも、お歌屋さんで遊んでいたの?」
「旅仲間のネコと一緒にね」
「ネコ……猫さん?毛むくじゃらの猫さん」
「そっちじゃなくて、悪魔ネコと呼ばれている方だよ。ほら、セブンスさんの使い魔でもある女の子。一緒に罰ゲーム大会みたいな闇鍋したでしょ」
ロゼラムは少し具体的に説明してくれるが、それでもラムネは鮮明に思い出すことはできなかった。
しかし心当たりはあって、それとなく頷いた。
「あぁ、そういえば猫にそっくりな女の子が居ました。もうあの時は眠かったので、わちきの記憶は曖昧だけど……」
「とにかくお姉ちゃんは、その子と一緒に世界を漫遊している最中なの。それでカラオケに来て……。そういえば、久々にアオの歌を聴きたいなぁ」
「わちきもロゼラムお姉ちゃんのお歌を聴きたい!だから同じ部屋で歌おう!ネコさんも一緒に来て、大勢で楽しくワイワイしたい!」
「まさかアオの口から、大勢で楽しみたいって言葉が出る日が来るなんてね……。お姉ちゃんは感激して、涙で顔が濡れるよ。もうビッショビッショ……なんて言っている場合じゃないね。せっかくの時間がもったいない!善は急げ!」
「はい!急いで善です!」
「その通り!そして、そういう変わらない所もあってお姉ちゃんは安心したかな!」
それからラムネは姉のロゼラムが悪魔ネコを連れて来るのを待ってから、自分たちの個室へ案内して再三入室する。
合わせてロゼラムは全員へ向けて笑顔満点の身振り手振りしながら、大きな挨拶を発した。
「どうもアオ……ラムネのお姉ちゃんのロゼラムで~す!皆さん、ご無沙汰しております~!」
ロゼラムの登場にリビィ達はかなり驚く。
これで部屋に居るのは計8人となるから、ちょっとした大人数に膨れ上がった。
しかし、単純に人数が増えた事よりも各々の強すぎる個性が化学反応を引き起こし、部屋の状況は混沌と化す。
まさに何でもありの空間で自由気ままに騒ぐ彼女らの行動は、全てが情報過多だ。
誰よりも積極的で活発なソラは、出会い頭に悪魔ネコを追い回して組み伏せてしまう。
それから猫じゃらしで遊びながら歌うなど、やりたい放題だ。
「ネコちゃんかわいいね~!実はソラ様は、歌うネコが大好き!だから歌おう!ちなみにイヌも好き!ついでに動物が好き!むしろ生き物の全てを愛している!」
「急に規模が大きくなっているにゃ!」
「今、にゃって言った!?わぁお!もしかしてでもしかすると、このソラ様と特長が被っている!?でも、同志だと思うと悪く無いね!にゃっはっはっは~!」
ネコは、セブンス店長を上回る自由奔放な性格のソラに翻弄される。
一方、ロゼラムはラムネの行動1つ1つを記念と称して撮影していた。
「ふんふん。また1つ妹の成長記録が増えたね。お姉ちゃんは満足だよ。……おっと、某ちゃんだっけ。気分は大丈夫?水でも飲む?」
「あっあっ、ありがとう……ございます。その、さっき全力で歌わされて喉が……」
「それなら喉薬も必要だね。ちょうど持っているから、すぐ服用できるようにしてあげるね」
「あぅ、ありがとうございます。ロゼラム氏は凄いなぁ……。某のお姉ちゃんよりお姉ちゃんだし、面倒見の良さが親みたい……」
ロゼラムは某ちゃんに対して頼りになるお姉ちゃんの振る舞いで接して、彼女の緊張を和らげくれていた。
その介護に某ちゃんは救われ、少しずつリラックスできるようになっているようだ。
比べてリビィは放心状態であって、早くも余韻に浸るように恍惚とした表情だ。
「とても気分が良い夢心地なんだ……。ここまでミファ様のライブを堪能したリビィは幸せ者なんだ」
「リビィさん、まだわちきと一緒に歌っていませんよ!さぁ歌いましょう!」
「分かったんだ。だけど、リビィとラムネお姉ちゃんの曲選択は真逆の方向性なんだ。バンドなら即解散するレベルのズレがあるんだ」
「大丈夫です。この世界に来てから、わちきは何事も挑戦するべきだと学びました。なので、目についた曲に挑戦します!これです!『淫らな爛れ夜』!」
「えっ!?リビィも知らない曲だけど、それは絶対に歌わせたらダメだと分かるんだ!!って、うわぁあああぁあ既に流れ始めてるぅうううぅうううぅう!!?しかも初手が喘ぎ声なんだあああぁあああぁああ!!?せめてヒーロー曲にして欲しかったんだああぁ!」
初めての出来事と言っていいほど、リビィはラムネの勢いに大きく振り回される。
そんな騒ぎが大きくなる傍ら、ハイピスとフーランは妙な競い合いを始めていた。
「どうですか、フーラン先輩。こんな事もあろうかと私はタンバリンの達人になっておきました」
「タンバリンの演奏技術ならワタクシも負けませんのよ。なぜなら我が師であるカルラさんに叩き込まれましたもの」
「甘いですね。私は自らの意思でお米大好き女神に師事を仰ぎ、猛特訓を受けました。要するに学ぶ姿勢のモチベーションが違いますよ」
「なぜそこで熱意を発揮しましたの」
「タンバリン演奏が上手な女神は魅力的だと小耳に挟みましたので」
「多分、その魅力とやらは面白いという意味合いですのよ。とにもかくにも、言葉を重ねるより実力で示してあげますの」
すぐに2人はタンバリンを打ち鳴らし合う。
実際、2人の演奏技術は誇張では無く、プロのタンバリン奏者として名乗れるほど巧みだ。
こうした彼女らの交流は話相手が変わっても続き、終わりなき宴となった。
果てしない賑わいが続く中、ラムネは無意識に周りを見て溜め息を吐いた。
「ふぅ………」
彼女の些細な変化を気にかけるのは、ずっと余裕を保っているロゼラムだ。
「どうしたのアオ?疲れた?」
「ううん。ただ、楽しいなって」
「あぁ……そういうことね。もう感慨に耽っているわけだ」
「それもあるけど、みんなでワイワイするのが一番わちきの幸せだと思ったの。それに今日は給料の使い方を模索するためにお出かけして、次の休みも今日みたいに遊びたいと思えた」
「遊ぶためにお金を使うのは良いんじゃない?思えば、アオって大勢で遊んだ経験が少ないわけだからね。それなら、とても良いお金の使い道だよ。頑張る活力になるし、仲間との絆も深まる」
「新しい友達もできました。そして新しい経験もできて、新しい事もいっぱい知れました。……それと、お姉ちゃん!美術館でお母さんの絵を見かけましたよ!」
そこからラムネの話題は広がり、今日体験した全てを詳細に語り始めた。
その語る一言一言から彼女の想いは伝わってくるもので、ロゼラムは心から嬉しく思いながら相槌を打った。
やがて深夜の時間帯が近づき、ラムネと某ちゃんの2人は眠気に襲われたように物静かとなりつつあった。
また全員揃って明日は仕事があるので、そろそろ解散しなければならない。
だから自然と帰宅準備が進むとき、個室の扉が力任せに押し開けられた。
「ちょっと店長権限でお邪魔するよ~!」
「あぇ、セブンスさん!?」
突撃してきたのは小さな身なりの女の子、というよりセブンス店長だ。
完全に予想外の登場でラムネの眠気が一気に吹き飛ぶ。
だが、本当の意味で眠気が吹き飛ぶのは十数秒後のことだ。
彼女は早足でラムネに接近し、堂々と前に立つ。
あまりの事態に目を丸くするラムネを見据えた後、セブンスは爆弾発言した。
「ラムネちゃん。今日の親族会議で、1週間の他店研修が決まったから。その後は地獄にある支店で1日店長を担って、次にユリユリ合衆国で訪問営業になるよ」
「はぇ~?」
ラムネは、いつもみたく「よく分からない」と言いた気な様子だ。
しかし、その言葉を発せないほど混乱し、かつてない危機が迫っている事のみ鬼娘は理解していた。




