66.ゲームクリア。そしてソラちゃんは面白くて魅力的な友達です
フーランは最後の脅威を退けた後、この場に隠れているラムネへ向けて大声で呼びかけた。
「ラムネさ~ん!怖い悪者は、もう退治しましたのよ~!」
「うぅ~、フーランさぁ~ん」
ラムネは敵に追い詰められるという状況に弱いため、途中から声を殺して隠れていた。
だから彼女は不甲斐ない気持ちと安堵が入り混じった泣き顔で、半壊したコンテナの影から出て来る。
それから情けない声をあげながらフーランの所まで駆け寄った。
「ごめんなざい~!わちき、足を引っ張ってばかりで~!うぅううぅ~!」
「気にすることでは無いですのよ。いくらゲームとは言え、可愛い後輩のために頑張るのが先輩の務めですもの」
フーランは安心感を与える振る舞いで、優しく慰めた。
もはや後光が差して見えるほど女神だ。
それに底なしの優しさで接してくれるから、リビィやハイピス、更にセブンス店長には無い心地良さがある。
そのためラムネは思いつきで妙なことを言い出した。
「ひぐっ……、わちき……。家でもフーランさんにお世話してもらっているので、もうフーランさんと結婚します……!」
「あらま、リビィさんが聞いたら卒倒しますのよ」
「良いんです。リビィさんと結婚して、フーランさんとも結婚すれば良いんですから。これでわちきの人生は安泰です」
「リビィさんに限らず、セブンス店長の心配もありますのよ……。とにもかくにも奥へ行きますの。これからやるべきことは、ソラさんからのメッセージで理解していますのよ」
ここからはフーランがソラに代わって先行し、危険の排除に努めた。
ただゴールとしている操縦室は目前である上、ラムネのハッキングでセキュリティの類は既に無力化されている。
そのおかげで操縦室内に備えられていた侵入者対策は機能しておらず、警備に当たっていた少数のNPCもフーランが数瞬で全滅させる。
それからフーランが操縦システムに触れて、設定変更を施した。
「ボタン1つで済むくらいのお手軽操作で助かりますのよ。あとはシステムを再起動させて……、標的は残っている他のプレイヤー全員に変更。これでオシマイですの」
この設定変更は、自動操作されている他の戦艦と戦闘機にまで影響を及ぼす。
つまり標的変更を受けつけて、これら兵器は他プレイヤーを一方的に蹂躙し始めるのだった。
結果、フーランのように並外れた実力を持ち合わせてない他プレイヤーは1分足らずで駆逐され、隠れていたチームも降参する事態となった。
また、トップチームであるラムネ達の有利を絶対に覆せないとなれば、もはやゲームセットとなるのは時間の問題だ。
事実、間もなくしてラムネ率いる女子3人組チームがチャンピオンの座を獲得する幕引きとなった。
そして最終戦績などの公開データが全プレイヤーに共有された後、女性アナウンスの声がゲーム世界に響き渡ってきた。
『おめでとうございま~す!優勝は見事レモネード、ソラ、フーランの女の子チームとなりました~!これにて一度ゲームを終了させて頂きまぁす!皆さま、お疲れ様でしたぁ~!次の開催は20分後でぇ~す!』
大混戦の末、運営の気が抜けた終了宣言と共に全プレイヤーの視界が暗転する。
ゲーム終了の処理が滞りなく行われ、現実へ引き戻されたのだ。
その際に起きる感覚のズレは何とも奇妙で、身体能力が制限されていた人は窮屈だった世界から解放された気分だ。
特に、これらの体験が初めてだったラムネは現実世界の感覚を取り戻すのに手間取り、ヘッドギアの装置を外す前に体勢のバランスを崩した。
「あだっ!?」
彼女は周りが驚くほど豪快に転倒してしまう。
しかも転んだ拍子に、装着していたヘッドギアを破損させた。
鈍重な音と共に飛び散る装置の破片。
この事故とも呼べる緊急事態にスタッフは酷く慌て、ラムネに心配の声をかけた。
「だ、大丈夫ですか!?って、え?超特殊合金オリハルコン製のヘッドギアが壊れている……!?やばい、本当に大丈夫ですか!?」
「えっと、わちきは大丈夫です……。でも、その……すみません。これを外すの手伝って貰っていいですか?恥ずかしい話ですけど、外し方が分からなくて」
「は、はい。痛くても落ち着いて下さいね。慎重に……あれ?えぇ……?本当に無傷だ。この子、特殊合金よりも堅いの?宇宙戦艦の建造に使われている金属なのに……ありえない」
スタッフは鬼娘の尋常ではない頑丈さに驚き、軽く引いてしまう。
特殊合金が欠けるほどの衝撃を受けたとなれば、普通なら無事で済むわけが無いから当然だ。
実際問題、衝突を受けた床も視認できるくらい大きな傷跡がついている。
対してラムネは装置を外して視界が元通りになったとき、ヘッドギアが壊れたことを知る。
更にスタッフが狼狽していることに気が付き、この事態に遅れながらも慌てるのだった。
「ふわっ!?わちき、やっぱり壊しちゃいました!?すみません!ごめんなさい!本当に申し訳ございませんです!弁償します!」
「いえ、機材の方は大丈夫ですよ。おそらくヘッドギアに問題があったんだと思います。本来は惑星が爆発しても傷1つ付かない耐久性なので……。むしろ、お客様の体調に違和感はありませんか?念のため診察を受けた方が良いかもしれません」
「わちきは絶対に大丈夫です!それだけは自信を持って言えます!そして、ごめんなさい!」
ラムネは不本意だったとしても装置が壊れた原因は自分にあると考え、ひたすらに全力で謝り続けた。
それによって周囲の目を引き、悪目立ちする彼女に気が付いて声をかける女性が居た。
「やっほ~、レモネードさん。こっちでも賑やかなんだね~」
「はぇ?えっと……もしかしてソラちゃんですか?」
ハッと我に返り、ラムネは涙目ながらも落ち着いて言葉を返す。
そしてソラの方はやはりゲーム内で見かけた姿と大差なく、王道の美少女という言葉が似合う容姿だった。
ただ破天荒な性格も健在で、状況を察した彼女は大笑いする。
「にゃっはっはっは~!もしかしてもしかすると、ヘッドギアを壊しちゃったの~!?これは弁償ものだねぇ。高くつくよ~?」
ソラはニヤニヤとした表情で視線を送り、わざと不安を煽る。
するとラムネは素直に落ち込む様子を見せたので、すぐに発言を撤回した。
「もうレモネードさん、不安な顔をしないで!今のは冗談だよ!まったく、相変わらずカワイイの化身だね!ファンになっちゃうよ!」
「でも……、わちきが壊しちゃったのは事実ですもん」
「別に貴重品ってわけじゃないし、そんな気にする必要ないって!むしろ開発者的には、ケガ人が出る前に改善点を見つけられて喜んでいるよ!」
「そ、そういう問題ですかね?」
「そういう問題だよ!ねっ、スタッフさんも心配しているのは機材じゃなくてレモネードさんのケガだしさ!」
ソラはゲーム内でも交わした会話のやり取りを使って、ラムネの不安を払拭するよう励ます。
そして彼女の手を握り、とびっきりの笑顔を見せながら元気づけた。
「それより優勝おめでとう!ほとんどミファ……じゃなくて、この私ソラ様の活躍だったけど、レモネードさんのおかげで優勝できたのも事実だからね!つまり、こんなに気遣いできるソラ様の頑張りを褒めても良いんだよ?」
「えぇっと、ソラちゃんは凄いです」
「え~。ソラ様に送る称賛はそれだけなの~?」
「カッコ良かったです。あと褒め上手でした」
「うんうん。それからそれから?」
「何も知らないわちきに色々と教えてくれて嬉しかったです。親切で、一緒に遊べて楽しかったですよ!」
「かぁ~!レモネードさんってば、民度が良すぎ~!荒んだゲーマーの眼に差される目薬だよ!よっ、新参プレイヤーの鑑!」
「は、はい?よく分からないですけど、ありがとうございます」
ソラの独特な言葉選びにラムネは困惑を覚えるが、それでも心から楽しいと感じていた。
お互い深いことは何も考えておらず、完全に勢いだけの会話だ。
それくらい中身が無くて感情を揺さぶる要素は無いはずなのに、この時間が続いて欲しいと無意識に思えた。
おそらくゲーム内で共に苦境を乗り越えた戦友という経緯もあったからだが、ずっと一緒にお喋りしたり遊んでいたいと思える魅力がソラにはあった。




