69.ショッピングを無事に終えても騒動は絶えません
昼食のあとは憩いの広場で一息つき、それからリビィは1人別行動で握手会ライブへ向かった。
その一方でラムネ、フーラン、ハイピスの3人グループは百貨店を歩き回り、自由気ままなショッピングを楽しむ。
イヤリングや髪飾り、ブレスレットに特殊な手芸品など幅広く取り扱っているアクセサリー店。
華やかな香りから癖になる奇天烈な匂い、更に強力な効能を与えるアロマまで用意された香水専門店。
容姿を着飾る化粧品から、マジックアイテム商品を取り揃えている化粧品専門店。
そして服屋は数店舗かけて巡り、流行や知っておきたい服装のオシャレポイントなど店員から聞いたりした。
これらの時間は、仲良し組で楽しんでいる事もあって心躍る買い物になるはずだ。
しかしラムネが抱えている心の問題により、残念ながら恐怖心が勝っていた。
「うぅ~……!どこへ行っても店員さんがグイグイ来ますよ~!あの親切な笑顔が逆に恐くないですか!?陽気な喋り方をされると圧を感じちゃいます!」
発揮される最強の人見知りパワー。
決してコミュニケーションが苦手というわけでは無いのに、必要以上に臆する癖は健在だ。
しかも、それだけで済まされなかったからフーランは少し困っていた。
「まさか何度も店外へ逃げ出すとは思いませんでしたのよ。時には赤面してハイピスさんの背中に隠れたり、店員に見つからないよう屈んで棚に身を隠すなんて……。挙動不審が過ぎますの」
「結果的に悪目立ちしてしまい、私達の方まで店員様から不審者を見る目つきを向けられていましたね。あと万引き犯だと疑われて、店を出た矢先に警備員が待機していた時は焦りました」
「それとは別に、自称凄腕ジャーナリストさんが従業員に変装してまで、ハイピスさんの迷惑行為を撮影しておりましたのよ」
「あら、何か迷惑をかけてしまっていましたか?まったく心当たりはありませんが……?この時間で私がした事と言えば、宗教勧誘と買い物だけですよ」
「はぁ……。心の熱も度が過ぎれば相手を火傷させますのよ。それよりもラムネさん。ほらほら、気をしっかり持って下さいですの。買った物を家へ送りますのよ」
ラムネは精神的に疲弊しているようだったが、フーランは彼女の日常的な発作だと思って強引に歩かせた。
それから3人は百貨店内に設けられている転移装置へ向かう。
そこは空港の持ち物チェックと同じくベルトコンベアが設置されていて、更にATMと似た外見の機器が備え付けられていた。
これは買った商品を自宅に送れるという有料配送サービスだ。
次々と他の利用客がタッチパネルを操作した後、回り続けるベルトコンベアの上に買い物カゴや箱など乗せている。
そしてベルトコンベアに運ばれた品物は転移装置であるゲートを通った瞬間に目的地へ送られているので、実に便利な運搬手段として利用されていた。
一応利用するに当たって注意するべき点があるのだが、フーランは細やかな説明を省いて操作方法だけ教えた。
「ラムネさん。これはタッチパネルを操作して、ここで代金を支払うですの。ただし送れるのはレジ会計を済ませた品物と、ここに用意されている転移専用の梱包材だけですの。もし私物類を送ろうとしてもコンベアに乗ったまま戻って来ますのよ」
「なるほど……。つまり、わちきを会計に通せば自分を送ることも可能なわけですね!」
「ふぅん。わざわざワタクシに訊くということは、今すぐ試してみますの?」
「えっ?いやぁフーランさん、そんな冗談ですよ~。あははっ、もう嫌だなぁ。そんな見放した目でわちきを見ないで下さいな~」
「そうですの。冗談を言えるくらい気分が回復したのなら良かったですのよ。さぁ他の人を待たせる前に、やる事を済ませてしまいますのよ」
ラムネはフーランに見守られながら買った商品を梱包し、ベルトコンベアに乗せて送った。
あとは商品が無事に転移されるのか、しっかり見届けるだけ。
そのはずだったのだが、奥から回ってきたベルトコンベアの上には体を丸めてうずくまったリビィが流れてきた。
「あっ、見て下さいフーランさん。リビィさんが帰って来ました」
「あれは帰って来たというより、送り返されたように見えますのよ」
2人は驚くわけでもなく、平然とした態度で冗談を言い合う。
そうしている間にフーランは運ばれてきたリビィをベルトコンベアから引きずり降ろして、慎重に床へ座らせた。
見たところ死神少女は外傷を負ってない。
だが、なぜか人生のドン底に落ちてしまった表情をしているので、全くもって無事という訳でも無さそうだ。
そのことに早く気が付いたハイピスは、フーランの肩越しから心配そうに覗き込んで声をかけた。
「あら、リビィ先輩?なぜベルトコンベアで流されてきたのでしょうか?別れてから数時間ほど経過していますが、握手会ライブへ向かったはずですよね」
「ミファ様とのジャンケンに勝ったら、ツーショット撮影ができるんだ。そして、その生写真にはサインまで描いて貰えるんだ……」
まるで脈絡が無い返答内容。
そのせいで全員が少し混乱する。
それでもハイピスはリビィが伝えたいことを懸命に理解しようとして、真摯な気持ちで受け答えした。
「あぁ、そういうことですか。要するにご褒美を賭けたジャンケンで負けてしまい、あまりのショックにベルトコンベアでいじけていたわけですね。ふふっ、子どもっぽいですね」
「違うんだ、そうじゃないんだ。リビィは見事ジャンケンで快勝を収めて、最高の体験ができたんだ。写真とサインも手に入れた。でも、消えたんだ」
「消えたとは?手に入れた写真を失くしてしまった、ということでしょうか?」
「そうなんだ。それで全力で百貨店内を駆け巡ったんだけど、見つからなくて困っているんだ。もう絶望で死ぬしかないんだ。死んでリビィは怨霊になるんだ。うあぁ……、世界が憎い。こんな無慈悲な世界なんて滅んでしまえばいいのに」
リビィは本気で落ち込んでいるらしく、これまでに無いほどネガティブな弱音を吐いた上に顔を俯かせたまま固まる。
大切な写真をすぐに失くしたのは自業自得かもしれないが、あまりにも可哀そうな出来事だ。
その同情心からフーランも真面目に話を聞こうとした。
「まだ諦めるには早いですのよ。まず、落とし物コーナーに尋ねましたの?」
「行った。そして通りすがる全従業員に訊いて、警備室に突撃して監視カメラの映像もリビィ自身が確認した。それなのに見つからないんだ」
「もしかして本当はジャンケンに負けていて、そのショックから現実逃避するために勝ったと思い込んでいませんの?」
「記憶の捏造なんかじゃないんだ。ちゃんと勝った瞬間の映像があるんだ。ほら、リビィのスマホで一通りの様子を撮影してあるんだ。SNSにも証拠写真があるのだ」
そうしてリビィが携帯端末を操作して見せてくれたのは、鬼娘姿にコスプレした女性とリビィの2人が笑顔満点で映っている画像だ。
ただ、なぜか生写真を持っている状態で更にツーショット撮影している画像だから、謎の二重撮りになっている。
おそらくコスプレしている女性がミファで、ファンサービスの一環でリビィの妙な要求に応えてくれたのだろう。
何がともあれ注目すべきところは、しっかりとサイン入り生写真が実在することだ。




