60.キャリーして貰います
『レモネードさ~ん。生きてる~?』
ソラ様からの通信により、ラムネの意識は覚醒する。
まだ無事に生きているらしいが、またもや状況が一変としている。
いつの間にか現在地は変わっており、巨大な滝つぼが流れるジャングル地帯だ。
鬱蒼とした森が生い茂っていて、これまでに無いほど暗くて見通しが悪い。
「もう夜になったのですか……?」
ラムネは空を見上げるが、その視線の先は深淵だった。
まるで空そのものが無く、朝や夜の概念が取り払われているみたいだ。
また視界もせいぜい2メートル先までしか認識できず、そこから先は完全な暗闇として表示されている。
音と臭いは問題無く知覚できるが、他の情報は遮断されているに等しい状況下だ。
「あぁ、そういえばげーむ世界でしたっけ。変な感じです」
『もしもしレモネードさ~ん?応答がないなぁ。もしかしてでもしかすると、死んだショックで気絶しちゃった~?』
「あっ、え、あの……。大丈夫です。目が覚めました」
『それなら良かった。ゲームでも気絶することはあるからね。とりあえずレモネードさんは惜しくも1回アウトを受けて、別のエリアにリスポーンしたから。そこは隠密特化のステージ環境だから、今度は隠れやすいと思うよ』
「多分、分かりました。気を付けます……。それでソラ様さん。あの、ごめんなさい」
『え~?急に謝ってどしたどした~?』
「わちき、倒されたらダメな役割だったのに、もう倒されちゃいました。仲間の足を引っ張っていますよね……」
ラムネは相手に迷惑をかけることに対して敏感である上、その事実が何よりも辛く感じる性根だ。
だが、そんな彼女の心配を聞いてソラ様は大笑いする。
『にゃっはっはっは~!もう、何を言っているのさ!これはゲームだから楽しまないとね!それに大丈夫。まだ負けたわけじゃない!ここからはソラ様がトップランカー級エイム力で無双しちゃうよ~!』
「えへへ……。ずっと分からない言葉ばかりですけど、ソラ様さんは頼りになりますね」
『ってか、呼び方が堅苦しいよ?もうフレンドでチームメイトなんだから、ソラちゃんって気軽に呼んで欲しいな』
「は、はい!ソラちゃ……」
お願いに応えるため返事しようとした瞬間、鳴り響く発砲音と共に緑色に光る銃弾がラムネの頭を掠めた。
曳光弾だ。
「わっ!?あえ!?もう攻撃されました!?」
『はっ?なにそれ、リス狩りじゃん!運営は対策してないの!?』
「ど、どどどどどしましょう!?」
『とりあえず声を抑えて地面へ伏せる!1チーム3人編成だから相手に挟み撃ちする余裕は無いよ!今すぐソラ様が応援に駆け付けるから耐えて!』
「わっ、分かりました!」
ラムネは混乱しながらも咄嗟に伏せる。
しかし、その1秒後には宙を埋め尽くす量の銃弾が突き抜けていった。
手当たり次第の酷い乱射攻撃だ。
慈悲を全く感じさせない銃撃音は凄まじく、空気が震えているのを肌で感じられるほどだ。
「ひっ、ひぃ~!?なんでこんなに撃たれるのですかぁ~!?」
どう考えても過剰な一斉攻撃だが、そこから一歩も身動きが取れない威嚇射撃にもなっている。
ただこのとき、偶然ラムネは僅かな傾斜へ身を隠している状態だった。
そのおかげで銃弾が間一髪直撃せずに済んでいるものの、回避どころか退避できない状況だ。
だからラムネは即死を免れているだけで絶壁に追い詰められた獲物同然。
そんな絶体絶命の淵へ立たされた直後、発砲音とは比べ物にならない轟音が頭上から響き渡ってきた。
「うひゃあ!!?今度はなんですか!?」
情けない悲鳴が搔き消えるほどの轟音は、巨大物体が高速で移動していることによって発生しているものだ。
間もなくして凄まじい爆音と衝撃が同時に巻き起こる。
今度は大気が震えるのみならず、大地が激しく震えあがった。
更に眩しい閃光が迸り、熱風を感じさせる火炎と煙が天を衝く勢いで立ち昇る。
合わせて弾けた土砂と木々が宙を舞う始末であって、尋常では無い攻撃が行われたことは間違いない。
あらゆる騒音が混ざり合っていたので確信は無いが、心なしか悲鳴も聞こえた気がする。
それから数十秒後。
ラムネは頭に降りかかった土砂を乗せたまま、銃撃音が止んだことに少しだけ安堵した。
「あ、あれ。やっと終わりました?」
相手の攻撃が止まったのか。
それとも自分が再びやられてゲームが終了してまったのか、まだ判別ができない。
そのせいでラムネが1人呆然と辺りを見渡す中、土を踏みしめる音が聞こえてきた。
これにより彼女は慌てて身を隠そうとするが、その前に呼び掛けられるのだった。
「レモネードさ~ん。もしかしてでもしかすると、爆発に巻き込まれてない~?」
通信で何度も聞いた女性の声だ。
つまりソラが助けに駆けつけてくれたのだとラムネは理解して、大声で返事をする。
「だ、大丈夫です!わちき、まだ生きてます!」
「良かった。誤爆ほど後味が悪いことは他に無いからね」
そう言いながらソラはラムネの前に姿を現す。
ゲーム内だから装備一式の見た目はラムネと似ているが、容姿は現実が反映されているのか全く異なる。
背丈が同じくらいの可憐な少女という風貌で、淡い栗色の髪と黄金の瞳が目についた。
そして整ったナチュラルメイクが印象的であり、雰囲気だけならセブンスに似ている気がした。
この事によりラムネは親近感を覚え、人見知りという態度は控えめになっていた。
「えっと、ソラちゃんと呼んだ方が良いんですよね。助けてくれたみたいで、ありがとうございます」
「にゃっはっはっは~。共に勝利を目指すチームメイトだからね。助けて当然で朝飯前だよ!」
「ところで、さっきの攻撃は凄かったです。なんかドカーン!ってなって、ボボボボ!って感じでした!」
「燃料満載の航空機でダイレクト特攻したからね。それで相手を全滅させたけど、まだ1回目だから既にリスポーンしているはずだよ」
「……はい」
「にゃっはっはっは~。何も分からないって顔をしているね。まぁ大丈夫だよ。これくらいソラ様にかかればハンデにもならないからさ!」
そう言ってソラは慣れた手つきで自分のメニュー画面を操作し、3本の注射器を召喚する。
それから躊躇いなく首に次々と注射器を刺す姿は異様だが、同時にゲームっぽい簡略だとラムネは思った。
「ソラちゃん。ところで、わちき達にはもう1人味方さんがいるんですよね?」
「そうだよ~。だけど、なぜか応答が無いんだよねぇ。放置プレイはありえないし、ちゃんと名前は出ているから3人組なのは間違いないはずなんだけどな」
「名前……。あの、操作方法を教えて貰って良いですか?」
「さっきの音で他チームに居場所を悟られているから、移動しながらね。他にも基本的な操作をレクチャーしてあげるよ」
ソラは使い切った注射器を投げ捨てた後、ラムネと肩を並べながら歩きだした。
その間に簡単な説明をしつつも、彼女は周囲の警戒と武器の構えを怠らない。
またラムネに教えたのは表示情報の見方とアイテムの使用方法、そして合図を出したときに射撃するという簡単な作戦だった。
「これでレモネードさんは最低限のことはできるかな。一緒に頑張って協力して楽しもーぜ!」
「はい、色々とありがとうございます。それでもう1人の味方さんの名前は……あれ?フーランさん、です?」
ラムネがチームメイト一覧を見たとき、そこにはフーラン先輩の名前が表示されていた。




