63.初めての戦闘機は楽しいですけど凄く大変です
戦闘機なのにユラユラと揺れながら浮遊し始める様子は、もはやヘリコプターの離陸だ。
通常では考えられ無い挙動に思えるが、ゲーム世界という観点を排除しても、この世界の技術力なら些末な出来事だろう。
何より、そのおかげで離着時に滑走を必要とせず、次第に戦闘機は一定の高度へ達する。
「ドレミファソラシ号!いくよ!」
ソラが不思議な掛け声を発した瞬間、戦闘機は初速から爆発的な速度を発揮して一気に空中を突き抜ける。
その際に生じたソニックブームで周囲の大気を揺らす中、戦闘機は飛行しながら透明体と化した。
「第一視覚ステルス、第二欺瞞ステルス機能を起動。そしてジャミングポッドを射出。機体シールドの出力を制御っと」
「わぁ、ソラちゃんが色々と頑張ってくれてます。何を言っているのか分かりませんが、カッコいい雰囲気が伝わってきますよ!」
「レモネードさん、そんなにテンションを上げて喋ったら舌を噛んじゃうよ?」
「えっ。わ、分かりました!気を付けて…あひぃ!?」
話している途中で戦闘機が急旋回したため、ラムネは揺れた際に舌を噛んでしまう。
それによって彼女が口内を痛がる一方、ソラはレーダー表示を切り換えながら荒業と呼ぶべき操縦を繰り返す羽目になっていた。
「やっば、もう狙われている!少しくらいは情けをかけて欲しいな!」
コックピットからの視点だけでは状況を掴みきれないが、実は既に各方々から無数のレーザー光線とミサイル、そして実弾が撃たれていた。
迎撃行動に移っているのは上空を漂う空中戦艦と、彼女らを迎撃するために出撃してきた他の戦闘機たち。
しかも一機の戦闘機に対して過剰な猛攻撃を仕掛けてきており、圧倒的な物量で押し殺しに来ていた。
「そ、ソラちゃ~ん!わちきの目がぐるぐるで、耳がキンキンで、あと体力が減ってまふ~!こんなとき、愛馬のバビブベ……っいたぁ!?またわちきの体力がぁ~……!」
「舌を噛み過ぎ!レモネードさんは常にHPが満タンになるよう回復してて!それと最悪の乗り心地でごめんなさい!」
「ら、大丈夫れふよ~!まだ乗ったこと無いですけど、遊園地の乗り物みたいで楽しい気も……いっだぁ!?」
ラムネは戦闘機の強烈な勢いに体を振り舞わされ、今度は打ち身に遭う。
それで更なる体力消耗に繋がっている間も、ソラは危機的状況を打破しようと反撃していた。
ただ敵機を撃破しきるには至らず、むしろ時間経過毎に増援が来て熾烈な猛攻を受けてしまう。
そんな折、一切の前触れなく空中戦艦の一隻が爆発炎上を起こすのだった。
「にゃは!?なになになに!?ついに同士討ちした!?それとも別チームが漁夫の利を狙ってきてくれたの!?」
状況を変えてくれるのなら、どんな出来事もありがたい。
そう思っていたとき、1人のプレイヤーが燃え上がる戦艦から飛び降りた。
しっかりと視認できたわけでは無いが、生身のままだったから退艦するために飛び降りた可能性が高い。
むしろそれ以外に考えられ無いはずだったが、今回はイレギュラーだった。
その飛び降りたプレイヤーはまるで想定通りの事態だと言わんばかりに、全く体勢を崩さないまま別の敵機へ降り立つ。
それから高エネルギー密度の長剣を振りかざし、いとも簡単に一刀両断してみせるのだった。
この一連の出来事にソラは驚きを隠せず、素直に歓声をあげる。
「なに今の!?スーパープレイじゃん!ってか、できるものなの!?あんな身のこなしバグだよ、バグ!」
並外れた攻撃手段もそうだが、プレイヤー自身の大胆な行動力には目を見張るものがあった。
しかも立て続けに撃破していく上、あえて中途半端に破壊することで行き先をコントロールしている素振りまで見受けられた。
尋常では無い光景にソラが圧倒される傍ら、ラムネは単身で戦闘機を迎撃するプレイヤーの正体を偶然にも捉えた。
「わぁ!あのピョンピョンと移動している人、フーランさんです!さすがですね!」
「にゃは、マジで?薄々そうかもとは思ったけど、やりすぎでしょ。ソラ様が敵だったら、絶対にチートだと思って通報しちゃうよ」
「そうですか?でも、フーランさんなら目で追いつかないくらい早いのが基本ですよ。仕事の時も、わちきが商品を落とした時は手で受け止めてくれます」
「にゃは~。もしかしてでもしかすると、レモネードさんのエピソードトークって基本的に失敗談だったりする?」
「えっ……。そ、そんなこと無いですよ。多分……。えっと、それよりフーランさんからめっせーじが届いてますよ!乗せて欲しいそうです!」
「まじか。簡単に言ってくれるけど、高速移動している物体に接近するのは至難の業だよ~。それにソラ様たちは絶賛集中砲火されているしさ~」
ソラは弱音を吐く。
しかし発言とは裏腹に全方位の射線と挙動を先読みし、目標の敵機と飛行経路が重なるよう機体制御した。
これまでの様子を見る限り、チャンスさえ作ってあげればいいだけだ。
あれこれと気遣う必要は無く、フーランのスーパープレイを信頼するのみ。
「ぶつからないように、っと!!」
そしてソラは速度をほぼ落とさず、目標の機体と超高速交差させた。
するとフーランは彼女らの機上へ乗り移っており、更にはリラックスした態勢でハッチ後ろに座っていた。
「にゃっはっはっは~。ようやく合流できたね。これで最強戦力を拾えたわけだから、あとは一気に決着ををつけようか。今のソラ様たちの状況からして、早期決着以外で勝利は難しいからね」
「具体的にはどうするのですか?」
「戦艦へ突っ込んでコントロールを奪う。それを利用して一方的に蹂躙するって算段だよ!」
「相手との立場を逆転させるわけですね」
「その通り!ソラ様ほど戦略的で機体操縦が上手なプレイヤーは存在しないし、フーランほど無敵なプレイヤーも居ない!だから奪えさえすれば、あとは全部こっちのもの!フーランもオッケー?」
『分かりましたですの』
フーランは外部という騒々しい状況でも話を聞いており、通信で即答する。
それからソラはどの戦艦へ突入しようかと見定めているとき、ふと思い立って高々度へ向かって機体を急上昇させた。
これによって急激な負荷が体に圧し掛かる中、ソラは雲を突き抜けた先で超巨大建造物を目視するのだった。




