64.破壊の才能が炸裂し、戦場も無意識に破壊する
「みっけ!これが本拠地だね!」
ソラが本拠地と呼んだ浮遊物体は、空中戦艦を数百単位で収容できる円盤状の要塞基地だった。
というより、もはや巨大過ぎて円盤状なのかも分からないほど。
何であれ次々と空中戦艦を出撃させており、大群を生み出す様は無敵と言っていい存在感があった。
ただソラは気後れせず、むしろ冷静に状況分析していた。
「さっき戦闘機に乗ってきたプレイヤー。やたらと余裕そうだなと思ったら、これが追加アイテムの全貌ってわけね。そりゃあ余裕ぶっちゃうよ」
「ソラちゃん。あの大きな物体……最早なんでしょう。世界樹より遥かに大きいです。本気でアレに突撃するのですか?」
「うん」
「怖いので降参しません?わちきの体が震えてます。こっちはハイピスさんが脅迫を受けてますけど、これだと優勝なんて無理そうですし……」
「にゃっはっはっは~、今更の提案だね。それに怖いという気持ちも全部含めて、この時を楽しもうよ!さぁ行くよ!」
ソラは堂々と言いきった後、問答無用に戦闘機を全速前進させた。
当然、敵は迎撃システムを活用してくる。
それでもソラの卓越した操縦と観察力、そしてフーランのサポートだけで強行突破を試み続けた。
絶え間なく続く苛烈な攻撃と爆発音。
一向に減る気配が無い敵の群れ。
やがて戦闘機は被弾して損傷を受け始めてしまうが、そこまでソラは計算し尽くして円盤基地の接近を続けた。
「ソラちゃん!乗り物がボゴンボゴンと悲鳴をあげてますよ!」
「にゃっはっはっは~!大丈夫大丈夫!だって、これはゲームだからね!つまりどれだけダメージを受けても、完全大破するまで万全時と変わらない性能で動ける!」
「そういう問題ですか!?」
「そういう問題だよ!そしてソラ様お手製の超機能を起動!強制連結の自動転送転移L点だよ!さぁ、これで目的の基地内へワープ!」
ソラが意味不明な専門用語を発した直後のこと。
彼女らが乗っていた戦闘機は輝き、光りそのものへ変わる。
同時に激しい衝撃と爆発音が彼女ら3人に襲いかかり、凄まじい勢いの回転で体と視界はメチャクチャとなった。
最悪とも言える事態に巻き込まれ、まだ生きているかどうか分からない。
そもそも何が起きたのか、何ひとつ把握できてない。
ただ最初に分かったのはラムネのHPは残っているということだけだ。
「いたたっ……。うぅ、一体何がどうなったのでしょう。急に揺れて、何も見えなくなって、それでドカーンとなって……?」
ゲーム内のおかげでラムネの五感は正常に機能しており、普段より情報処理が早かった。
要はアクシデントが起きても鮮明な思考状態が保たれている。
しかし、それでも彼女は混乱した。
ざっくりと言ってしまえば、現在ラムネは長い通路に座り込んでいる。
四方八方が機械仕掛けの閉鎖空間であって、おそらく目的としていた円盤の基地内部なのだろう。
ここで最大の問題は、ソラとフーランが見当たらず孤立していることだ。
しかも閉じ込められている状況でもある。
「多分成功した結果だと思うのですけど、あまり喜ばしくない状況な気もします……。何がともあれ、体力はいっぱいの状態にしないといけないですよね」
ラムネはソラの言いつけ通りHPを最大状態にするよう努めた。
たどたどしい操作で回復アイテムを取り出し、不慣れな様子で使用する。
そして彼女は回復中にソラのレクチャーを思い出して、マップを表示した。
「たしか、お仲間さんの現在地が見られるはずです。でも、うーん?近くに居るということしか分からないですね」
まだ表示のやり方を知っているだけで、細かな操作方法を熟知しているわけでは無い。
そのせいで詳細な調べ方が分からず、いつもの癖で直感に頼った操作を繰り返す。
現実世界のラムネなら、これでシステムを破壊しているところだ。
ただし今回は何らかの拍子で基地のデータバンクにアクセスし、図らずともラムネは円盤の内部構造を知れる事になった。
「色々と出て来ました。そして、うーんと?」
ラムネは更に闇雲な操作を続ける。
すると今度はデータの読み取りのみならず、防衛システムのセキュリティコントロールに干渉した。
それから僅か数秒後、全てのハッチと扉が解放される。
「おぉー。なぜか都合良く扉が開きました。これで先に進めますね。本当に先がある道なのか、わちきには分からないですけど」
彼女は、自分がシステム干渉してハッキングしたという自覚を持たず、ただタイミング良く開いたのだと安直に思って歩き出す。
そうして足を進める間もラムネは操作を続けて、次に通信連絡を取ろうと試みた。
だが、実際は彼女のハッキングが進行するのみで、円盤基地の機能を通して全チームの通信に干渉する。
「もしもーし、皆さん聞こえますか~?」
ラムネはソラとフーランに向けて呼びかけたつもりだ。
しかし、応答してきた声は数十人分で酷く混線していた。
『おい、誰だ今の声は?急にどうなっている?』
『こちらAチームの説得に成功。戦略利用した後、処理する』
『裏切りか?まぁ共同戦線なんて生ぬるい仲良しごっこは性に合わんな。戦闘ゲームならば闘争本能に従うべきだ』
『ふざけるな!追加アイテムで出した味方NPCから撃たれたぞ!なんだ、別チームか!?くそっ、初期化のバグか意図的なのか判別できん!』
『ライトセーバーを曲芸みたいに振り回すバケモノがいる!いや、こいつは映像の……ひぎゃあ!?』
『通信システムをジャックした挑発行為だと?まさかトップチームにも追加アイテムが配られたのか?それとも鹵獲か、2位狙いのチームがいるのか?』
『さっきから勝手に喋っている奴らは誰だ?なぜこんなことになっている?ちっ、音量設定がメチャクチャでプッシュトゥトークやミュートも機能してない』
『クラッキングされているぞ!どこのチームの仕業だ!?マップの味方表示もかく乱されている!他の表示も狂って致命的なラグまで起きているぞ!』
一斉に騒々しく、慌ただしい声が流れ込む。
この事態にラムネは目を丸くさせるだけだが、通信機能の破壊で与える戦況変化は計りしれない。
なぜなら今は、どのチームも追加アイテムで圧倒的な火力を持っている。
そのせいで小さなミスや誤解が同士討ちに繋がり、別チーム同士の協力どころかチーム内でも不和が起きていた。
特に今回はイベントで開かれた試合のため、顔見知りだけで組まれたチームは皆無だ。
よって信頼関係が無いことから軽率に荒らし行為だと断定されたり、自分の活躍に邪魔だと判断して仲間を見捨てる始末。
また混乱に乗じて勝ち上がろうとするチームも当然いるわけで、ついにゲーム環境がプレイヤーの手によって崩壊する。
当然ラムネはそんな悲惨な事態が起きていることを知らず、不思議そうに首を傾げた。
「この通信機能というのは、こんな風になるものだったのですね。上手く聴き取れませんでしたし、やっぱりわちきには難しいです」
誰が応答してくれたのか分からない上、切迫した声は無意味に不安を煽られるだけだと考えてラムネは通信を切った。
合わせて全プレイヤーの通信が強制的にシャットダウンし、突然全員が孤立する状況へ陥ってしまうのだった。




