65.武神の実力はゲームシステムすら凌駕する
ラムネの通信ジャックで混乱した戦況に更なる収拾不可能な混沌が上乗せさせられたとき、後方から追いかけて来るソラの声が聞こえてきた。
「レモネードさ~ん!ごめんね、大丈夫だった!?さすがにやりすぎちゃった!」
「あっ、ソラちゃん。へへっ、わちきは大丈夫ですよ。言われた通り、体力は最大にしてあります」
「にゃっはっはっは~、それは良い子だ!それにしてもレモネードさんって度胸あるね。変なことが起きて、みんなが凄い混乱している状況なのに」
「変なことですか?そういえば通信が妙にうるさかったですね」
「ホントだよ!誰の仕業なのか知らないけど、もうこの試合で一番とんでもないアクシデントって感じ!でも、今こそが勝利するチャンス!防衛機能が停止している間に攻略しちゃうよ!」
「おぉー!」
ソラの頼もしい態度に合わせて、ラムネは元気な掛け声で返した。
そこから2人はハッキングで更新されたマップデータを頼りに、操縦室付近まで直行する。
だが、操縦室へ繋がる道を進み続けていたとき、貨物コンテナと兵器が無造作に積まれた巨大空間に足を踏み込むのだった
「ふむふむ。レモネードさん、どうやらここを抜けたら操縦室みたいだよ。しっかし、ここで物置きエリアがあるなんて変な構造しているなぁ」
「ここに置かれている兵器さんも動いてないみたいですね」
「大半の機能が停止しているみたいだし、復旧に手間取っているのかもね。でも油断は禁物だよ。だって、こういう場合は最後の壁としてボスが現れて……」
ソラはゲームのお約束ごとを冗談半分のつもりで語った。
しかし、突如として貨物コンテナが重々しい音を立てて宙を舞った。
「へっ?」
響き渡る強烈な破壊音と予想外の出来事に、思わずラムネは目を丸くして立ち尽くす。
対してソラは反射的に彼女の腕を強く引き、回避行動へ移っていた。
「レモネードさん!」
ソラは滑り込みながらも銃を手に取り、戦闘態勢を整えると共に降りかかる脅威を視認する。
彼女が見た脅威とは、重火器装備の巨大な人型ロボットだ。
その見た目からして力と俊敏性、防御面の耐久性や体力が大幅強化されたプレイヤーと言える。
単純ながらも真っ当な強化アイテムで、操縦者であるプレイヤーは意気揚々と叫んだ。
『ひゃっは~!地上では良くも不意打ちをしてくれたなぁ~!百万倍返しにしてやるぜ~!』
「いや、誰?」
あまりにも大きなテンションの差を感じて、ついソラは冷たい態度で呟く。
それから彼女はラムネのことを気にかけながらも、弱点を見極めるために先制攻撃を仕掛けた。
しかし余りにも相手との相性が悪く、手持ちの銃ではロボットの装甲すら傷つけられ無くて無意味な発砲となってしまっていた。
これには苦笑いをしたいところだが、それでもソラは強気の姿勢を崩さずに明るく笑った。
「にゃっはっはっは~。こんなの真正面で戦う相手じゃないね。それでもソラ様は負ける気しないけどさ!」
『おいおいおいぃ~!笑っていられるのも今の内だぜぇ~!?』
敵からレーダーポインターを当てられて、彼女は攻撃される予兆を素早く察知する。
「レモネードさん走って!後ろの扉へ早く!退避!後退!」
「は、はい~!」
ラムネは彼女に体を押されながら一目散に逃げる。
直後、人型ロボットから複数の小型誘導ミサイルが発射された。
こうして惜し気もなく対物兵器を使用されてしまい、勝ち目が見えない現状にソラは叫んだ。
「もう反則だって!」
誘導ミサイルの半数以上は貨物コンテナなどの障害物に当たることは予見できたが、例えプレイヤーに直撃しなくても連続的な爆発ダメージは致命的だ。
それをソラは知っている。
だから彼女は捨て身の覚悟で、仲間のために銃でミサイルの迎撃を試みた。
「ソラ様のエイム力をなめないでよぉおおおぉ!!」
ソラによる決死の迎撃により、ミサイルは誘爆を引き起こして頭上で爆散する。
これで彼女の狙い通り、ラムネの被ダメージは最小限に抑えられた
だが、やはり防御を捨てたソラの方はほぼ瀕死に等しいHPまで削られてしまっていた。
『さぁ回復させる時間なんて与えないぜぇ!ミファさんよ~!』
「にゃっは~。個人情報を勝手に広めないでよ。ゲーム内で人様の本名を叫ぶとか、マナーがなってないねぇ」
『ミファを知らない奴なんて居ないからな!そんな心配は無用だぜ!』
「ってか、その傲慢で迂闊な話し方。地上で戦闘機を運んで来てくれたプレイヤーか」
『正解だ!』
敵プレイヤーはガトリング砲を起動させ、強烈な弾幕攻撃を放つ。
それは一瞬でソラの体を消し飛ばし、回避する間も無く倒してしまう無慈悲な攻撃。
これにより彼女が倒され、あとは初心者であるラムネを狩るだけだと相手は理解していた。
『さぁて、あとはもう1人の女の子を倒せば俺たちの優勝が目前だ。ここを吹き飛ばせる火力があるから、コソコソと隠れても無駄だからな~?』
またもや敵プレイヤーは勝利への確信という余裕を持つと、わざわざ煽るように喋りかけた。
しかし、当然ながらラムネからの返事は無い。
そのため相手はロボットを操作し、攻撃態勢に入った。
『ったく、おどおど逃げ回ったりして盛り上げてくれよ。無抵抗の相手を倒す場面ほど、つまらないことは無いからな。これだとネットニュースにもならないぜ』
「同感ですの。だから精一杯に抵抗して欲しいですのよ」
『あん?』
敵が疑問の声をあげたとき、1人の女性プレイヤーがロボットを前に凛と立ちはだかっていた。
兵士らしい恰好でありながらも長い金髪の立ち姿が映えていて、思わず溜め息がこぼれるほど容姿端麗だ。
何より迷いを感じさせない一糸乱れない姿勢が美しく、思いがけない美人の登場に相手は見とれていた。
『おっと、ついに来たな。麗しくも最強のプレイヤーさん』
「素直な褒め言葉として受け取っておきますのよ。けれど、それとは別に倒させて頂きますの」
金髪の女性フーランは冷静に喋った後、その場で忽然と姿を消す。
それは本当に消えてしまったのか不明であり、この時点で相手の理解の範疇を超えていた。
直感的に湧き上がる感情は、このままだと撃破されるという漠然とした不安だ。
だから相手は倒される前に倒そうとミサイル、ガトリング砲、レーザービームなど全兵装を起動させて周囲全体を破壊しようとした。
だが、遅い。
『がっ!?こ、こんなことあり……えるのか!?』
レーザーの刃がコックピットを貫く。
一瞬で、なおかつ一撃目で敵の急所に当てる。
これほど完璧な芸当、仮に透視を使用していても馬鹿げているとしか言いようがない。
ただ実現させてしまうのがフーランの武術であり、その練度の高さから武神と呼ばれるわけだ。
『こんなのチートだろ……』
「申し訳ない事ですけれども、技を極めれば身体能力の制限など大した問題では無いことですのよ」
『酷い言い訳だぜ……。運営が想定しない動作はチートと同義だろうが』
「なるほど。それは一理ありますの」
フーランは強者の余裕として相手の意見を肯定した後、武器を振り切る。
それによって敵の胴体を軽々と切断して、残っていたHPを根こそぎ奪うのだった。




